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苦しむ能力こそが一番価値がある

作者: しまうまかえで
掲載日:2026/03/12

 お父様とお母様にお暇を告げてあかりの部屋へ戻り、ドアを閉めたら……涙がブワッ! と溢れ出した。


 これは嬉し涙?

 そうかもしれない……


 でも私は……この話題がお父様の口端に上るのをずっと恐れてた。


 私の頭の中で……

「それはなぜだろうか?」との言葉が終わらないうちに私の心が即答する。


「よく分かっているだろう! お前はお母様やお父様の子供になる事など、到底できない穢れた魂の持ち主なのだ! ましてや英さんのお嫁さんや、あかりのお母さんになる事など! あり得ないのだ!」と……


「ブフワ!」

 と嗚咽が漏れる。


 加奈姉と賢兄が婚約し、箭内のお父さんが一甫堂(いちほどう)の社長に就任。

 一甫堂のビルへの改築が決まり、両和システムの本社もそこへ移転する事になり……加奈姉と賢兄、箭内のお父さん……そして英さんがひとつの家族となる日も近い。

 その時、私は……英さんのお嫁さんで居られるのだろうか?


 そんな資格が!

 私にある筈がない!!


 えっ?!

 本当に私には

 資格が無いの??


 だって!

『好きな人が居て……その人と愛を交わし繋がったけれど……結婚したのは別の人』

 とか

『愛では無く、ただの興味やその時の欲望や打算に押されてセックスをしてしまった人』だってたくさん居る。

 現に英さんもそうだった!


 ああ、そこだ!


 私が本当に汚くズルいところは!!

 こう考える事によって私は……自己欺瞞をしている。


 私は……“自身の穢れや怠惰がもたらした結果としての”破綻した生活を支える為、そして自分の欲望を満たす為に……喜んでこの身を売り、ヒモが自分のオンナを使い倒すみたいに自身を扱った。

 それだって命に対しての大変な冒涜なのに!


 私は“あかり”に我が身を映し、自分が生まれてからこのかた、連綿と積み上げて来た汚いものや不実の一切をあかりに押し付け、あかりを壊してしまった!


 なにが「あかりを愛している」だ!!

 まったく、自分勝手な都合じゃないか!!


 これこそ万死に値する事じゃないか!!


 でも、この期に及んでもズルいズルい私は英さんへ電話してしまう。



「もしもし、英さん!」


『冴ちゃん……何かあった?』


「うううん! 声が聞きたくなったの」


『ありがとう。僕も冴ちゃんの声を聞きたかったんだ』


「あのね、英さん!」


『うん』


「さっき……晩ご飯の時にね。津島のお父様から『是非、津島の娘として、冴ちゃんにはお嫁に行って欲しい! どうか私達の養子になって欲しい!』って言われちゃったの……」


『それは本当に良かったね!!』


「……そう、かしら?……」


『当たり前じゃん! あんな素敵なお母さんとお父さんができて、あかりちゃんとも姉妹になれるんだよ! こんな素晴らしい事はないよ!』


 この英さんの言葉に私はスマホを握りしめたまま天井を見上げた。

 そこには中学生の時、あかり自身が選んだという可愛らしいシーリングライトがこうこうと照っている。

 灯が目に染みて……慟哭が激しく突き上がって来る!!


「うわああああ!!!」

 私の泣き叫ぶ声とお母様が部屋のドアを開ける音が重なって……

 お母様は私の手からスマホをもぎ取った。


「もしもし、英さん?」


『ああ、お義母さん! あの、冴ちゃんは?……』


「ごめんなさいね。冴は感極まってね……今日はこのままそっとしてあげて」


 電話を切ったお母様は泣きじゃくる私を抱きかかえ、スマホを握らせてくれた。


「よほど嬉しい事があったのね?」と囁いてくれるお母様も涙声だ。


「いいえ! はい! ううん! 私! 私!!……分からない」


 それきり言葉が出せず、尚も泣きじゃくる私にお母様はいっぱいキスをくれながら尋ねた。


「苦しいの?」


 お母様に抱かれながら私はコクリ! と頷いた。


「私も……私達も苦しいわ」


 私は涙が止まらないままお母様を見つめた。


「私達が……あかりを死なせてしまったから。それを思うといつも苦しいし、それは生涯、消える事は無いと思う」


 私はお母様の言葉をギュッと噛み締めた。

 言葉の代わりに涙がポタポタとお母様の胸に沁みた。


「でもね、冴!」


「はい……」


「人にとって苦しむ能力こそが一番価値がある事なのよ」


「えっ?!」


「私達の目の前に……苦しい事が山谷の様に連なっていたとしても……そのひとつひとつが私達を良き方向へと導いてくれるの!」


「そうでしょうか?……」


 お母様は私の頬を両手で包み、涙を拭ってくれた」


「たとえどんなに苦しくても……私達はずっとずっと一緒で支え合っていくのだから! 絶対に大丈夫よ!」


 私はまた胸がいっぱいになってしゃくり上げた。

 そんな私の頭を撫でながら……お母様は果てしなく優しい言葉をくれた。


「私達の子供に……なってくれるよね」


「はい!」と叫んで……私は精一杯、お母様を抱き締めた。





                       おしまい♡





このお話は「こんな故郷の片隅で 終点とその後」

https://ncode.syosetu.com/n4895hg/

のスピンオフ作品です。



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わ~い(^▽^)/ スピンオフ第2段! そうそう。 私いつも思うのですが、水商売の人って、そう言うことにドライでないと務まらないと思うのです。 でも色んな状況で、それをするしかない人は、お酒や煙草に逃…
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