第八話 光と共に
高校といえど、体育の授業は男子にとって楽しいものだ。それも、よりにもよってサッカーの授業ともなれば尚更。そんな楽しい授業に参加出来ず、見学しているだけなのに、こんなにも笑顔に満ち溢れているのは彼くらいだろう。
(明日だ……!明日遂に能力が試せる………!!)
織原剣、17歳。幼少期より夢に見ていた「能力者になる」という、普通ならば叶わない願いが叶った男。
「本日の授業はここまで!礼!」
『ありがとうございました!!!』
あとは下校するのみとなった。織原は、自らが能力者であったことをクラスメートに話していない。本心ではどんな話題よりも話したいことだった。だが……
(「織原くん、能力休眠状態のことについては家族も含めて他の人に口外しないでね」)
(「えっ、どうしてですか?」)
(「まだ世に公表されてないことも多くてね、混乱を招いちゃう可能性が捨てきれないの。言いたい気持ちは分かるけど、言わないこと!」)
(「は………はい………………」)
(氷織さんに頼まれちゃったからなぁ〜〜〜……凄く言いたい、凄く自慢したい………!我慢、我慢!)
織原剣は勝手に葛藤していた。そんな彼を見てクラスメートは、「ここ何日か様子がおかしいな」と思っていたそうだが、織原本人はそのことを知らない。
──────
国立能力研究所・C棟前訓練場グラウンド。ここに来るように、と織原は言われていた。気持ちが早まり、本来の時間より20分も早くに。
(昨夜はほぼ寝れなかったな……)
欠伸をした。その一瞬目を瞑っただけだった。しかし目を開けた時、目の前の風景が人の身体に変わっていた。
「うわあああああっっ!?」
織原は思わず後ろに倒れ込み、尻もちをついた。
「アッハハ!ごめんごめん!君だね、能力覚醒者っていうのは!」
余りにも眩しい笑顔でそう話す男は、手を織原に差し伸べた。織原はやや恥ずかしそうに差し伸べてくれた手を握り、立ち上がった。
「あ、あの……」
ピコンッ
「ああ!自己紹介しないとだね!」
ピコンという音と共に、その男の頭上に一瞬電球のようなものが見えた。織原はまた驚き、目を擦った。
「アハハ!びっくりしたよね!俺の名前は道野光!土地神対抗軍・能力部隊、大将さ!人呼んで!!正義のヒーロー・サンシャイン!!!」
眩しい。余りにも物理的に眩しい。この男の身体そのものが光っている。
「色々と俺に聞きたいことはあるだろうけど、質問はもう少し後で聞こう!俺は君の教育係に任されたんだ!!」
「……あっ、あの、眩しいです……」
「あっ!ごめんごめん!!」
ようやく光が収まった。織原は後に、「昼間の野外なのにあんなに眩しいと思ったのは初めてだった」と振り返っている。
「ドクターJ、氷織冱瑠の報告によれば、君の能力は【神速】だね!うん!俺が指南役になった意味が分かったよ!!」
「あの、道野…さん?の能力って、もしかして【光】ですか??」
「うーん!エクセレントな回答!!大正解だ!!
ちなみに、光るだけじゃなくて、それなりの速さで移動することも出来る!光が帯びる熱を使って相手にヤケドさせたりも出来る!!」
この瞬間、織原も察した。自分の能力は【神速】。恐らくは移動に特化した能力だ。そして、【光】の能力を持つ者は、「それなりの速さで移動」出来る。
(……多分、それなりの速さだとか、ヤケドさせたりだとかは控えめに表現してるんだろうな)
能力を初めて使う織原にとって、道野光というこの人物は、まさに指南役、師匠と呼ぶにふさわしい人物になれると、織原は確信した。
「オッケー、じゃあついておいで!えーっと……」
「あっ、織原剣です!よろしくお願いします!」
「オッケーオッケー!ミスター剣!楽しい楽しい能力訓練の時間だよ!!」
──────
芝生の上に、動きやすいジャージの体操服姿で2人は居た。
「ミスター剣、まずは君のセンスでとりあえず能力を発動させようとしてみてくれ!この白線から、向こうの白線まで、全力疾走だ!!」
「はい!!」
ぐっと踏みしめ、走り出す構えを取る。
(僕の中にある、この違和感……恐らくはこれが能力の根幹なんだ。それを解き放つイメージが出来れば、多分能力が発動する……!)
「…………ハッ!!」
勢いよく駆け出した。その瞬間、織原の脚が信じられない速度で芝生を蹴り上げた。最初の一足目で強く芝生を蹴り出した衝撃で、その部分の芝と土が宙に舞った。しかし……
(………!!なんでだ!?なんで………!?!?)
織原は全力で走った。しかし、あの凄まじい脚のスピードは、最初の一足目だけだった。その後は、ただ走っただけになったのだ。織原は困惑した。道野は特段、驚くような様子もなく、走り終えた織原に近寄り、話し出す。
「まあ、予想の範囲内だ、ミスター剣。落ち込むことは無いよ!まだ最初だ、ノープロブレム!!」
そうだ、冷静に考えてみれば、これが人生で初めての能力の行使。織原も落ち着いて道野の話に耳を傾ける。
「……ミスター剣、今どういうイメージで駆け抜けた?」
「えーと、なんていうか、僕の中にある違和感っていうか、これが能力の根幹なんだろうなってものが身体の中にあって……それを解き放つイメージでスタートを切りました」
「オッケー、十分だ。ミスター剣には、能力行使のチュートリアルから教えていく必要がありそうだ!まずはいろはのいを長ーい時間を掛けて、理解して貰うよ!!」
この日から、織原と道野のマンツーマンでの能力指導教室が始まった。
ひとまず、序章編はこれで完結です。
派手な戦闘描写を楽しみにしている皆さん、残念ながらそういった描写はもう少し先になりそうです。第九話からは「織原能力開発・特訓編」として執筆します。よろしくお願いします。