それでも幸せを望む side浅葱
※ 拍手お礼小説として載せた第14.5話です。
「もしかして、瑠花にとってこれが初恋……?」
俺の質問に、瑠花はもともと大きな瞳をさらに大きく見開いて、俺を見ている。それから一度俯いて、なにかを考えるように首をかしげてから言った言葉はあまりにも小さくて、でも、しっかりと俺の耳に届いた。
「あのね、今だから話すけど、私の初恋は――浅葱だよ」
なんともいえない表情で笑う瑠花を俺は呆然と見つめ返してしまった。
時効とか言うから、そんな言えないような恋でもしていたのかとドキっとしたけど、それ以上に瑠花の言葉に動揺している自分がいた。
なんだ、そーなのか……
それは言葉にはならなかった。
俺が知る限り、瑠花はいままで誰かと付き合ったことはないはずだ。だから。柳を好きになったのが初恋だと思って聞いたんだけど……瑠花の初恋が俺――?
俺だっていままで誰かと付き合ったことはない。俺の初恋は瑠花で。もうずっと小さい頃から瑠花だけが好きだった。
恋に興味を示さないでひたむきに水泳と向き合っている瑠花に、俺はずっと好きって伝えられなかった。
あまりにそばにいすぎて、近い存在すぎて、話さない時期もあって。それでもやっぱり俺は瑠花を好きだと思った。でもそれは恋とかそんな言葉で言い尽くせるようなものではなくなってしまった。
形にするなら、友情と愛情のまじりあった感じ。
ただ、瑠花が楽しそうにしててくれたらいい。嬉しそうに笑ってくれたらいい。幸せになってほしい――
その隣にいるのが俺じゃなくても、それでも瑠花が幸せであることを望んでいる。
そんな穏やかで温かい気持ち。
瑠花はいつ頃、俺を好きでいてくれたのだろうか?
俺達、すれ違っちゃったんだな。
でもそれを聞けてやっと吹っ切れた気もする。
「聞けて良かった……」
切なさを胸に秘め呟いた声は、瑠花には聞こえなかったらしい。
今更、俺の初恋も瑠花だったといっても仕方がないだろう。ただでさえ、柳を好きになって悩んでいる瑠花を困らせたくない。
「なに? ごめん、聞こえなかった」
聞き返す瑠花に俺は苦笑してぜんぜん違うことを言う。
「水泳に対してはスランプになろうと俺が止めるのも聞かずにとことんぶつかっていくだろ? 柳に対してもそうしてみればいいじゃないか。つまずいたら立ち上がって、落ち込んだら立ち直って、弱気になったら顔を上にあげて。それが瑠花だろ?」
そんな瑠花だから、幸せになってほしい。
俺はずっと瑠花を見ていたから分かる。瑠花と話す柳はほんのちょっとだけど他の女の子よりも柔らかい笑みを向けていることにも気づいたんだ。
ここ最近の二人の話している姿を見てたら、柳も瑠花のこと好きなんじゃ……って思うけど、自分が柳にとって恋愛対象外だと全否定する瑠花になんと説明したらいいか困る。
たぶん、根拠ないとかってばっさり切り捨てられそうなんだなぁ……
その様子がリアルに想像できで苦笑する。
柳が瑠花を好きだって証拠をつかんで、びしっと目の前に突き出してやらないと理解できないと言うように悩ましげな顔をする瑠花を見ていたら、どうにかしてやりたい気持ちになってくる。
もともとない脳みそをフル回転して、あれこれ考えた末、俺はちょっとした作戦が思い浮かんだ。
説得がだめなら実力行使か……
「とにかくさ、もっと気持ちをアピールした方がいいって! 絶対、うまくいくから」
俺は鼻息も荒く、瑠花にそう言い聞かせる。
ここはやっぱ、幼馴染としてひと肌ぬぐところだろ?
とっても楽しい作戦に、今から俺はわくわくしてきた。
ちなみに瑠花が聞いた「俺も紫藤が可愛いと思うよ」っていうのは浅葱が照れ隠しでみんなに合わせていった言葉です。
みんなの前で瑠花が好きとは言えなかったんですよ……




