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無涙葬送  作者: 如月 巽
6/6

親族諍いと介護申請

 半日で仕事から帰ったその日の夕方。

 チビらぎを母と帰宅した旦那にお願いして、二階の寝室に向かった父の元へ。

 朝のチャットSNSで粗方話したいことは伝えていたため、同じ話を繰ることはしない様にしてサクッと本題に入る。


「──祖父(じい)の事を一手に担う、ってずっと言ってたのは私も知ってる。それに、らぎさんの事があるから関わらせない様にしてくれたのも解るんだよ。でもだからって、家に居る人間が我慢してる今の状況は良くないと思う」

「でもよ、何で俺が父親(アイツ)のために休み取ってまでやらなきゃ」

「ンなコト言ってたらいつまでも何にも変わらないんだけど」


 自分の言葉が口火になって話が長引こうとも、心のSOSを出し続けていた母に背を向けていた父に言ってやらないと気が済まない、と思っていたこともあって、思わず語調が強くなる。

 眉間に深い皺を作って、僅かに目が座る父。

 いつもだったらその顔を見た時点で言葉を止めておくけれど、この時ばかりは踏み込むことだけを考えた。


「介護認定とったら色々手続きの面倒があるんだぞ、分かってんのか?それに施設探したりなんだりするのもこっちなんだし」

「面倒なのは分かってるし、私だって面倒だよ。でも、引き延ばして余計に面倒になってるのが今なんでしょ?」

「そうじゃねえよ、上妹が親父と話して施設に[もう施設に行こうと思ってる]って話してるから、それならそっちに任せたほうが面倒じゃねえだろ?」

「上叔母に任せようとしてるから余計に面倒なことになってんの」


父の【面倒】は、本来自由に使って良い筈の自分の時間や休暇を消費してしまうことへの不満が主。

特にこの頃は、突然に通院補佐を命じられたり、何処其処に連れていけ、と言われることが多かったこともあって、自分の自由が減らされていたことに苛立っていた時期。

昼休みになったらチビらぎ情報を母から聞くのを楽しみにしているのに、時間になると上妹からの長々電話がきていた。

そのため、祖父関連で更に休暇を消化することに対しての嫌悪があって【面倒】と言っている。

言い方が悪いが、自分優先・自分本位の考え方。でも別にそれを否定する気はない。


私の【面倒】は、本来同居者が片付けるべき案件に他者が入っている状態への不満。

他者が割り込むことで多々発生する問題に対して【面倒】と言っている。

 残念なことに血縁があるから「一切入ってくるな」とまでは思っていなかったが、ある時を境に考え方が変わった。


 上叔母、身内いえど他者の家で我が物顔であれこれやりたい放題なのだ。

チビらぎ関係で休みを取った日、実際目の当たりにして、開いた口が塞がらなくなった。

 母が「いやだ」と口に出すのが分かるほどに此方への要求が多くて酷い。

それに、あれこれ家探しして物を使ったと思えば、片付けずに放置されたら、そりゃあ嫌です。

そもそも、上叔母は如月個人としては因縁がある相手なので、多少の自分本位な部分はあるが、それを除いたとしてもの話。


 表面上だけで見れば、「面倒だ」と考えていること自体は父も私も同じ。しかし実際には、「面倒」と感じている部分が根本的に違っている。


「手続きが面倒だ嫌だっていうなら、その面倒は私が引き受けるし、必要だったら有給休暇とってでも片付けるよ」

「いやお前、らぎちゃんのことで休み使うんだから、親父のことなんかで使わな──」

「ンなことどうだって良い!家の(モン)が関わってンだから!」


 自分の気性は父に似てるが、親に対して声を荒げることはほとんどなかった。


「日中に。祖父(ジジイ)と叔母が、居座ってるせいで。お父さん(あなた)持ち家()に。お母さん(自分の嫁さん)チビらぎ(自分の孫)が、安心して居られてないの!!」


 この時ばかりは、面倒がってばかりで腰を上げない父に我慢ならなくて。

 言いたかったことを短く切りながら一つ一つを強調して、現実を突きつけた。


 早鐘を打ち続ける心臓を落ち着けたくて深呼吸する私を見る父。暫く黙って考え込み、叱られた子供のように少しだけ口を尖らせたのち、ため息。


「…………もう、明日休み取ったんだろ?」

「うん」

「……わかった、行く。絶対付いて来いよ?俺、書類書きたくねえぞ」

「はいはい、その辺はしっかりやらせていただきます。その代わり通院歴とかは任せるからね」


 二回り強も年齢が違うというのに、まるで男児を相手にしている気分。しばらくの間、駄々こねモードの言い訳並べ立てを聞き流しながら適当に相槌。

 珍しく折れることのない如月に「負けた」と言わんばかりの苦い顔をする父だが、不機嫌さは感じない。

 


今思えば、踏ん切りをつけるための強い背中押しを誰かにして欲しかったのかも知れない。

でもそうなると、手のひらで転がしていたのは一体どちらなのか。まぁ、それは別にいいんだけど。




**********



 そんなこんなで翌日を迎え、普段通りの五時起き。

 悠遊さんの弁当だけ作って、タブレット端末で介護施設紹介サイトである程度の目星をつけつつ、テレビのニュースを聞き流す。


 福祉介護関係の手続きは、一般的に市役所で手続きを行うが、如月の住む街には福祉介護関係手続だけを行う事が出来る施設がある。

 自宅から近い市役所は激混みなのはわかっていたので、今回はそちらで手続きを行うことに。


 チビらぎとはやく遊びたい父は、「さっさと手続き終わらせる」と意気込み、運良く入口近くに車を停めて、私がやや急かされる形で施設へ。


 開館から2分しか経ってないこともあり、介護課に相談している人は誰も居らず。

 これ幸いと受付から声を掛けると、如月より少し若そうな男性職員が来てくれた。


「介護認定の申請をお願いしたいのですが」

「かしこまりました。此方にお掛けください」

「ありがとうございま「悪ィんだけど、面倒な説明は省いて簡単に頼むな」

なんで被せてくるんじゃい。

しかもその言い方は物事頼む態度じゃないだろぃ、いつもの事だけども!!

「あ、はい、かしこまりました」

いや出来るんかい!その返事にビックリだよ私。


 職員さんの質問事項に父が答え、私はそれを代筆。

やや短気で割とすぐ不機嫌になる父だが、要らぬ問いを投げる事なく本当にスムーズに答えてくれた。

 本当に必要事項だけを掻い摘み、出来るだけ簡素に説明してくれた彼には感謝しかない。


 そして職員さんのおかげで、仔細説明も受けたにも関わらず30分掛からないで申請が終わった。

 父は私に昼食を奢るつもりだったらしいが、その必要もなく帰路についた。


介護認定を受けるには、まず介護認定調査を受ける必要がある。


本人または家族が介護申請したら、まずは担当者による訪問調査が行われる。

これは認定要請者がどの程度の状態なのか、他者(ひと)の目で観て判断するというもの。

本人が自力で歩けるかどうか。きちんと会話の受け答えはできるのか、などの生活の中での《至って普通》の行動がどの程度までできるのかを見るそうだ。

その後は、かかりつけ医の意見書を取り寄せて、調査データと意見書を元にコンピューターで一次判定。

終わったら、一次結果を医師と確認・相談して二次判定を行う。

此処でようやく出た結果が、いわゆる《支援/介護認定》となる。

一般的には申請してから大体1ヶ月前後で認定結果が判る。

如月家の場合はたまたま申請が少ない時期だったらしく、3週間くらいだった。


訪問調査はどうだったのかと言うと、先の記載内容についてちょっと考えれば[普段通りでいて貰わないと困る]と分かる。


調査日は母が同席しており、その行動っぷりを聞いた時には私も父も悠遊さんも、呆れてしまった。

祖父は外面だけは良く見えていて欲しいタイプ。その時に限って「俺はなんともない、普通だ」ばりに振る舞って、なんなら廊下も「ちょっと立つのが億劫なだけで歩けるんだ」と言って歩いたという。

担当者さん曰く「検査されると分かると張り切るのは、よくある事ですので大丈夫です」とのこと。

それが本当によくある事なのだとしたら、見たものをどこまで信じるかの判断つけるのが大変そう。


ちなみに、認知症を患っていることが判っている場合は少々順序が変わる…というか、審査期間が早まるらしく。

母の妹夫婦と暮らしている祖母が認知症で、祖母の介護認定をとった際は結果が出るのが早かったという話。

審査期間についてはその時の状況によりけりなので、あくまで参考程度にしておいてくださると有難い。

とりあえず介護申請が必要な時は、このくらいの時間と手間が掛かると知って頂ければ。



 そして、申請してから約3週間くらい経ち、介護保険証と共に届いた結果には【要介護 2】の文字。


「……張り切ってたって聞いちゃってたから、《要支援2》くらいかと思ったけど」

「思ってたより上の等級だったな」


 ちゃんと見てくれていた担当者さんとお医者さん達に感謝しつつ、今後どうするかについて軽く話し合い。

 その後、父が上叔母に電話で連絡を取るというので両親の寝室を出た。

 ……数分後、扉の向こうから怒りと呆れまじりの声が聞こえたが、聞き耳立てるのも悪いのでそのままリビングに戻った。


 

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