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夜明けのマーメイド  作者: 滝沢美月
ロスタイム
32/33

魔法使いになるって楽しいもんです side浅葱

※ 拍手お礼小説として載せた第22.5話です。少し修正しました。



 魔法使いになるって楽しいもんです――

 俺はちらっと後ろに視線だけを向けて、巨大なぬいぐるみを抱えた柳と瑠花が歩き始めたのを確認してにやりと笑う。

 夏の終わり、瑠花が柳のことで悩んでいると知って、俺はどうにかしてやりたいと思って考え付いたのが今回のクリスマス会大作戦!!

 水泳部としてやる会だったら別に口実はクリスマス会じゃなくてもなんでもよかったんだけど、いちお、俺達受験生じゃん?

 実は――、俺は推薦入試で一足先にもう大学は決まってるけど。

 クリスマスが一番、らしいって思えて。

 瑠花になんでクリスマス会? って突っ込まれて、佐々さんに口実はどうでもいいんだよって言われた時は俺の計画がばれてるのかってちょっと焦ったけど、乗り気じゃない瑠花も佐々さんを誘えば必ず来るっていうだろうって誘ってみた。

 この作戦を思いついてから四ヵ月もかかってしまって、その間、瑠花がなんだか抜け出せない迷宮にはまったみたいに悩んでいたのは知ってたけど、俺としてはいろいろ作戦を練ったり根回ししたり、準備する時間があったから、今回の作戦は成功する自信がある。

 まず、水泳部のクリスマス会ってことで柳を誘う。断られる場合も考えて、カラオケで少し遅くなるから保護者役で来てほしいってことと、それとなく瑠花も来ることを伝えた。

 柳は意外なほどあっさり行くといって、予想通り少し遅れるって言うから、二次会は十五時からでジョニサンに集合だと伝えた。

 間違えたんじゃなくて、あえてジョニサンと伝えたんだ。

 柳が参加することはギリギリまで伏せておいて、ボーリングからカラオケへの移動中に瑠花に集合場所を間違えたと言って柳を迎えに行かせるのが作戦第一段階。

 もちろん、瑠花にはジョニサンじゃなくて違う場所を教えて、二次会の開始時間から遅れさせるようにした。そうすれば、柳も瑠花とお茶ぐらいするんじゃないかって思ったから。

 瑠花は、柳に気持ちを伝えたら困らせるとか、生徒との間に一線引いてるとか言っていた。確かに、柳は温和な笑顔でさりげなく線引きをしているのは俺も気づいている。でもさ、それって他の女子生徒に対してだろ?

 瑠花にだけは、柳の態度は明らかに違っているじゃないか。

 廊下ですれ違うたびに水泳部員だからってどうでもいいような用事を押し付けられるって言ってたけど、俺が知ってる限り、瑠花だけだろ? そんな用事押し付けられてるの……

 水泳部って名目で柳はうまく誤魔化してるけど、水泳部員から見たら柳が瑠花を特別扱いしているのなんか一目瞭然だろ?

 まあ、うちの部員たちはそれを冷やかしたりしないいい子ばかりだから、余計瑠花は自覚がないんだろうけど……

 とにかく、柳は瑠花に少なからず好意を持ってるだろ?

 しかも最近、瑠花は柳を避けてるっぽいし。二人きりで話す絶好の機会を柳が逃すとは俺には思えない。

 でも、作戦ってのはこれだけで終わりじゃない。

 一次会のボーリングに大事な役割がある。

 俺と瑠花の両親はちょうどボーリング世代で、子供の頃からよくボーリングに連れて行かれてて、俺も瑠花と何度もボーリングに行っているから知ってるんだ。

 瑠花がめっちゃボーリングうまいってな。

 ボーリング大会やれば、絶対に瑠花は上位に食い込むって予想できた。

 ん? もちろん幼馴染自慢だよ。

 で、用意したのがバイト先の巨大なうさぎのぬいぐるみ。売れ残りの在庫処分で格安で譲ってもらった。

 で、クラスのやつにカラオケ王国でバイトしてるのがいるから、ぬいぐるみはあらかじめ置かせてもらった。決して、運ぶのが面倒だったからじゃないからなぁ~。

 持ってて瑠花に見られないようにしただけだ。

 ぬいぐるみ以外にちゃんと一位から三位の景品は用意していて、瑠花がボーリングの上位になったら、もともと用意していた景品とすり替えるっていう作戦。

 最悪、上位に入らなければ、俺からのクリスマスプレゼントとか適当に理由をつけて渡すつもりだった。とにかく、瑠花に渡すことが重要だから。

 そうすれば、瑠花なら絶対に俺に代わりに運べって言うと思ったから。

 生まれた時からの付き合いだからな、瑠花のことはだいたい分かってるつもりだ。

 まあ、チャリで運ぶのはかなり大変だもんな。

 でも瑠花だって、そこで最終兵器が飛び出すなんて予想もしていないだろうけど。

 シンデレラに魔法をかけたのは魔女だったけど、もしも魔法使いだったら、綺麗になったシンデレラを王子の元になんて行かせたくないって思ったかもしれない。

 でも、瑠花はシンデレラじゃなくてマーメイドだ。

 だから俺は魔法をかけてあげる。

 瑠花が幸せそうに笑っているのを想像して、俺はふっと笑みを深くした。




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