20×2年4月 入学式
高校受験も終わり、中学校を卒業、そして、無事に近くの公立高に合格した。
私の名前は白須陽子。来年度から高校生になる。親からは「優しくて明るい子に育って欲しい」という願いから陽子と名付けられた。でも私はその願いに応えることが出来なかった。
小学1年生の頃から頭痛や腹痛、風邪など様々な病気に悩まされてきた。病気のせいでよく欠席するようになり、友達も作ることができなかった。
中学3年生になると段々と病弱な体も治ってきて、よく出席できるようになった。そして高校にも合格することが出来た。これからは私も青春を楽しむことが出来る、そう思っていたのに…
「長くて3年程。短いと1年程生きられるかどうかです…」
高校に進学するということで病院に検診をしに行っていた。そんな時、余命宣告をされた。私の希望は一瞬のうちに消え去り、高校の事や家族のこと、自分の趣味など全てがどうでも良く感じた。両親は私のために泣いてくれていた。「明るい子になれなくてごめんなさい。」そんな言葉しか心の中に出てこなかった。
そして高校の入学式。校長先生の話や学校の説明。そんなものは頭の中に入ってこなかった。私の頭の中には自分への嫌味や親への謝罪しか無かった。
教室に入り席に座る。私は話しかけるなという雰囲気を出しながら読書をしていた。友達なんて作る気はなかった。どうせすぐ死ぬ身だ。作ったところで意味なんかない。そんなことを思っていた矢先、隣の席の子に話しかけられた。
「ねぇねぇ!何読んでるの?」
「…小説だよ。」
「面白そうだね!私にも見せて!」
「…」
無視をした。流石に酷いかとも思ったが、万が一でも仲良くなってしまったら困る。
「私は伊藤奈那って言うの!友達になろ!」
「…は?」
「だって私、君と友達になりたいんだもん!」
困った。まさかこんなことになるなんて。なんとかして断らないと。
「でも…ほら、私友達いらないし。1人の方が楽しいし。」
「君が要らなくても私はいるもん!」
「そんなこと言われても…」
「決定ね!」
「…」
正直ムカついていた。こちらの事情も何も知らないでグイグイ来て。私はつい口を滑らせてしまった。
「私は死ぬんだよ!長くて3年後、短くて1年後には。」
「…」
「あっ…」
やらかした。誰にも言わないつもりだったのに。まあでも、これでこの子も諦めてくれるだろう。
「だから何?」
「え?」
「じゃあ尚更友達になろうよ!私と思い出たくさん作ろ!」
「いや…でも…」
「いい加減諦めなよ!私は世界一諦めが悪いんだから!」
「…」
「それで、君の名前は?」
「…白須陽子。」
「ようこちゃん!これからよろしくね!」
「…」
半ば強制的に私は奈那と友達になってしまった。まあいいや。どうせすぐに捨てられるさ。中学の頃みたいに。
ドタバタした入学式も終わり、下校していると後ろから話しかけられる。
「ようこちゃんばいばい!また明日!」
「う、うん。」
また明日…か。そんなことは生まれて初めて言われた。でもどうせ、明日になったら忘れられてるよ。そんなことを思いながら私は家に帰る。奈那がかけがえのない存在になるなんて知らずに…