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蜻蛉の三題噺

あの日々に別れを告げても

作者: 尻切レ蜻蛉
掲載日:2012/04/21


「素敵だったわ」


真っ白な頬を上気させて、キラキラした瞳でロズがにっこり笑う。


「つれてきてくれてありがとう、アスル」

「どういたしまして」


私は小さく苦笑して、ロズを出口に誘った。

オペラ座の今夜の公演は『仮面舞踏会』。

劇の余韻に浸りきったままのロズをさりげなく急かすと、彼女はきょとんと首を傾げる。


「あら?あのチケットをくださった方には、会わなくてよろしいの?」

「良いの、良いの。早く行きましょう」


むしろ会いたくなくて急いでいるのだから、それは正反対というもので。


「あんな奴は無視して」

「あんな奴、とは失礼ですね」

「ッ」


ふっと耳元で紡がれた言葉に、私は慌てて飛びのいた。

見るまでもない。

其処にいたのは勿論、私が合わずに帰りたかった張本人。


「アスル、来てくれてうれしいですよ」

「まあ、アスルの知り合いの方は、レナート役のジェード様でしたのね」

「はじめまして。美しいお嬢さん。いつも、わたしのアスルがお世話になっています」

「ちょッ 私はあんたのものじゃないッ」



迎えに来た家人に連れられて、ロズは先に帰ってしまった。

私はあいつに捕まったまま。


「この、猫っかぶりッ」

「どこがです?わたしは正直者だと思いますけど」

「本当に正直な人は、そんなこといわない」


ぶすっとしたままそういえば、ジェードは結われたままだった髪を解いて小さく笑う。


「おや。では、誰に対しても毒舌なブランカを見習えと?」

「この、極端ッ 直す気もないくせに」

「流石、よくわかってますね」

「別にあんただけじゃないわ。ブランカもポルポラも、アッズーロだって皆」


服を摘み上げて、私は言葉を飲み込んだ。

昔はこんなもの着られなかった。

寒くて皆で丸まって寝たこともあった。

あそこから一番に出て、仕送りをしてくれたのは他でもないジェードだった。


「帰りたいですか?」


何処に、ともいわなかったけれど、私には解った。

そして同時に、その言葉がおかしいことも判っている。

でも私はいつものように強く否定できなかった。


「キライよ、あんたなんか。全部お見通しって顔して」


泣きそうな私に、あいつは何もいわなかった。

そのかわり、あの頃もよく聞かせてくれたオカリナの音が静かに響く。

その音色は、あの頃と少しも変わらず、優しく穏やかな音だった。



オカリナ、毒舌、仮面舞踏会【三題噺】

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