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夜明けのマーメイド  作者: 滝沢美月
後半戦
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21/33

囚われたのは



 薄暗い室内を赤や緑などのカラフルなライトがくるくる回りながら照らしている。

 カラオケ王国の四十人ほど入れる細長いパーティルームの中で、私は後輩が歌っているのをぼぅーっと聞き流していた。

 浅葱から押し付けられた特命でジョニサンに柳を向かいにいき、柳とカラオケ王国に来たのは三十分ほど前。

 結局、パフェを食べてお茶までゆっくり飲んでしまったから、カラオケ王国についたのは二次会の開始から一時間以上が過ぎていて、みんなはすっかりカラオケで盛り上がっていて、遅れていたことには突っ込まれなかったし、柳のこともなぜだかみんな歓迎ムードで。

 もしかして柳が来るって知らなかったのは私だけ……? とか首をかしげてしまったくらいで。

 とりあえず一曲歌えと浅葱に言われ――一応元女子部長ということで、最近のでノリのいい曲を歌ってドリンクを取りに行って、それからはずっと端っこの席で座っているのだけど――

 ちらっと視線だけを横に向ければ、私の隣にはダークグレイのスーツを着た柳が座っていて、端正な横顔に思わず見入ってしまう。

 薄暗い照明のせいなのか、ライトの陰影でいつもより素敵に見えてしまうのだから、不思議だ。

 終業式ではきっちり締めていたネクタイも今は外されて、Yシャツのボタンは二つほど外されている。そんな恰好をしていると、スーツっぽくなくて制服にも見える。

 もしも、柳が先生じゃなくて同級生とかだったら、私は柳の言葉に迷ったりしなかったのだろうか……

 そんなあり得ない“もしも”を考えて、誰にも気付かれないように小さな吐息を漏らした。

 しばらくして、ドリンクを取りにいって戻ってきて菫が私の隣に座った。さっきまでは奥の方の席にいたのだけど、他の子も飲み物やトイレで席を立った時にちょっとずつ席を移動していた。


「お疲れさま」


 癒されるようなにっこり笑顔で言われて、私はなんとも言えない表情で苦笑する。

 菫の声は私だけに聞こえるような小さな声で、部屋の中では次から次へと歌っていくから、曲の大音量で隣の人とでも顔を寄せ合わないと声が聞こえないくらいだった。

 私は菫の方に少し顔を近づけて話しかけた。


「戻って来るの遅くなってごめんね」

「ううん、大丈夫だよ。桃原君が話しかけてくれるし、他の水泳部の子も気さくで楽しくやってたよ~」

「それなら良かった」


 知り合いのほとんどいない中に菫を置き去りにしていたのがちょっと心配だったけど、菫は人当りいいし、心配はなかったみたい。それに、浅葱がちゃんと相手していたみたいで安心する。


「菫も歌った?」

「うん、人数多いから二曲くらいかな」


 確かに、パーティールームに大人数ってわいわいやれて楽しいけど、人数に対して機械は一台だからカラオケをがっつり歌うってことはできないよね。

 視線を上げて、今歌っている子を見る。横に並んで座った一年女子三人が仲良く一緒に歌ってる。

 この子達だけじゃなくて、一人一曲じゃなくて数人で一曲を歌ったりみんなで歌える曲を選曲してマイクを回したり、みんな喧嘩にならず楽しそうにしている様子にふっと口元を綻ばせる。

 実は……クリスマス会に限らず、浅葱が企画して水泳部で集まるって結構あることで、だからこんなふうに今回も仲良くできているのだろう。

 大会後のミーティングでは、全然部長らしいこと言えないのに、こういうとこはちゃんとまとめてるっていうか、仲間の絆を繋ぐ力が浅葱にはあると思う。それって、努力しても手に入れられるものじゃないから、すごいよね。


「もう、ボーリングの結果はやった?」

「ううん。なんかね、瑠花も表彰の中に入ってるから最後にするって」

「えっ、私!? ブービーってことはないよね……?」

「あはは、それはないんじゃない?」


 私ならありえるかもって自分のことを指差して笑う菫につられて笑った時だった。

 長椅子の上に放り出していた私の手が大きな手に包み込まれたから、ビクっと肩が震える。


「瑠花、どうしたの?」


 動揺して瞳を大きく見開いていた私の顔を覗き込むように菫が顔をかしげるから、私は慌てて笑顔で取り繕う。


「う、ううん……なんでもないよ」


 なんでもなくないけど――

 誰かが私の手を握ってる。

 もちろん、その誰かっていうのが誰なのか分かってるけど……

 それが表情に出ないように笑顔で誤魔化す。


「そう? それでね――」


 菫は私の動揺を気に留めず、私がいない間の二次会の話を始めて、私はそれを何事もない顔してうんうん笑顔で頷いて聞きながら、そっと視線だけを菫が座っているのとは反対の右側に向ける。

 そこに座っているのは、柳で。

 薄闇の中、柳はひどく涼しげな表情でまっすぐ前を向いていたのだけど、私の視線に気づいて、首をかしげるように私を見降ろす。

 銀縁眼鏡の奥の瞳が妖艶な光を放って微笑む。それから、立てた人差し指を口に当てると、すぐにまた前を向いた。

 なっ、なんですか、それ……

 ってか、手は離してくれないの!?

 薄暗いといっても、ちょこちょこ部屋を出入りする部員が私たちの前を横切るんだから、もしかしたら見られてしまうかも――

 そんな緊張感で菫の話はぜんぜん頭に入ってこない。

 捕まれているのは手のはずなのに、私の心が囚われてしまったように、胸の奥がきゅーっと締め付けられた。




どんどん柳のペースに巻き込まれていく瑠花……

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