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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 16話 4節

1mもの大きさの光の玉が、ルカゼの右手より発せられる。

ビシュー!

と聞きなれない音が部屋の中に響いた。

ソーイを目標に発せられた攻撃であったが、ソーイはなんとか

その光の玉を身体をくねらせて避けた。

空しく空を切った玉は、そのまま部屋の反対側の壁に届くと、

ジュゥゥゥー!と高熱が鉄を溶かすような音を出し、

壁を融解させる。

勢いはそのまま止まらず、壁の向こう側まで突き抜けると、

ドガーーーン!!と

船内で大きな爆発が起きる。

誘爆するような何かに当たったかのようであった。

誘爆の炎が、壁の穴から逆噴射し、ソーイたちの部屋にも跳ね返ってくる。

焦げ臭い匂いと、熱が彼らを襲った。

ソーイは脱いでいたヘルメットを被りなおす。

船体に穴が開いたからである。

船内の空気が一気に宇宙空間に逃げる。

モミジはルカゼを睨んだ!


「あなたはまた、こんなところで強力な魔法をっ!

人が死ぬのよ!?わかっているの!?」


「襲ってきて、その言い分!

私から望んだ結果じゃない!」


ルカゼが言い返す。

ルカゼの魔法を見て、モミジもまた魔法の出力を上げた。

バリバリバリ!と電流が彼女の周囲を包みこむ。

二人は戦闘を継続していたが、トワとソーイは周囲の確認も怠らなかった。

ルカゼの魔法攻撃は、船への損害を度外視したものである。

トワが左の腕に付けられた通信機のスイッチを入れた。


「ナミナミさん、ルカゼが暴走した。

最悪、船が沈む。

俺たちも宇宙空間に放り出されるかもしれない!」


ヘルメットからナミナミの返事が返ってきた。


「生体反応をONにしておいてください。

必ず拾います。

アカツキ、離船急げ。

フィーブルから切り離すぞ!

ソーイ、副長を頼む!」


ナミナミの声にソーイは一旦ルカゼから距離を取る。

闇雲に、船の損害を考えないで魔法攻撃してくる相手では、

さすがのソーイも慎重にならざるを得なかった。


「トワさん!

あいつは危険だ!

ここで仕留めないと!」


「ああ、思った以上だな。

なまじガキだからタチが悪い。

だが船が崩壊したら、足場がない俺たちは不利だ。」


トワはモミジを見た。

同じ魔法を使うクールン人。

トワらは、宇宙空間でルカゼが宇宙服もなしで行動していたという情報は

仕入れていた。

彼女にとって、宇宙空間はデメリットにならない。

同じクールン人のモミジも、真空中で物体を動かす事ができた。

それは自分自身を自由に動かせるという事であったが、

今のモミジは戦闘において、床を蹴り、重力下の運動能力でルカゼを圧倒していた。

それは船の中で、人口重力が働いている状況下であるからこそ

可能な技である。

コンバットスーツを着ているため、宇宙空間に放り出されても

問題があるわけではなかったが、

足場と重力を失う事は、格闘能力を発揮できずに、

純粋な魔法力の戦いになるという事である。

それは、モミジにとって好ましい事ではない。

ソーイが舌打ちする。


「くそ!そこまで考えて、

味方を犠牲に!」


「いや、そこまでは考えていないだろう。

考えていたら、真っ先に宇宙空間に逃げるはずだ。

良くも悪くも、アレはガキだよ。」


実際、そこまで考えいたかは不明だったが、

ルカゼの2発目の光球が再度、壁を突き抜ける。

再び、船に爆発音が響き、艦内が大きく揺れた。

しかもさっきの爆発よりも大きい。

エンジンなどの動力部に被弾したかのような衝撃である。

激しい振動が彼らを襲う。

緊迫した場面で、一人の男が床を這いながら近づいてきた。

リー教授であった。

彼はコンバットスーツを着ておらず私服であったため、

徐々に艦内から放出される酸素の薄さに

喉を押さえ、苦しんでいた。


「ト・・・・・トワ殿。

助けを・・・・・・うぐぁ。」


トワは刀を振り降ろすと、リーを問答無用で切り伏せた。

ブン!と刀を振ると、刀身についた血を払う。


「リー教授。

モミジは我々の家族です。

家族への仕打ちを考えれば、

苦しまぬようにトドメを指すのは、優しさであると認識していただきたい。」


トワの声はもはやリーには届かない。

隣にいるソーイも、リーを憐れむ事はなかった。


「脱出を。

もう船が持ちません。

宇宙空間で決着をつけましょう!」


ソーイの言葉にトワは目を丸くした。

宇宙空間では、モミジは不利である。

もちろん、トワやソーイも自由に動けるわけではない。

だが、トワはソーイの意図を読む。


「FGか!?」


ソーイは頷いた。

今回の護送に戦艦アカツキを導入したのは、

FGを運搬するためでもあった。

アカツキには、トワとソーイのFGが2機配備してある。

人型巨大ロボットFGならば、宇宙空間でルカゼと互角に戦えるはずである。

少なくとも生身で魔法に立ち向かうよりは良いと思えた。


「よし!

アカツキに合流する。」


二人はルカゼの魔法で穴の開いた壁を見た。

空気が薄くなっているせいか、爆炎は既に鎮火している。

そして少し距離はあるが、見事に宇宙空間へと繋がっていた。

コンバットスーツを着用していたため気付かなかったが、

空気はどんどん宇宙に放出されている事だろう。

二人の挙動にルカゼが気付く。


「逃げる?

モミジお姉ちゃんを置いて!?

だから人間はっ!」


ルカゼの台詞にモミジが嚙みついた。


「信用されているのよ!

あなたには、私一人で大丈夫だってね。

可哀そうな娘。

何も信じられないのね。」


「馬鹿にしないでっ!!!」


ルカゼは叫ぶと、右手を頭上から斜めに切るように振り下ろした。

衝撃波がモミジを襲う。

ボワッ!

しかし、衝撃波ルカゼの前面で掻き消えるように霧散した。


「何っ!?」


バリアを展開していたようにも見えない。

バリアなどにぶつかったのであれば、空間が激しく歪むはずである。

しかし、空間はそのままに、まるで霧が晴れるように霧散したのである。

モミジは動きを止め、真っすぐにルカゼの正面に立った。


「ルカゼ。

あなたの魔法は力任せ。

まるであなた自身のように、ただ暴れているだけ。

魔法は繊細なものよ。

魔法の扱いでは、私が上だわ。」


「先輩ぶるなー!」


ルカゼは今度は両手を頭上に掲げ、右手、左手と振り下ろした。

手刀で空気を切るかのような仕草から、再び衝撃波のようなものが

繰り出される。

しかし、先ほどと同じように空中で霧散する。

その様子を見たトワは、言葉も発さずに壁に空いた穴の中に入っていた。

ソーイも後に続く。


「トワさん、モミジ、大丈夫でしょうか?」


「あいつは大丈夫だ。

だが、トドメはさせないだろうさ。

優しいからな。

そこは俺たち大人がやらなきゃいけない。」


トワはまるで結果がわかっているかのように

ソーイに返したのだった。


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