第3話 神待ち少女は夜を彷徨う
神町 故side
昏々、空々、揺々、降々。
夜の繁華街は良く言えば多種多様、悪く言えば雑多な光の集合体。眩しくて昏々。
今日も、どこにも私の居場所のない家を抜け出してきました。
心が、満たされないのです。
私の渇いた心は愛を注がれる事もなく、空々と空虚なまま。
揺々と頼りなく揺らめくような、取るに足らない自分自身が嫌になるのです。
降々、降々。
雨が降ってきました。
寒い……冷たい……心の奥底まで染み渡るようです。
だけど、このまま消える事ができればどれだけ救われるでしょうか。
誰も私自身を見てはくれない。親も、同級生も、教師も、誰一人として。
なら、私がこの世界に生きている意味とはなんでしょうか?
ふと、その辺に貼ってあるキリスト教か何かわかりませんが宗教のポスターが目に付きました。
『貴方は愛されるために生まれた』……???
見ると、嘘ばっかりの薄っぺらな言葉が書いてあります。
もし、私が愛されるために生まれたというのなら、誰でも良いので今すぐ私を愛してください。必要としてください。
愛されるために生まれたはずなのに、どうして私は愛されないのですか?どうして理解されないのですか?
誰か、教えてくださいよ………
そんな事を考えながらただぼんやりと歩いていたのが悪かったのか、私は数人の男性によって突然路地裏に引きずり込まれました。
「へへへ………お嬢ちゃん、なかなか可愛い顔してんじゃねぇか………」
逃げようにも数人がかりで取り押さえられて、もはや手遅れという様子。
そのような状態でも私は、不思議と落ち着いていました。
深夜徘徊なんて事をしていれば、このような危険があると知識では知っていましたが、でも、もし叶うのならば…………初めては私を愛してくださる方に捧げたかった………タカヤさん……
私は、自分が泣いている事に気付きました。
「鬱展開の気配を察知!!!フラグブレイカァァァァァァ!!!!」
その時、私のクラスの担任の村多悠梨先生が、よくわからない事を雄々しく叫びながら文字通り殴り込んできました。
神町 故side 終
▷▷▷
シグレの言葉で、依然前途不透明な教師生活になんとか活路を見いだした私が最初に取り掛かったのは、夜廻…………じゃなくて夜回り活動だった。
てか、夜廻だとホラーゲームになってまうやん。
グラフィックはあえてチープに作ってあるけどホラー演出がガチ過ぎてその落差で助走つけて殴ってくるような作品だったなアレは…………って、そんな話はどうでも良くて。
私は例の問題児5人衆の一人、女生徒Aこと神町 故ちゃんの目撃情報のあった繁華街へと向かう。
……やはりと言うべきか、飲み屋とかラブホとかがたくさんありますな。どう考えても学生がうろついていい場所ではない雰囲気。
もしかしたら、既に事態は抜き差しならない状況なのかも。というか、もう実際に抜き挿しされているかもしれないね〜……
おっと、失礼。上手い事言おうとしたらつい下ネタ方向になっちゃったよ。
とりあえず、どこかで見ているかもしれない顔も知らぬ誰かに頭の中で謝っておく。
さて、故ちゃんや〜い、どこや〜……。
繁華街の雑踏の中、沈むように溶けていくように、それでも注意深く辺りを見渡す。
彼女がどのような苦悩を抱えているのかは私にはわからない。
けれどたとえ面白半分であろうと、はたまた破滅願望に基づく行動であっても学生がこんな所をうろついてはいけない。
なぜなら、『本気』だとか『冗談半分』なんてのは当人の感情の問題でしかなく、齎される結果に感情なんて挟めないのだから。
女の子が夜中に、それも一人で、そしてよりにもよって繁華街を徘徊する事の危険性なんていちいち言うまでもないと思うけど、何か起こった後で「こんなはずじゃなかった」と思うのは自分自身の想像力不足でしかない。
まぁそれはそれとして、たとえ俗物丸出しであっても、仮にも私は教師なのだからそんな最悪の結果だけはなんとしても阻止しなければならないのだが。
ふと、視界の端に故ちゃんらしき姿が映る。
マズい…………!!!どんどん人気のない路地の方に歩いていったよ…………
こうなったら、どこまでも追いかけるしかない!!!
▷▷▷
案の定、故ちゃんは数人の男達により路地裏に連れ込まれていた。もはや一刻の猶予もない。
本当はただフィットネスの為にキックボクシングをしてただけなんだけど、こうなれば実力行使もやむ無し異議無し待った無し!!!
「鬱展開の気配を察知!!!フラグブレイカァァァァァァ!!!!」
踏み出した身体が止まらない、というか最初から止まる気も全然ない程の勢いで(←止まるんじゃねぇぞ……)飛び出して、一番近くにいた男に助走を付けた右ストレートを叩き込む。
続けて、2人目の奴のボディに一撃入れてローキックで追撃。そのままフットワークを効かせつつジャブの連撃で残りの奴らにも一人辺り2〜3発くらいくれてやった。
「さて、まだ続ける〜……?」
私がそう問いかけると、痴漢悪漢ロリコン変質者野郎どもは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
うむ、理解ればよろしい。説得(物理)完了〜……
そして問題の故ちゃんはというと、どう見ても引いてるし、なんなら私を警戒している。
仕方ない、ここは私の軽快かつ小粋なトークで心の扉をこじ開けて——、
なんて、そんな器用な事が不可能なのは、私が一番知っているはずだ。おそらく私の陽キャ指数は5くらいだろう。
『陽キャ力たったの5か……ゴミめ』
みたいな感じで陽キャ民族パリピ人に嘲笑されるくらいの生粋の陰キャ、それが私。
「神町故ちゃんだったっけ、お腹、空いてない?」
何はともあれ、私は間一髪セーフで故ちゃんを救出して一緒にトライスター★バーガーに行くのだった。
だって、ちょうど期間限定メニューのサーモンフライタルタルバーガー食べたかったし……(ボソッ)