泣き虫の食卓
彼は、まるで親鳥のように私を構う
甘い声で私を呼んで
ご飯を与えて
寝床を与える
寒いと言えば暖めて
暑いと言えば冷やして
彼なしでは行きていけないと思う程に
でも私は知っている
必要なものと熱望するものは異なる事に
それは私にとっても
そして彼にとっても
「桐子」
呼びかける声に反応するのさえめんどくさい
「桐子」
力強い腕で半身を起こされる
そのまま膝を抱えられて
横抱きで食卓の前に連れて行かれる
食卓を照らす暖かい色の電気は
私を惨めにする
暖かさが私を責める気がする
「食べて」
「……」
炒められた人参は艶めくように電気に照らされていて
健康的な野菜達が灯りに照らされている
彼が、私のためにつくってくれた料理
解っている
でもこの暖かな灯りが
嫌い
「電気、消して」
彼は立ち上がり
壁のスイッチを切った
キッチンから漏れる灯りは白々しい蛍光灯
窓から入る光は人工燈
私はようやく
フォークを取る
丁寧にくるくるとパスタを巻き付けて
口に運ぶ
彼がそっと息を吐く音が聞こえた
カチャカチャとお皿とフォークのぶつかる音がする
私はどうして
こんなに 甘やかされて幸せなのに
彼を困らせたり
悲しませたりしか出来ないのかしら
キャンティをぐいっと飲み干すと
涙が溢れだした
頬を次々濡らす涙には
見ない振りをする彼の優しさは
私の喉を甘く締め付けるから
私はまた泣く