20×2年7月 バイトの面接
今日はバカと一緒にバイトの面接に行く。バイトなんか一生する機会ないと思ってたのにな。事の発端はもちろんバカだ。
「ようこちゃん!バイトしよ!」
「…。しないよ?」
「ええーーー」
なんでそんなに意外そうなのか分からない。だって私はいつ死ぬかも分からないんだ。バイトなんて、受かるわけもない。
「でも!私ようこちゃんとバイトしたいの!」
「えぇ…。どうせ受からないし。」
「分からないじゃん!受けるだけ受けてみようよ!」
正直、あまり乗り気にはなれなかった。でも、悪くないとも思ってしまった。最近の私はバカのせいでおかしくなっている。自分でそう実感しつつ断れなくなっている。
「…分かったよ。受ければいいんでしょ。」
「やったあ!じゃあ面接練習頑張ろうね!」
「うん。」
私とバカは近所のスーパーのバイト面接を受けることにした。必要な書類を書き、面接練習をする。
「では、ななさん。貴方はなぜここでバイトしようと思ったのですか?」
「家から近かったからです!」
「……。そんなので受かるわけないだろ!」
「そうかな?ようこちゃんに叱られちゃった〜」
「ちゃんと考えなよ。」
そんな日々はあっという間に過ぎ去り、面接当日。
「ようこちゃん。緊張するね。」
「いや、私どうせ落ちるし、全然緊張しないけど。」
「もう!私はようこちゃんと一緒にバイトしたいんだからさ!頑張ってよね!」
常々思う。奈那は私のことをよく重要視してくれている。
「たまには、ななの気持ちに応えないとな。」
「ん?ようこちゃんなんか言った?」
「なんでもないよ。行こ!」
「うん!」
私たちは別々の部屋に呼ばれて面接を受ける。
「ではようこさん。貴方はなぜここでバイトしようと思ったのですか?」
「日頃からスーパーを利用していて、とても便利だと思っていました。私もそんなところで働きたいなと思ったので面接に来ました。」
「ありがとうございます。」
順調に進んでいると思っていた。だけど……
「貴方病気なんですか?」
「はい。そうです。」
「どの程度なんですか?」
「実は…余命宣告されてて……」
面接官の顔が曇る。まずいかもしれない。
「採用したかったんですけどね。バイト中とかに倒れられたりすると、責任問題とかが発生してしまうんです。」
「で、でも…」
病気のせいで落ちそうだな…。はぁ、まあしょうがないか……
その時、脳裏にひとつの言葉が甦る。
「もう!私はようこちゃんと一緒にバイトしたいんだからさ!頑張ってよね!」
そうだった。今度こそ私は、奈那の為に…
「あの!」
「どうしましたか?」
「少しでも体調が悪い日は出勤しないようにします!それと、入院することになったらバイトも辞めます!それから……それから…」
何を言えばいいか分からない。それでも…必死に言葉を並べていた。
「分かりましたよ。」
「え?」
面接官の方は優しく言ってくれた。
「それだけ、今日一緒に来たお友達が大切なんですよね。色々と約束してもらうことはありますが、バイトしてもいいですよ。」
「それって…」
「合格です。」
「ありがとうございます!」
受かった安心感よりも、奈那の為に頑張れた自分への嬉しさが強かった。受かってよかった。諦めなくてよかった。
外に行くとバカが待っていた。
「ようこちゃんどうだった?」
「受かったよ。そっちは?」
「受かった!これで一緒にバイトできるね!」
「そうだね。」
受かってよかった。でも、私は1つ感じることがあった。
奈那の為に頑張れた私は、奈那の事を特別に思っているのだろうか。奈那の事が……いや、気のせいか...。