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穢れ姫  作者: 鈍野世海


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プロローグ

 古今往来、負の感情が極度に至った生きとし生けるものの末路は「不浄ふじょう」であり、それらは正常な生物に「けがれ」を齎すとされている。一度穢れを患うと徐々に心身を侵食され、やがてその生物もまた、不浄となる。

 穢れを除くには元凶となった不浄を退治するしかないが、その身に抱えている一生分の霊力を凝縮して暴走する不浄の中には、不浄になる前と変わらない状態に見目を変身させられたり、言語を操ることができる、知能や明確な悪意を持って働く強力な者もいる。それを祓えるほどの実力を持つ「祓穢はらえ」は世の中にそう多くはいない。

 祓穢を育成するための機関は大陸各国に設けられてはいるものの、祓穢ができるほどの霊力を所持している者——霊力を操作し、風を招いたり、火を起こしたり、式神を喚んだりといった霊術が使える人間自体が貴重である。それに比べて負の感情からなる不浄は日毎に増えていくうえ、何百年か前からは不浄を利用して悪事を働く「禍穢まがえ」も現れるようになった。

 不浄や穢れの被害は、祓穢を統括し指揮する祓穢機関に嘆願が届いているものだけでも大小様々常時数えきれないほど。当然すべてを解決できるほどの人材はなく優先順位がつけられ、国家に雇われている身である祓穢機関が最優先するのは国の未来。大事が重なったときは、家族が不浄になったという悲痛な懇願さえも後回しにされることがある。

 ——中でも、十年前に発生した大穢変災おおえへんさいは酷いものだった。

 大陸五大国がひとつ、花樹国はなぎのくににかつて、穂白ほしろという少女がいた。白髪に淡水の瞳を持った彼女は早くに両親を亡くして以来、弟と二人きりで生きてきた。穂白は唯一の肉親である病弱な弟を守り育てるために恵まれた霊力と勤勉により花樹国最年少で祓穢の門を叩き、最上位の資格を手にした。さらに彼女は十五歳のとき、類い稀なる才能を開花させた。他者の穢れを自身に移す術、そして自身に患った穢れを浄化する術を修得したのだ。

 だが、十年前——彼女が十九歳になった頃。花樹国は強大な禍穢組織の襲撃に見舞われ、戦争が勃発した。国は当然戦力としても支援としても穂白の稀才きさいに大いに期待を寄せ頼った。彼女自身も小村の嘆願ひとつ見逃さず駆けつけは手を差し伸べようとする義侠心に溢れていたから、自ずと戦争の中心人物となった。

 被害は相当ではあったものの優勢を貫いた争いは、やがて勇敢な一兵が禍穢組織の首領を討ったことで終焉した。あたりが歓喜と歓声に満ち溢れ、避難していた民にも安堵の色が浮かび、花樹国に安寧の帰還が漂いはじめたそのときだった——穂白の全身から黒々としたものが噴き出すように溢れた。

 地に落ちたそれらは強大な不浄と化して暴れだした。取り戻したばかりの安寧は一気に崩れた。彼女が発した不浄による被害は大乱に勝るとも劣らずの甚大さで、その間に看過された事案も数知れず。その名の通り花と樹に溢れていた美しき国はすっかり見る影もなく暗澹に染まり、多くの血と涙が流れることとなった。

 禍穢との戦で穂白が博した名声や賞賛は当然の如く罵詈雑言へと一転した——あの献身も義侠心もすべて演技で偽物だった、すべてこの戦終わりの隙を狙った乱逆のためだったに違いない、なんと悪辣なことか、偽善者、裏切り者。

 人々は畏怖と軽蔑を込めて、彼女が起こした災いを大穢変災と呼び、彼女の自身のことをこう呼ぶようになった——災厄さいやくけがひめと。

 大穢変災からすぐ、穂白の処刑は決定した。

 しかし、穂白はもとより強い霊力を持っており、そのうえ類い稀なる才も有している。万一彼女を辱めたり殺しでもすれば、さらなる災厄が齎されるかもしれない、その身からまた夥しい不浄が溢れるかもしれない、化けて我々を呪うかもしれない……そう恐れた国は、封印という手段を取って選んだ。

 そうして、当時花樹国で最も優れていた道具師が誂えた封魔の香炉の中へ、最上位の資格を持つ祓穢数人が描いた陣と呪文によって、災厄の穢れ姫は封じられたのだった——。

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