タカナシの思い
「今日もがっぽりっ!よかったね、亜希っ!」「おうっ!やったな」
俺はいつものように真治と一緒に丁半をしに行って、勝ち逃げしてきた。笑いながらの帰り道で、急に真治が止まった。
「……真治?」
後ろを振り返ると、急に膝立ちになっている真治と…、俺の目の前に、頭から血を流した男が倒れていた。
「なんで殺しちゃうんだよ、頼んでなんかないのに…」真治は怒りをあらわにして叫ぶ。
「お前となんか、いなければよかった。…このっ、人殺しがっ!!」
__っ、
俺は布団から起き上がった。…部屋が暗い、まだ夜か
湯川との話のあと、同じ夢を毎晩見ている。
初戦から、もうそろそろ半月。そのあとは誰も挑戦をしていないから、このままいくと小鳥遊はここから出れることになるだろう。
湯川は俺に大切なことを思い出させてくれた。…人を殺して許してくれる人なんているはずがない。
俺は広間付近にある、食料棚へ向かう。…3日ほど、食堂に顔を出さずに眠ってしまい、腹が減ったからな。
「こんな時間でも人が来るんだな。」食料棚につくと、小鳥遊がいろいろな食材を布のバッグへつっこんでいた。
「悪い…」「なんでだよっ!お前もなんか取りに来たんだろ?」部屋に戻ろうとした俺を、小鳥遊が引き戻した。
「…」「…」
俺ら二人は話し出すこともなく、ただ無言の時間が流れる。__気まずいな。
「……お前さ、もうすぐ出所になるだろ。よかったな。」
「ああ、まぁでも、ここから挑戦してくる人がいるかもしれないがな」
俺がぼそぼそと言った言葉に、小鳥遊はしずかに笑った。
「…俺さ、なんか知らないけど、パシリにされてて。その中のボス的なやつ、顔が命って感じのヤツな。そいつの顔面を、ぼっこぼっこに殴っちまったんだ。」
小鳥遊は語りだした。小鳥遊の笑顔は不自然にひきつっている。
「でさ、俺、母さんにそれを話したんだよ。そしたら、『我慢が大切だ』って言われてよ。俺、腹立っちまってな。我慢の限界だったから、俺はそんなことしてしまったのにって、母さんの顔ほとんど見ずに、家飛び出したんだ。」
小鳥遊の目がみるみるうるんでいく
「飛び出したのはいいけど、その時は深夜だったから、すぐ補導されちゃってさ。そこで警官に、「同級生を血が飛び散るほどに殴ってしまった」って言ったんだよ。事実確認で学校に向かったら、そのままの状態でぐったりしてるそいつらがいた。そうして、俺は刑務所に入ったんだよ。」
一度下を向いた小鳥遊は、すぐに俺に顔を合わせる。
「刑務所に入って1年くらいの時かな、母さんから、手紙が届いたんだ。『どんなに苦しくても、笑っていてね。』って…」
最後、震えた声で話した小鳥遊の目から、涙がこぼれる
「お、おいっ、大丈夫かよ」「ああ、悪いな…」小鳥遊は涙を手でふき取る。
「俺、それ見てさ、たぶん殺してしまった同級生たちより、母さんへの申し訳なさが勝っちゃって、このまま牢獄で同級生のために服役し続けるよりも、母さんに尽くしたいって思ったんだよ。母さん、俺のこと女手一つで育ててくれて、パシリにされててお金が足りなかった時もこっそり金を母さんの口座から抜いたりとかしてて、でも、きっと気づいてるのに、俺に問いたてもしなかった母さんに、だから、一刻も速く牢屋から出たかったんだ。」
「そう、なんだ…」俺はありきたりな言葉を返す。小鳥遊には、待っててくれる家族がいるみたいだな。俺にはっ…、俺は奥歯をつよく噛みしめる。
「俺さ、牢獄から出られたら、人の助けになることをしたいんだ。俺、視野を狭めてて見えなかったけど、きっと母さんが助けてくれていたから。母さんみたく、支えたいんだ。」
彼の瞳はまぶしく輝いて見える。
「ハッ、じゃぁ、俺が出所したら、どうせホームレスだろうし、お前が俺を助けろよな。」
俺が皮肉がましくそういうと
「もちろんさ。えーと、窪内、だっけ?最後に話せてよかったよ。きっとこの話はもうする機会がなくなるだろうからな。」
小鳥遊が去り、再び静かになった食料棚で、俺は考えていた。
死んだら死ぬんだ。恨まれたってそいつには何も返せない。でも生きている人間には返せるからって小鳥遊は動こうとしているのだろう。
…そうか、それもそうだ。後悔したってそいつには何もできやしない。
なら、俺は___。
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