泣き虫の食卓2
彼女は傷ついたまま
悲しみは泣き続けている
ぼろぼろと泣き出した桐子に気付かない振りをして
パスタを口に運ぶ
涙を溢しながら
それでも彼女はフォークで口に運ぶ
桐子の空いたグラスにキャンティを注ぐ
彼女は何を思って泣くのか
それは、聞かない
泣けるだけ、ましだ。
少し、昔を思いだす。
彼女が、溺れるような恋をしていた時を
『雄太くん』
柔らかい碧色の笑顔をする、少女だった。
『雄太』
桐子の隣で笑うのは、線の細い男、博嗣だ。
二人は絡めあうように立っていた。
指を絡め合い、腕を絡め合い
唯、一対の幸福な恋人同士だった
『授業始まるのにまだ煙草吸ってる』
『これ吸い終れば教室入るよ』
先に行っていろと言うと二人は
寄り添う鳥のように
微笑みを交しながら教室に入っていった
あの時彼女は酷く幸せそうで
彼女の視線は常に彼にだけ注がれていた
彼の視線も彼女にだけ注がれていて
その視線の強さは
他者を必要としない膜を二人に張っていた
俺は何故かその二人の膜に触れる事を許されていた
博嗣は面白い考え方をする男で
口数は少ないが
印象的な男だった
俺が博嗣と出会った頃から
ずっと寄り添う桐子とは
二人はずっと産まれた時から恋人同士だっという
二人は二人にしか解らない理由で笑い、悲しみ、愛していた
いつも俺は傍観者でしかなかった
だが確かに幸せな日々だった
幸せで、幸福な、毎日だった。