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第七話 彩られる未来

丑三つ時。外は当たり前のように真っ暗闇。街からも離れ、おまけに曇り空なのか、月も星も見えないある山奥。一人、若い男が歩く。


(………ヤガミ神社のあの土地神、やたらとデカかったし、明らかに上級上位以上の奴だった。)


冷たい風が吹き付ける。木々がざわめく。


(んだよ、俺に来るなとでも言いたそうじゃねぇかよ、あぁ?)


──────


遡ること5時間前。彩村四季は二週間ぶりに遠征から帰り、くつろいでいた。しかし、一本の電話が。


「はぁぁ!?今からタツカワ市のヤガミ神社とその周辺の寺院を調べろだぁぁぁ!??」


夜10時の出来事である。


──────


(あんのクソ野郎、これで何も無かったらマジでぶっ殺す……!)


『………タチサレ、ツヨキモノヨ。』


悍ましい、憎しみに満ちた低い声がする。彩村は歩みを止める。


「……へぇ、マジか。そりゃあ俺がわざわざ来なきゃいけねえ訳だ。」

『………フリカエリ、ヤマヲオリヨ。サモナクバヤクサイガフリカカロウ。』

「よう、土地神。おかしいと思ったんだ。この前俺が殺した奴……てめぇの分身か?いや、違うか」

『………サレ。ソノミヲワガノロイデクライツクスゾ。』

「答えろよクソ野郎、こちとらただでさえイラついてんだ。あの時神社から湧いたのは、てめぇが切り離した一部だとか、んなところじゃねえのか?」

『ドウヤラオマエニハ、ゼツボウヲアタエネバナラヌヨウダ。』


冷たい風が突風となり、吹き荒れる。と思ったのも束の間、大木の3、4本程がメキメキと音を立て、彩村を目掛け倒れてくる。


「……へぇ、流石だな!山の主なだけはあるか!」


ヤガミ神社はタツカワ市の、織原らが通う高校の裏山にある小さな神社である。先の土地神の暴走に立ち会い、鎮圧した彩村は、違和感を覚えていた。小さな神社から湧くには強すぎる、と。そして、今のこの少しの間で彩村は確信した。コイツだ。裏山そのものに土地神が居た、と。


「なーんでこの前は回りくどいことしてまで暴れたかね!身を切り離さなくたって、てめーが全部出りゃ良かったじゃねえか!!」

『オロカナモノダ、シノキワデイミノナイコトヲサケブトハ。』


大木がまとめて彩村に倒れ込む。轟音が響き渡り、やがて静寂へと変わる。


(………っぶねー、笑い掛けたわ。探知能力クソカスじゃねぇかよ。あんな倒木で死ぬほど逃げ遅れる訳ねーじゃん)


──────


「………で、とりあえず戻って来たんですね」

「そーそー。上のやつら面倒臭いからさぁ、派手にやっちゃうと一般市民がー、とかギャイギャイ言うでしょ?」

「そこの分別は着くんですね、お見逸れしました」

「舐めてんだろ、殺すぞ」


報告の為に本部を訪れた彩村は、居合わせた氷織に愚痴混じりに昨夜起きたことを話していた。


「……そうだ、彩村さん。この前行った高校で話しかけてきた男の子、覚えてますか」

「あ?あぁー、居たっけ?そんなの。無能力でも戦えるかー!とか聞いてきた奴な」

「彼、能力あったみたいですよ。休眠状態だったそうで、もう今頃覚醒の為の施術が終わる頃かと」

「へぇ〜……」

「はい」

「……………………………マジ?」


──────


織原は夢を見ていた。幼い頃の夢だ。チャンバラごっこを友達としている。そこに他のグループの子供たちがやって来てこう言った。この場所は俺たちが使う。お前たちはどけ、帰れ、と。

なんでだよと織原らが抗議する。相手の1人がこう言った。だって俺、能力者だもん、と。

なんでだ。どうしてだ。涙を流してその場を去る。ガックリと歩き、泣きじゃくり、家へ向かう。どうしてだ、どうしてだ。悲しい。悔しい。


「……………っ」


眩しい。照明の光がぼやけて映る。何故ぼやけているのか、それが涙のせいだと気付くまでに2秒ほどかかっただろうか。


(……確か、目が覚めたらボタンを押せって、ドクターJが言ってた、よな…………)


ベッドの左側にぶら下がっている青いボタンをカチッと押した。ほどなくしてドクターJがやって来た。


「あ゛あ〜〜……一応ね、脊椎に針刺してるから、念の為まだ動かないで、ねぇ〜〜」

「はい……」

「よく、寝れた、かい?睡眠時間、34時間……昨日の朝9時に寝て、今夜の7時、だよ〜……」

「………本当に、めっちゃ寝てたんですね、僕」

「まあ、麻酔もしたけど、薬自体がねぇ、脳が慣れるまで、寝させるんだよ、ねぇ……

どうかな、能力あるぞ〜、みたいな、自覚あるかな?」


(………あれ、なんだこれ?寝る前となにか……身体の感覚が違うような……?)


「……寝る前と、身体の感覚が違うような気がします。なんか、こう………上手く言えないですけど」

「うん、うん、成功だねぇ……前例と同じような反応、だよ〜〜………」


ああ、成功したのか。良かった。織原はひとまず安心した。


「失礼します。ドクターJ、織原剣様ですが、夜道ですので我々がご自宅までお送り致します」

「あ゛あ……じゃあよろしく。織原くん、背中の注射のところ、あんまり触ったら、ダメだよ……

明日と明後日は、体育の授業があったら、見学、してて、ねぇ〜〜〜…………」

「はい、分かりました。ありがとうございました!」


しばらく安静にと言われた織原だったが、本心ではすぐにでも能力を試してみたかった。しかし、もし何かあってしまっては元も子も無い。織原はグッと我慢することにした。


(3日後からは動いていいんだ……!3日後、3日後なんてすぐじゃないか!く〜〜〜っ!耐えなきゃ……!!)


まるで誕生日やクリスマスが控えた子供のように、織原は高揚感に満ちていた。この時、織原剣という一人の青年が、確かに歴史の歯車を回し始めた。

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