2章 17話 3節
ミサイルポッドをパージしたトワは、右方向へとスライドする。
敵との距離は一定に、敵を中心に右旋回していくような動きだった。
クラークはトワの行動に不信感を出した。
「こいつ、我々の後方に回り込もうってつもりか?
あくまでもルカゼ様を狙うとっ!?」
しかし、ボージュ大尉は冷静である。
「そんな事をすれば、我々に挟み撃ちに合うだけだ。
敵はそこまで馬鹿ではあるまい。
警戒を怠るな。」
激しく通信が飛び交う。
戦場への場慣れという面では、ワルクワ軍は全体的に経験値に乏しい。
戦場を観測していたマラガ曹長の報告も焦りが見えていた。
「大尉、敵のミサイルですが、
規則性なく出鱈目に動いています。
こちらに向かってくるミサイルはありません。」
「なんだ?
苦し紛れにミサイルを撃っただけか?」
トワの放ったミサイルは、ワルクワ軍FGキトへと向かわずに
それぞれがあさっての方角へと進んでいた。
各ミサイルのスピードもまちまちであり、
まるで戦場にばら撒かれた感もある。
ボージュ大尉は判断に迷ったが、基本に忠実に指示を出す。
「マラガ。敵の狙いが判らん以上、
ミサイルも放置は出来ん!
引き続き貴官は、ミサイルの軌道を追え!」
「承知しました!!!」
マラガのFGキトが、48発のミサイルの軌道を計算に入った。
その瞬間をトワは狙っていた。
「そこか。」
トワのコントレヴァの右腕が伸び、手にした銃を突き出す。
銃はソーイが装備している銃と同型である。
つまりビームライフルであった。
マラガのFGがミサイルの軌道計算に一瞬動きを止めた瞬間を
逃さなかったのである。
パッ!とした閃光が走り、宇宙空間を一閃する。
光の束は見事にマラガのキトを貫いた。
バッ!と火球が広がる。
ビーム光線は光の速さで進む。
気付いた時には、光の残像が見えるだけである。
ボージュ大尉は、トワ機もビールライフルを装備している可能性を
考慮はしていたが、予想は最悪な形で迎え入れられる。
「くっ・・・・・・。
やはりこちらの敵もビームライフルを・・・・・・。
各員、散れ!
まとまっていてはビームライフルの餌食に合う。」
ビームライフルに対抗するためには、動き回らなければならない。
光の速さで進むビーム光線を、狙って避ける事は出来ないからだ。
ボージュの指示は間違ってはいない。
だが、間違っていないからこそ、トワの予想通りの動きでもあった。
「温いな。
状況判断がお粗末すぎる!」
トワはコンソールパネルはパッパッと叩くと、
スーパーコンピュータ「バッカー」から信号が宇宙空間に飛んだ。
ピッピッ!と反応したのは、それまで闇雲のように飛行していたミサイルである。
信号を受け取ったミサイルの一部は自動レーダーでキトの位置を計算し、
軌道を変えた。
48発の内、計算された12発がビームライフルから逃れようとする
キトに照準をつけ、自動追尾態勢に入る。
一気に方向を変え、襲い掛かったのである。
しかし、ミサイルの軌道計算をマラガに命じていたワルクワ部隊は
このミサイルの動きに反応が遅れた。
もちろん、それを狙ってのトワの射撃である。
撃ち落とされたマラガも正直すぎた。
ミサイルの軌道計算のために一瞬FGの動きを止めたところを
トワに狙われたのである。
そして、マラガのFGを墜とせば、敵部隊のミサイルへの反応が遅れる事も
トワは計算していた。
まず一番最初に標的になったのは、新兵であるロイブーン一等兵だった。
「うわっわっわっ!
ミサイルがこっちに!!!!」
彼は激しくレバーを倒し、回避しようとしたが
自動追尾機能で誘導されたミサイルは、無慈悲に逃げ場を奪うと
キトは真正面からミサイルを受け止めた。
カッ!と再び火球の光が宇宙空間を照らす。
2機目の損害である。
ボージュ大尉は信じられないような表情をした。
「何をやっている!?
誘導ミサイルぐらい振り切れ!
特段、目新しい兵器ではないはずだ!」
しかし、ワルクワ軍の混乱は更なる拍車をかけた。
2機目の撃墜を見て、同じく新兵のエドワード二等兵が
パニックに陥ったのだった。
「こんなの!?
こんなの聞いてない!
これに意味はあるんですかっ?
こんなの無駄死にだ。
僕は付き合ってられませんよ!
意味のない戦闘なんか、やってられるかっ!」
「!!!
エドワード?
何を言っている?」
「やってられないって言ってるんですっ!」
会話になっていなかった。
彼は無造作にレバーを倒すと、母船のいる方向へとバーニアを吹かす。
トワらからは確認出来ていないが、近くにワルクワの母船が居る事はわかっていた。
FG単独で、長時間の宇宙航行は出来ないからである。
輸送用の船が居るはずだった。
だが姿を隠しているわけで、敵にその場所を察知されるような動きは
やるべきではない。
しかし、エドワードは何も考えずに、母船の居る方向へと飛んだのだ。
慌てたのはボージュ大尉である。
「エドワード!待て!戻れ!」
その光景を見ていたトワは苦笑する。
「出来の悪い部下を持つと苦労しますな。
同情しますよ。」
一直線に母船へと戻ろうとするエドワードのキトは
トワから見れば鴨だった。
およそ回避行動とは思えない直線的なその動きは、
トワのビームライフルの射撃のかっこうの的でしかなかったからである。
2発目のビームライフルが宇宙空間を切り裂くと、
エドワードのキトが光の束に貫かれ、そして爆散した。
またたくまに6機いたワルクワ製FGキトは
その数を半分にまで減らしたのである。




