第四話 精密検査へ①
タツカワ市での混乱と、彩村出動のニュースの熱気も落ち着いて来た頃、再びタツカワ市ではミセリの料理の話題が再び持ち上がっていた。
「ツルギ!俺もついに手に入れたぜ!!倍率50倍超えのミセリの料理を食えるチケット!!しかもフルコースでだ!!お前も来いよ!!」
「……ごめん!!そりゃもう凄く行きたいんだけど、でも、今日…」
「えぇ〜!!なんだよ……仕方ねぇなぁ、他のやつ呼ぶわ」
「ごめんね………」
僕は内心、少し悔しかった。ミセリの料理は何としてでも食べたいものだった。でも、今日だけはどうしても無理なんだ…!何故なら、今日こそが、僕に能力があるかどうかの検査の日だからだ!
「……どうか……!!」
僅かな期待と祈りの抱いて、僕は検査会場へと向かった。会場は土地神対抗軍の敷地内にある、病院と併設された大きな研究施設だった。
「えーと、織原剣くん、だね。じゃあまず採血から」
「よ、よろしクオネガイシマス!」
「あー、緊張しないでね」
検査は採血から始まり、脳波測定、視力や聴力等の検査、MRIの機械にも入れられた。
「えー、皆さん、お疲れ様でした。それじゃ一人ずつ呼びますね……呼ばれるまでお待ちください」
僕は気が気で居られなくてずっとソワソワしていた。周りの人からどんな風に見られていただろう、思い返すと恥ずかしい。
「織原剣さん、どうぞ」
来た…!僕はガチガチで入室する。
「シ、、シツレイシマス、ッス!!」
「あーはい、織原さんね、結果だけ言うとね〜…」
固唾を飲む。
「……何かしらの、うん…能力らしきものというか、そういう遺伝子的なものはね、無能力者のそれじゃないんだよねぇ」
「えっ…?そ、それは…つまり……」
「いや〜………分かりません!!っていうのが結論、なんだなぁ、これが」
「えぇっ……!?!?」
「うーーん……憶測なんだけどね、これまでに類を見ない新たなタイプ、突然変異の何らかの能力を持っているのか。あるいは、完全に無能力、だけれどもこちらも何か変異してて、「能力がない」ということ自体が能力になってるか…かなぁ」
「……なんにせよ、ダメという認識で良いんでしょうか…?」
「あーーいやいやいや、うちの施設より大きくて、もっと精密に調べてくれるところに後日行ってもらいたいんだ。そこでダメと言われるまでは、まあ諦めなくて良いと思うんだよねぇ」
複雑な感情が渦巻き、僕は反応に困ってしまった。
「…まぁ、そういうことだからね、今日はとりあえず帰っていいよ」
「は、はい……ありがとうございました………」
何とも例えがたい、複雑な気持ちを抱いたまま、その日は僕は帰路についた。分からないってどういうことだろう。そもそも、あの研究施設でさえ十二分に「大きな施設」ではないのか?あそこよりも良い設備を備えた場所があるのだろうか?様々な不安を感じながら、僕はその日までの数日間を過ごした。
そしてある日、家のポストに投函されていた一通の手紙。所定の場所に明後日来るように、と書かれている。差出人は「国立能力研究所 第二棟」となっている。
(国立………やっぱりこの前の所よりも、詳しいところまで研究して解明出来るだけの施設なのか?)
──────
当日。僕は国立能力研究所の受け付けを済ませ、案内してくれる人を待っていた。
「あれ、織原くんじゃない?」
聞いたことのある声だった。深く青い色の髪と瞳は、たった一度しか会ったことがなくても、いや、もしかすると会ったことがなくても、誰かすぐに分かっていただろう。
「氷織さん………!」
「驚いたなあ、今日ここに精密検査のお客さんが来るから案内を任されたの。そしたら君がいるんだもんね」
「あぁ、その節はどうも本当に……!」
「いやいや、まだこれから調べるんでしょ?本当にこんなこと、滅多に無いことだよ。さ、ついてきてついてきて」
落ち着いていて澄んだ声、氷とは真逆に心が温められて緊張がほぐれる。そういえば、氷織さんはこんなにも美しい人なのに、あまり女言葉を使わないような気がする。
「……どうしたの?何か考えてるみたいだけど」
「あっ、いや!大したことじゃ………」
そう答えつつも、まだ目的の場所までは少し歩く、時間があるなと思った僕は、思い切って聞いてみることにした。
「………氷織さんって、こんなに綺麗な人なのに、女言葉というか…そういうのあまり使わないですよね。それが、どうしてかな………って」
「ひぇっ!?」
少し甲高い声と一緒に、氷織さんがこっちを振り向いて立ち止まる。そして、3秒ほど視線がかち合って、またゆっくりと歩き出した。それに続いて氷織さんが話し出す。
「………ご、ごめん、褒められるの慣れてなくて…。えっと、女言葉を使わない訳だっけ?まあ別に、これっていう明確は理由は無いかなー。昔から可愛らしい女の子、って感じじゃなかったからさ。まあ自然体っていうか、そんなところかな」
「そうなんですね……あっ、さっき驚かせてしまってすみません!」
「い、いや、大丈夫……気にしないで!」
「………………」
「………私、本当に綺麗、かな……?」
思いもよらぬことを聞き返された僕は、それこそ「えっ」と声が出そうだった。でもどうにか心を落ち着かせ、少し間を空けて僕は答えた。
「本当です!!目とか髪とか、テレビに出てくる時の服装とかも凄く可愛いし…!」
「………〜〜〜っ!!わ、分かったから!!」
氷織さんは前かがみになりながら、後ろにいる僕に向けてバッと右手を出して静止させるようにした。もう片方の左手は、恐らく胸の辺りにあったと思う。
(えぇ〜〜〜っ!?織原くんやめてよ〜〜……!絶対顔赤くなってるよ私………!!不意にこんなに褒められるとか慣れてないんだもん………!)
その後、僕は何を言ったのか思い返し、酷く赤面してしまった。そこから先は、目的の場所に着くまで何を話したのか、あまり覚えていない。