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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 16話 2節

戦艦アカツキが護送艦フィーブルに接弦したのは

3月28日の事である。

船と船を繋いだ通路から、リー教授と3人のガイアントレイブ兵士が

護送艦フィーブルに乗り込んでいく。

リー教授に付きそうのはトワ、ソーイ、モミジの3人であったが、

陸戦用のコンバットスーツに身を包み、中身は誰かわからない。

重火器の持ち込みはセンサーによって発覚し、

禁止されていたので、コンバットスーツに身を包んでいても

丸腰同然であり、戦闘行為を行うとは考えられていなかった。

むしろ、宇宙服でもあるコンバットスーツの着用は

不自然ではなかったのである。

リー教授のみ私服姿だったのが、むしろ囚人を連想させた。

4人は護送艦フィールズに到着すると、

案内の兵士3人に囲まれ、艦内へと進む。

ワルクワ側の兵士たちはコンバットスーツは着用していなかったが、

銃を構えており、4人を牽制していた。

艦内では微弱な電波も感知され、通信も傍受されてしまうので

トワたちはお互い会話をする事もなく、無言で艦内を進む。

ルカゼが近くにいる可能性があるため、

モミジを介した魔法による通信も行わなかった。

7人は黙ったまま、艦内を進んでいた。

当時の慣習として、要人の受け渡しの際は

その場の責任者のサインが必要であり、

トワらは、フィーブルの艦長の元へと案内されているのだと思われる。

出迎えにきた船が戦艦などの戦闘艦であれば、船の機密保持のため

船同士を接弦した通路の出口でサインなど交換される事も多かったが、

護送艦であるフィーブルは特に見られて困るようなモノはないのであろう。

トワら客人を中まで迎え入れたのであった。

通路を歩き、ドアの前で案内役の兵士が立ち止まると、

ドアに手をかざした。


「こちらになります。」


4人は部屋の中に入る。

そこには一人の中年の男と、一人の少女が椅子に座って待っていた。

先に男が立ち上がる。


「ご苦労さまです。

フィーブルの艦長ダッタカ大佐であります。」


男は無造作に4人の前に歩いてきた。

先頭に立つリーの前で立ち止まると、

口元を吊り上げ、笑みを見せた。


「リー教授でございますな。

我が国は教授を容疑者として迎え入れますが、

身の安全と公正な裁判をお約束致します。

ご安心ください。」


リーの口元がへの字に曲がった。

笑みを返そうとしたのであろうが、表情がひきつっていた。

ダッタカは気にも止めない様子で、

護送してきた3人の兵士を見た。

一人が前に出ると、コンバットスーツのヘルメットを脱ぎ、

素顔を晒す。

ヘルメットを脱いだのはソーイである。

モミジは正体を明かすわけにはいかなかったし、

トワは顔が売れすぎていた。

また、ソーイは若く相手の油断も誘えた。

ナミナミの指示である。


「リー教授護送の任にあります、ソーイ中佐であります。

引き渡し文書にサインを頂きたく。」


中佐というのは嘘である。

真和組は軍に所属していたわけではないので、階級はなかったが、

この場では軍人を演じるほうが都合が良い。

ダッタカは「うむ。」と頷くとソーイから一枚の紙きれを受け取る。

紙に文章を書くという文化は、古の文化であり、

一般社会ではほとんど行われなくなっていたが、

データでは改ざんが容易であること、

消失の危険性が高い事などから、公的文書のサインなどは

紙とペンによる直筆が尊ばれており、この時代でも珍しいものではない。

ダッタカは文書を受け取ると、机とペンを求めて元居た場所に下がる。

ダッタカと入れ替わりで立ち上がったのは

もう一人部屋の中にいた少女だった。

それが誰かは、ここにいる全員が知っていた。

リー教授が動揺していたのも、彼女の存在が原因である。

少女は立ち上がると、リーを見た。

その眼差しは決して好意的には見えない。


「お久しぶりだな。教授。

裁判では、私と争う事になると思う。

お手柔らかに頼むよ。」


10歳の少女とは思えないほどの落ち着きようで

リーを更にたじろがせた。


「ルカゼ。

君たちクールン人の力は、人類にとっては脅威なのだ。

気の毒だとは思うが、私は前任者の仕事を継いだだけであり、

私でなくとも、人類は君たちを監禁したと思う。

決して、君たちが憎くてやったわけではない。

それだけは理解して欲しい。」


「理解している。

あなたが功名心で行った繁殖計画。

魔法の軍事利用。

理解しているからこそ、裁判で争うのだろう?

納得していなければ、あなたの首は

既に胴から切り離され、床に転がっている。」


鋭い眼差しでルカゼはリーを睨みつける。

彼女は研究所暮らしで最低限の教育しか受けていなかったが、

まるで帝王学を学んだ貴族のように尊大であった。

とても10歳の少女とは思えない貫禄で

リーを圧倒する。

そして言葉だけではなく、それが彼女には可能なのである。

魔法の力を知るリーだからこそ、その恐怖を感じ取っていた。

腰が引けるリーの隣で、ソーイではないコンバットスーツの兵士が

一歩前に出る。

その動きにルカゼは一瞬眉をしかめた。

「ん?」

と呟いた瞬間、コンバットスーツが前方へとダッシュする。

腰に掲げた50cm程度の警棒のようなものを抜き出すと、

二つ折りにされていた刀身が棒の中より現れ、1m近くの

刃のようなものに変形した。


「剣?そんなものでっ!」


急な事ではあったが、兵士のターゲットはルカゼであるのは明白である。

だが、彼女には余裕があった。

彼女は魔法を使う。

自身の周囲に空気の層を重ね合わせ、結界のようなバリアを生成する。

銃弾さえもはじき返す事ができるバリアで

剣などの刃物などたやすく防御できた。

だが、兵士の前方へと進むスピードは、

通常の人間の速度を大幅に凌駕していた。

ルカゼは瞬時に、その脅威の中に魔法の力を察知する。


キィィィィィィン!


兵士の振るった警棒剣の刃が、ルカゼの50cm程度前で何かにぶつかった。

バリアに止められた形ではあったが、パリンッという音と共に

空間に亀裂が入ると、まるでカラスが砕け散るかのように

空間が砕け散った。

空間が砕け散ったと言っても、空間そのものがなくなったわけではなかったが、

何もなかった空間が文字通り「割れ」そして、破片が床に落ちては消える。

ルカゼは2重、3重のバリアを展開し、

兵士の追撃を押さえる。

そしてヘルメット越しに相手の顔を確認した。


「!!!!!モミジ姉ぇ!」


ルカゼの声に応えるが如く、更なる剣戟がルカゼを襲う。

ルカゼは部屋の後方に後ずさりしながら、剣戟を耐えるしかなかった。

そこに反撃する余裕は感じられなかったのである。

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