舞踏会への招待状?
気がついたら廊下を走っていて、私はだんだんとスピードを緩めて誰もいない廊下の真ん中に立ち止まった。
本当になにやってるんだろう……
柳に思ってもない酷いこと言って、逃げるようにして。これじゃ、夏休み前の自分に逆戻りだ。
柳の姿をみるだけでふわふわと気持ちが浮き上がったり、イライラしたり。自分で自分が分からない。私はいったいどうしたいんだろう……
ここ最近、忘れていた悩みが胸にどんどん広がって私の体を支配する。
頭の中がぐちゃぐちゃで重くて、喉の奥がきゅーっと締め付けられて苦しい。
図書館に行って少し勉強するつもりだったけどそんな気分ではなくなってしまって、私はそのまま教室へと足を向けた。
結局、参考書を開くどころか、教室についた私は鞄を机の横にかけ自分椅子に座ると、そのまま机につっぷしていろいろ考えていたらうたた寝をしてしまった。
始業時間が近づき、ざわざわと教室内に話し声が増えてきた頃、目を覚ました。
「瑠花、今日、十三時に集合だからな~」
まだ半分眠りの中にいた私は、教室の窓から顔をのぞかせた浅葱の言葉に首をかしげた。「もしかして、忘れてるとか言わないよな……?」
ぼーっと浅葱を見つめていたら、眉根を寄せた浅葱に訝しげに問われてしまい、私は浅葱から視線を教室内にさまよわせて苦笑する。
なにか浅葱と約束していたかな……?
「クリスマス会、やるっていっただろぉ~」
唇を尖らせて言われて、あっと思い出す。
そういえばそんなこと言ってたかも。でもさ、なんで……
「なんでクリスマス会……?」
すっごく疑問に思ったことを尋ねると、浅葱の視線がちょっと泳ぐ。なんか怪しい。
「今日は二十五日だから、クリスマス会でいいんじゃないの?」
ひょこっと腰を曲げて私の前に顔を出した菫の言い分はもっともだけど。
「うちら受験生じゃん。クリスマス会なんてやってっていいの?」
別に一日遊んだから受験失敗するってことはないだろうけど、このピリピリした状態でクリスマス会やろうとか思える浅葱の思考が理解できない。
「それは……」
しどろもどろに口ごもる浅葱を見て、やっぱり怪しいって思う。もう一突きしたらボロが出るかしら。
「それは?」
問い詰めるようにちょっと鋭い口調で言ったのだけど。
「そんなの、口実はどうでもいいのよね?」
浅葱ではなくにこにこした顔の菫が答えるからビックリして、険しい表情を浅葱から菫に向ける。
「勉強勉強って追い込まれてて、たまには息抜きしたいんだよ、だから口実なんてなんでもよかったの。そうじゃない、桃原君?」
砂糖菓子みたいなふわふわの笑顔を振りまかれて、私はその純粋すぎる笑顔をちょっと目を細めて眩しそうに見つめた。
「おっ、おう……、そうなんだよ」
相変わらず浅葱は視線を私に合わせようとしないけど、そういう理由だってばれて私が文句言うとでも思ったのかもしれない。
別に怒ったりしないのに……
約束したのはだいぶ前だけど、約束は約束だしね。
「分かった、十三時にどこ集合?」
「あっ、ああ、エースレーン」
「好きだね、ボーリング」
「で、二次会はカラオケだから」
「はいはい、好きだね、カラオケ……」
もう浅葱の言うことに反論する気も起きなくて適当に相槌を打つ。
「あっ、よかったら佐々さんも来る?」
「えっ、いいの?」
浅葱が菫も誘って、菫は嬉しそうにぱっと顔を輝かせる。
「うん、他のメンバーは水泳部ばっかだけど、楽しいと思うよ」
「んー、じゃあ、お言葉に甘えて参加させてもらおうかな。瑠花、私も行っていいかな?」
「うん、菫が来るなら私も嬉しいよ」
尋ねられて、私はにこっと笑い返す。
「あっ、そだ、プレゼント交換するから予算五百円でプレゼント持ってきてね」
「あはは、了解~」
笑って了承する菫と浅葱の会話を聞いて、私はえっと眉根を寄せる。
「用意してないよ私……」
クリスマス会やることも忘れてたんだもの、当然プレゼント交換用のプレゼントなんて買ってきてない。
「なんだよ、瑠花、マジで忘れてたんだんな……」
「十三時集合なら終業式終わった後に買いに行く時間あるよね。私も用意しなきゃいけないから、一緒に買いに行こう」
額を押さえてため息交じりに苦笑する浅葱とふわふわの笑顔の菫に見られて、私は肩をすくめた。
※
終業式を終えて、私と菫は駅前のショッピングビルに来ていた。
集合時間まで二時間くらいあるから、先に昼食を食べてからぶらぶらプレゼントを探そうと言うことになった。
八階の飲食店フロアは、十一時前だというのにたくさんの人で賑わっていた。
私達はあまり迷わずにパスタのお店に入ることに決めて、タイミングよく待たずに入ることができた。
ランチタイムはサラダとドリンクとワッフルが食べ放題でお気に入りのお店。
今日はそんなにゆっくりできないのが残念だけど、パスタとお喋りを満喫した。
プレゼントは雑貨にしようということになり、パスタ屋をでて雑貨のお店に向かった。




