第2話 2年A組担任、村多悠梨
なんやかんやで新しい職場に初出勤、その後すぐに私は理事長であるヤコと面談を行う事となる。
久方ぶりの再会だ。しかし今のヤコはあくまでも学園の理事長、かつてネトゲで一緒に遊んでいた時のような、『なあなあ』の関係は一切通用しない。
つまり私がヘマをすればヤコが恥をかく事になる。
今回の件は、絶対に失敗できないし、途中で投げ出す事もできない。
『どんなに苦しくてもやり遂げる』
私は内心で、そう固く誓った。
「やはり、来てくれると思ってたよ。スーツ姿もよく似合ってるじゃないか」
「そういうクロツキは、昔とあんまり変わってないね〜……?」
というか、今でも良くて中学生…………下手したら小学生くらいにしか見えない。
正直、ヤコの事だから幼い頃、神龍に『不老不死にしてくれ!!!』と願ったとしても全然不思議じゃないし、あるいは本物の妖狐かもしれない。
……と、今更ながら私は彼女の頭部にある、ちょうど狐の耳のようになったキツネティックセンサー(アホ毛)を見ながら思った。
「さて、今回呼び出したのは他でもない…………例の問題児5人についてのちょっとした情報を渡しておこう。お前の力になってやりたいのは山々だが、今の立場は色々と不自由でな……」
ああ……(察し)
確かにこの学校の生徒って、月ノ宮グループ関係者多いだろうし〜……、なんか問題起こしても簡単に退学とかできなさそう。
「そこでリタの出番という訳だ。お前は、私が最も信頼する存在だからな」
嬉しい事言ってくれるじゃないの〜……こりゃあ、なんとしてでも結果を出さないと…………
どんな問題児でも、どんと来〜〜〜〜い!!!
▷▷▷
…………そう思っていた時期が、私にもありました。
前言撤回、もうこの職場辞めたい…………
ありのまま今日起こった事を話すと——、
学校中のゴミ箱から煙が出て火災報知器ガンガン鳴って、調べてみると全てのゴミ箱に発煙筒が仕掛けられてた。
しかもご丁寧に、フタを開けるのと連動して発煙筒が作動する仕掛け付き。
そして一番頭が痛いのが、ここまでの事件が全て1人の生徒の仕業だという事だ。
例の問題児5人衆の一員、宵宮諒。正真正銘規格外の天才児。
この子が、ただ面白そうという理由だけでこれだけのイカれた事件及び悪ふざけをやらかしたという事実に頭痛が痛い(←重複表現)。
こうして、私の勤務初日は散々に惨憺たる結果に終わった訳だが——、
「それで〜……もう本当に、ふざきんな!!!111!!!って感じでさ〜……」
今こうして、ヤコからもらった問題児5人衆の情報を、個人の特定につながる部分は伏せてヤコと共通の男友達である時雨宗介に愚痴っている。
シグレは私のかつてのネトゲ仲間……の1人でチーム内の参謀役だった男だ。
さて、ここで問題児5人衆の情報を簡単にまとめると、
女生徒A∶主に深夜徘徊などの問題行動が見られる。繁華街での目撃情報も確認されていて、援助交際などの疑いも……
女生徒B∶規格外の天才児。ただ『面白そう』というだけの理由で突拍子もない問題行動を行う。今日起こった事件の首謀者
男子生徒C∶主に突発的な自傷行為や自殺未遂などの問題行動が見られる。鬱の疑いあり。というか、そもそも教師にどうにかできる問題なのか?
男子生徒D∶学校内の暴力沙汰及び生徒指導科常連。自分が正しいと思った事を曲げられない傾向あり
男子生徒E∶吐き気を催す邪悪。いじめや暴力沙汰など非行を常習的に繰り返す。しかも親が色々と影響の強い(←濁した表現)人物なので何か問題を起こしてもだいたい揉み消される。
以上、問題児5人衆を仮に生徒ABCDEとして相談も兼ねて話す。
この件に関してのシグレの答えは、
「ん~~…………、繁華街で深夜徘徊って、普通に考えたらAの件は何か事件に巻き込まれる前に解決しなきゃだから優先度高めだな。Cは……、正直なところ教師の仕事の範疇超えてるが、これも優先度高め。DとEは少しばかりベクトルの違う不良って感じで、Bに関してはそもそもさっぱりわからん」
「本当に使えないなこの駆逐艦野郎!!!」
あまりにも歯切れの悪いアドバイスに、思わず本音が出てしまった。
「誰が駆逐艦野郎だ!!!別に好きでこういう苗字な訳じゃねぇ!!!」
「じゃあオコジョの方か!!!」
「ブル○カの方でもねぇよ!!!」
お互いに、既に成人しているとは思えない低レベルな喧嘩。思えば、こうしてシグレと話すのも久しぶりだがそれとこれは別。
お前、ゲームの方では参謀役じゃなかったのか?本当に使えないな……
「まぁ、とりあえず俺から言える事は一つ。消去法で優先度高めな生徒から1人ずつ攻略っつーか対処するしかないだろ。別に5人が徒党を組んでる訳じゃあないんだろ?だったらAとCが優先でEは色々な根回しやら準備やらが必要だからラスボス、Bはよくわからんが、Dは見たところ何かしらの形で納得させる事ができれば味方になる可能性がある」
シグレの言葉に、目から鱗が落ちたかのように我に返る。
いや、むしろ超人気の狩りゲーである『討魔の狩人』のエネミー、『バゼラギオス』が爆鱗落としてきて、それが頭上から直撃したかのような衝撃だ。(そして1乙)
シグレ、やっぱりあんたはすごいよ。この会話の中のわずかな情報だけで大まかな答えを導き出した。
「シグレ、駆逐艦野郎って呼んで悪かったよ」
「うむ、よきにはからえ」
今度シグレに会ったら、牛丼かハンバーガーでも奢ってやろうと思いながら、私は明日からの仕事への決意を再度固めるのだった。
話の本筋と一切関係ない用語解説
討魔の狩人
架空のゲームタイトル。この作品内におけるモン○ン的な何か。