表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sinners//  作者: 仁音
一章:ハジマリ
1/12

ツミブカキ少年

 「恥の多い人生を送ってきました。」公園のトイレ裏、地面に敷かれた段ボールの上で生涯で読んでもらった、おやじが一つだけ持ってた本の最初だ。そのとき俺は8つで全部の内容は覚えちゃいないが、最初の部分だけは今もはっきり覚えている。おやじは日が暮れるまで読み続けて、へとへとになった俺に「生涯分の恥は積んだが、せめても人間でいような。」と変に改まった雰囲気で語りかけた。「きもちわりぃ」そうのたまった俺に、躊躇なくげんこつを入れた後、顔を上げ、遠いどこかを見るように目を細めた。まるで何か決意したかのような目に、俺は映っていなかった_。


 「さぁ!丁か半かぁ!!」路地裏の片隅、一人のつりめな中年の男を中心に「ちょ…丁!!」「半だぁ!」不安そうな声や興奮している声、様々に飛び交う暑苦しい空気が広がっている。まぁ、夏だからもともと暑いけれど。 「丁で!」その中でもひときわ目立つ、元気な声を上げたのは窪内亜希窪内亜希(くぼうちあつき)というまだ幼さを残す15の少年だ。「えぇ…、あつき、なんで俺と一緒のにしないのぉ…?」眉を下げて不安そうにあつきに嘆きかけるのは鮫島真治鮫島真治(さめじましんじ)、亜希と同じくらいの年に見えるが、11歳。「さぁさぁ、みんな賭けたか?それじゃあっ…勝負っ!!」急に空気がさめかえり、賭けた者たちはツボの代わりの塗装の剥げた茶碗を凝視する。…そこには2と4の目のサイコロがあった。「丁!」「よっしゃぁぁあ!!」「くそっ…くそぅ…!!」今度は歓喜の声と後悔の声、さっきの何倍も大きな音で響き渡った。「うっし!」亜希は胸元でガッツポーズを作り、「また負けちゃったよぉ…」真治はハァ、とため息をついた。

 帰りの道中にて「今日は634円と水3本と洋服…、、めっちゃ稼げたな」汚れがついたレジ袋の中身を見てニシシと笑った亜希に「うげぇ、この服めっちゃ臭いよ!俺は着たくないからね」と真治は鼻をつまんでしかめ面をした。「水つけりゃ何とかなんだろ、家で洗おうぜ」亜希はにっこりと真治に笑いかけた。亜希には親がいない。赤ん坊のころに路肩のごみ箱に入っていた亜希を、ごみ箱を漁っていたホームレスが拾って養っていたのだ。けれど彼も亜希がもっと小さかったときに急にどこかに行ってしまった。それから3年ほど、ホームレスの博打やちょっとした盗みをして亜はは必死に生きてきた。けれどその生活に転機が訪れた。それは、真治に出会ったことだ。真治は両親からの激しい暴力に悩み逃げてきたのだという。亜希の住まう公園でホームレスに絡まれていたのを亜希が助けたのだ。真治は気弱で運動が苦手だったが、優しい心を持っていて、いいやつだった。真治といるのは亜希にとっての心の支えになった。博打も盗みも、真治と一緒だと楽しみになった。真治と一緒なら、この生活も悪くないと、そう思っていたのだ。


「なんだこいつら、くっせwなに?ホームレス?ww」もう少しで公園につきそうなところでこちらを指さし笑う若い男3人に出くわした。「真治、行くぞ」「う、うん」亜希はすばやく真治の手を引いてその場から立ち去ろうとした。けれど、おそかった。「ひっ」真治の短い悲鳴が聞こえ振り返ってみると「待てよw動画とるから」3人の中の一人が真治のもう片方の手をつかんで、はなさない。「うげ、お前その手どうすんだよwきったねぇ」「すぐ洗うからさ、それより動画!『子供のホームレス補導してみた』とか俺らの評判も上がりそうじゃね?」「うぉw意識たけーwこういうのって再生回数稼げたりするよな」真治と亜希にカメラを向け、「きみたち、だめですよ~?おうちかえりましょ~」と芝居を打つ男たち。「とってんじゃねーよ!」亜希は耳に刺さるような大声で叫んだが、「お~wこわいこわいw」「親御さん心配してるよ~?」と嘲るように笑った。真治の様子がおかしいことに気づいたのはその時だ。ひっ、ひっ、としゃっくりのような呼吸で、顔色が真っ青になっていたのだ。「真治!?」あわててゆすってみたが、返事をせず、どんどん呼吸が荒くなっていく。「おいっ…、おいっ…!!」亜希は初めて恐怖をおぼえた。間違いなく、これは異常だ。亜希は考えていなかったのだ、真治がいなくなってしまうことなんて。「なにこいつ、やばくね?」「なんか発症したとか?」「ここいたら俺らも咎められるんじゃ、」「はぁ!?逮捕とかごめんだし!」「と、とりあえず逃げるぞ」道に倒れこんでいる真治を置いて逃げようとする男たちに亜希はたくさんの感情を抱いた。とても15歳の子供には多すぎる情報量。亜希は、怒りに任せ、近くの大きな石を男に振りかざした。


小太りな女性が必死な顔つきで「お巡りさん、こっち!!」と指さししている。『喧嘩してる人たちがいる』って…都心はこういうの多いしな、どうせ酔っ払い同士の騒動だよ。警官はハァ、と息をつき、女性の指示する場所へ向かった。「はいはいっ…って、ヒッ、こ、こいつ、頭から血が…」男一人道路に倒れこんでいて、頭から大量の血が流れていた。こいつ、もしかして…死んでる…のか?倒れている男の近くに三角座りで顔を隠している少年がいた。その少年の足元には…血の付いた大きめの石が転がっている。「こ、この子がやったのか?」「お、おいっ!こっちに子供も倒れてるぞ!」ついてきた同僚がもう一人、座っている少年と同じくらいの少年が倒れていた。まだ呼吸はあるようだが…「おいお前ら二人!いったい何があったんだ!」頭から血が出ている男の後ろに腰が抜けたようにへたり込んでいる男二人に話しかけた「しっ、知るか!!その子供が勝手に倒れてもう一人がこっちに石ぶつけてきたんだよっ!」えらく混乱しているようだ。ろれつのまわっていない口調でそう言った。「仕方ない、すぐに応援を呼べ!!」真夏の夜のこの事件は、テレビニュースやマスコミによって大胆に報道され、まだ口もきけていない少年を世間は責め立てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ