第五話 精密検査へ②
「……着いたよ、ここで少し待ってて」
氷織さんより少し離れて後ろからついて行き、白いスライド式の大きな扉の前でそう言われた。
「えっ……ここって、その………手術室?」
「まあね。でも安心して、ここにしか無い設備を使うだけで、君の身体をいじくるようなことはしないから」
つまり、手術室に入ると言っても、いわゆる手術はされないということなのか。少し安心してホッと溜め息をついた。
「ドクター、例の少年を連れてきましたよ」
「あ゛ぁ〜〜〜〜、その子、ねぇ〜〜〜…」
白髪で腰が曲がった、けれども長身な白衣を纏った男の人が居た。少し不気味に感じた僕は思わず身震いしてしまった。
「お、おりはっ、ん゛んっ……織原剣です!」
「あ゛ぁ〜〜、一応ここの、医者、兼研究者〜〜…まぁ、ドクターJって、呼ばれてるからさぁ〜〜〜、そう呼んで、ねぇ〜〜〜…」
「ドクター、もう少しきちんとした自己紹介してくださいよ……」
氷織さんが少しガクッと肩を落とした。
「ごめんね織原くん……でも、クセは強いし少し不気味に見えるかもしれないけど、悪い人じゃないから。また終わる頃に迎えに来るから、検査頑張ってね!」
「えっ………えっ!?あっ、はい!!」
氷織さんが戻ってしまうと聞いて、内心「こんな怪しい人と2人きりで〜〜〜っ?!」と思った。
「えっへ、へへぇ〜〜……んじゃ、織原くん、だっけぇ〜〜?そこのベッド、座ってて、ねぇ〜〜〜……」
「ふぁっ!??あっ!は、はい!!分かりました!」
──────
5分ほどして、ドクターJは配線が何本も繋がったヘルメットのようなものを持ってきた。
「これ、ねぇ〜〜〜……脳波とか、能力の適正とか、色々、見れるんだよ、ねぇ〜〜〜……あ゛ぁ〜〜〜〜、まぁ、被って、合図するまで、取らないで、ねぇ〜〜〜……」
「は、はい………」
少し抵抗感を覚えつつ、僕はそれを頭に被った。
「最初だけ、少ぉ〜しだけ、ビリッとするけど、我慢してて、ねぇ〜〜……」
(えぇっ!?)
バチバチバチッッ
「あがぁぁぁぁ!?!?!?」
全然少しじゃないじゃないか!と思ったが、騒いで暴れる訳にも行かない。歯を食いしばり、グッとなんとか倒れそうになるのを堪えて座り続けた。
(いってて……これ、小学生とかにやったら気絶するんじゃないのか?まあ、合図があるまでは待たないと……)
「お゛ぉ〜〜い、もういいから、ねぇ〜〜〜!」
15分ほど経っただろうか、ドクターJの合図があった。ふぅと一息つき、頭の装置を脱ぐ。
「次、MRI、通るから、ねぇ〜〜〜……
といっても、普通のと少し、違うかもだけど、ねぇ〜〜〜〜………」
「あっ、まだいくつかあるんですね!分かりました」
──────
(……………あっ、もう織原くんの検査、終わったかな?)
氷織冱瑠は時計を見ながら思い出した。そうだ、そろそろ織原を迎えに行かないといけない。しかし、まだ何も判明していない、現状無能力(仮)の高校生の織原が、国立能力研究所の検査を受けることになるとは、改めて考えてみても前例の無いことだ。
(能力が無いと検診で診断されたら、普通はそこで終わりのはず……織原くんに何かがあるっていうことなのかな?うーん……)
「お疲れ様!織原くん、迎えにき………
っっ!?!?!?」
酷くやつれて地べたに突っ伏している織原の姿を見て、氷織は酷く動揺した。そして同時に素早く駆け寄った。
「大丈夫!?織原くん!?」
「……だ、大丈夫、です…………」
「あ゛ぁ〜〜〜………疲れちゃっただけ、だよ……相当な数、検査、こなしてくれたから、ねぇ〜〜〜………」
「どっ、ドクター!!一体どれだけの項目の検査を彼にさせたんですか!?書類に書いてあったのは……!」
「いや、いや、その書類の分、だけだよぉ………」
織原本人に聞こうにも、グッタリと疲れ切っている様子である。ひとまずドクターJと共に、織原を最初の手術室のベッドの所へ運ぶことにした。
──────
「面目ないです………検査に次ぐ検査、おまけに閉所恐怖症も出てしまって、MRI以降の検査でグッタリ疲れてしまって………」
織原は申し訳無さそうに、また少し恥じらいながらベッドに正座して、深々と頭を下げながら話した。
「閉所恐怖症、知らなくて、ねぇ〜……そりゃ、疲れるよねぇ〜〜………」
「私は他のことを心配しましたよ…またドクターが興味湧いちゃって、余計な検査を強いたのかと……」
「あ゛ぁ〜〜〜……人聞き、悪い、ねぇ…………」
「とにかく、織原くんは疲れちゃったみたいだから、もう少し休んでから帰ったら良いよ」
「はい………面目無いです…………」
それから20分ほどベッドに横になり、検査の疲れを癒していた。もう大丈夫、帰れます、と言おうとベッドから立ち上がるのと同時に、ドクターJが紙を持って走って手術室に入って来た。
「お、織原くん………!凄い、凄いこと、分かったから、ね………!!」
「ちょ、ドクター!研究所内で走らないでください!」
「それどころじゃ無いんだ!!氷織くんも、これ、見て………!!」
息を切らしながらも興奮気味に握りしめた書類を、織原と氷織が見えるようにベッドに置く。ドクターJは人が変わったように流暢に語り始めた。
「ま、まず、織原くん……君は【能力休眠状態】だったんだ……!これは、世界的に見ても稀な状態で、言ってしまえば自我が芽生えない赤ん坊みたいな、そんな状態だった……!つまり織原くんには、能力があったということだ!!」
(………!!そ、そんなことがあるのか!!)
(能力休眠状態……聞いたことが無い!氷織家の書物にも書かれて無かったはず………)
「これはね、ボクも初めて見る事象で、過去にアメリカで1人、ドイツで1人……それしか前例が無いんだ。日本だと、君が初めてということになる……!」
予想もしなかった結果に、氷織も織原も目を丸くして静かに聞くしか無かった。話について行くのが精一杯で、質問や反論等の反応が出来ない。それでもドクターJは続けた。
「問題はここからで、過去の前例2つについては、いずれも能力が覚醒したんだ。その手段が少し面倒で、長くなるから、これは少し後回しだ……
それよりも、織原くんの能力そのものが、これこそ前例にないものだった……!!!」
(僕の能力は、一体………!!)
「織原くん…………君の能力は……………
【神速】だ……………!!」