『単位互換の罠と、王太子の受難』
『単位互換の罠と、王太子の受難』
「今日から我が校で異世界からの交換留学生を受け入れる。向こうへ行くのは……成績最下位のお前だ、佐藤!」
担任に指名された私は、突如として魔術と剣の国へ飛ばされた。
そして入れ替わりにこちらの進学校へやって来たのが、あちらの世界で「全知全能の天才」と崇められていた傲慢な王太子・レオンハルトだった。
「ふん、魔力も持たぬ下等生物どもの学校など、余の圧倒的な知性で首席を取って見せよう。無能な庶民め、魔物ひしめく我が世界で泣きべそをかいて野垂れ死ぬがよい!」
転移の直前、彼はそう高らかに笑っていた。
さて、異世界に送られた私だが――死ぬどころか大歓迎された。
魔王軍との戦いで疲弊した帝国が求めていたのは、戦闘狂の魔術師ではなく「後方支援のプロ」だったのだ。
私が日本の高校で鍛えられたエクセル並みの帳簿管理と、定食屋のバイトで培った衛生管理を披露すると、騎士団の兵站は劇的に改善。
「サトウ殿の補給術は神の奇跡だ!」と軍師に祭り上げられ、皇帝から特別名誉市民の称号と美味しいお肉を毎日たらふく振る舞われる勝ち組生活が始まった。
一方、日本の高校に乗り込んだ王太子レオンハルトはというと。
「な、なんだこの紙切れは……! 微分積分? 古文の助動詞の活用!? ええい、我が爆裂魔法で消し去ってくれるわ!」
「おいレオンハルト、授業中に机を焦がすな! あと赤点だから追試な!」
現代日本に魔王はいないが、**大学受験**という名の地獄があった。
詠唱呪文しか知らない王太子に、古文漢文や世界史の暗記が通用するはずもない。
かつて天才と呼ばれたプライドは、連日の「全教科一桁点」で見事に粉砕。
さらには提出物の期限を守らず職員室に呼び出され、校則違反の金髪ロン毛を生活指導の先生に黒染めスプレーで固められ、毎日放課後は居残り補習地獄。
そして一年後、交換留学の期限が訪れた。
両世界をつなぐ鏡の前で、すっかりやつれ果て、分厚い参考書を抱えて震える元王太子と再会した。
「さ、佐藤ぉ……! 頼む、交代してくれ! もう模試の判定で『E』の文字を見るのは嫌だぁぁ!」
「あ、すみません殿下。私、向こうの帝国で重宝されすぎて、単位の永久互換と永住権もらっちゃったんで」
「は……?」
「こちらの学園長先生からも『あっちで就職していいぞ』って退学届の受理通知が来ました。なので、そちらの『留年枠』はお一人でどうぞ!」
「待て! 来週は期末テストなんだ! 赤点を取ったら夏休みが全部潰れるんだぞぉぉぉ!」
絶叫する元王太子を残し、私は美味いエールと分厚いステーキが待つ第二の故郷へ、颯爽と帰還したのだった。




