孤独な電話
電話が鳴る。
こんな時間の電話はろくな電話じゃない。
「はい。」
『雄太?』
女にしたら低いアルト。
いつでも忘れたいと願いながら
切望する声
「…小夜か」
少し声がかすれた。
『元気に、してる?』
「それなり」
『相変わらず、ね。』
電話の向こうで笑っているのがわかる。
きっと彼女はいつものように赤い唇を歪ませているのだろう。
『用事があったわけじゃないの。
声が聞きたかったのよ、可愛い弟の。』
「あ、そう。」
『冷たいのね。』
少し拗ねたような声で言う、姉。
いつから、俺はこの人を真っ直ぐ見られなくなったのか。
『あのね、誕生日のプレゼントを送ったの。
明日か明後日には届くわ。
直接渡したいけど、どうせ仕事が忙しいって言われるだろうから。
それじゃあ、またね。』
姉は静かに電話を切った。
黒い髪をボブにして、赤い口紅で彼女は今も笑っているのだろう。
逢わなくても解っている。
彼女は変わらないのだから。
小さな溜め息をついて、キッチンに向かう。
冷蔵庫にのコロナを取り出しライムをだす。
瓶を開けて多めにライムを搾る。
「桐子。」
洗いものを片付けてシンクを磨きあげていた桐子が振り返る。
「静かだな。」
「そうね、孤独だわ」
桐子は笑った。
「二人なのに孤独だわ」
「なんで、だろうな。」
答えは解っているのに。
あいつがいないから。
それしか答えはない。