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ここから私は旅をする

作者: たぬ吉

「お正月、どこ行こうか」

 大学のラウンジで昼食をとっていると、近くの会話が耳に入ってきた。

「ここなんてどう?」

 全く関係ない私だが、言われたほうへチラリと目をやると女子大生がパンフレットを広げて指を指していた。

「また? 一昨年行ったじゃん。せっかくなんだし違うところにしようよ」

 そう言うともう一人がパンフレットをパラパラとめくった。

「ええ~、いいじゃん。楽しかったし」

 意見を却下された女子大生は諦められないようだ。余程楽しかったのだろうか。

「いやいや。今度はあたしが決める番だし」

 そう言いながらめくっていた手が、あるページで止まった。

「ねぇねぇ、ここなんてどう?」

「え~、どこ?」

 どこか不機嫌そうにパンフレットを覗き込む。

「ここ。この値段でこの内容ならアリじゃない?」

 少し黙読した後、仏頂面が明るくなっていくのがわかった。

「……良いかも」

 かもってなんだよ、ハッキリしろよと思いつつ、私は好物のチキン南蛮を箸ではさんだ。

「じゃあ、ここを中心にほかも考えるってことで良い?」

「良いよ。良さ気だし」

「なら購買の本屋でこの国の観光地の本、見てこようよ」

「そうだね」

 二人は意気揚々とラウンジから出て行った。

 旅行ですか。しかも話から察するに海外ですか。こちらは年末年始、一人アパートだっつうの。帰省するお金すらないっつうの。

 とは思いつつ、とりわけ羨ましくはなかった。


「寒い寒い」

 自分の部屋に帰ったら、まずは電源のスイッチをいれるのが癖になっていた。日常では聞くことのない、独特な音とともに立ち上がっていく。

 インターネットによって、私は世界を旅する。いろんな人と話をする。部屋にいながら体験できる別空間。便利な時代になったものだ。


 だから、羨ましくは……。

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