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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 16話 1節 アカツキ事件

ガイアントレイブ王国所属の戦艦アカツキが

神聖ワルクワ王国が占有するコールドウェイ星系に

到着したのは星暦1003年3月26日だった。

アカツキはワルクワ王国の指示に従い

合流地点である惑星ストラの公転軌道上へと導かれる。

この場所はガイアントレイブ艦隊が駐留している場所からは遠く、

客観的に見て、リー教授の引き渡しポイントとしては

妥当な場所であると言えた。

しかし、ワルクワ艦隊との距離がある事で

真和組副長トワは口を尖らせた。


「想定内とは言え、本隊と距離を取ってきたな。

ルカゼがこの場所に姿を現す確率としては半々ってところか。」


トワの眉間がへの字に曲がる。

彼としてはリー教授を餌に、ルカゼに近づき、

そして暗殺する計画がある。

もちろん、ルカゼが姿を現さない可能性も高かったが、

その場合は、素直にリー教授をワルクワに引き渡して

この作戦は終了だった。

トワはルカゼが姿を現す事を熱望していたが、

同行しているナミナミは、ルカゼが姿を現さない事を願っている。


「女王陛下はクールン人への迫害について

リー教授に全て責任を押し付けるつもりです。

今回はそれで良しとするのもアリでしょう。

私としては、ここにルカゼが来ない事を願っていますよ。

クールン人の魔法ってやつは、力が未知数ですからね。」


「だけどナミナミさん。

陛下はルカゼの除去も願っている。

それこそ、力が未知数だからだ。

人の世に、魔法は不要だと確信している。

倒せるものなら、ここで決着をつけたい。」


二人の会話にオペレータの報告が割り込んだ。


「ワルクワから通信きました。

Y880ポイントを合流地点に指定です。」


トワが即座に反応する。


「ワルクワさんの指示に従え。

こちらから動く事はない。」


「はっ!」


トワは周囲を見渡す。


「さて、吉と出るか?凶と出るか?

モミジ!

ルカゼの反応は感じるかい?」


近くにいたモミジ隊員に話を振った。

二人の側で待機していたモミジは首を振る。


「今のところはわかりません。

魔法を使ってくれたら直ぐにわかるのですが、

今はその気配はナシです。」


「よし。

なら、当初の計画通り、教授の引き渡しに同行するのは

俺とモミジとソーイの3人だ。

ナミナミさん、バックアップは頼みますよ。」


トワはウインクでナミナミに合図した。

ナミナミはヤレヤレという表情で応える。

トワとソーイは真和組でも1・2位を争う剣士である。

剣術大会で優勝を独占する二人であったので、

モミジの護衛としてはこれ以上のない人選だと言えた。

そして、モミジはクールン人。

ルカゼの魔法に対抗できる唯一の存在であった。

この3人がリー教授の引き渡しに付き従う。

ナミナミは頷いた。


「ではこの後の指揮権は引継ぎます。」


言葉とは裏腹に不服そうではある。

トワは真和組の副長であり、ソーイは1番隊隊長である。

その二人の人選は、真和組の現在の最高戦力ではあるが、

もし二人を失う事になれば、真和組は崩壊しかねない。

二人に任せておけば問題ないという信頼と同時に、

何かあった時の損害が大きすぎるのであった。

だが、トワを知るナミナミは、トワの決定に異を唱える事はしなかった。

トワは何事にも、最善を尽くす人物であることをナミナミは

知っていたからだ。

小さな町の剣術道場であった真和組を

ガイアントレイブ王国の憲兵組織と言われるまで成長させたのは、

何よりも、トワが物事に対して常に最高戦力をぶつけてきた結果である。

彼自身が前面に出て、物事を決してきた結果であるからである。

対ルカゼの最終兵器であるモミジを失うわけにはいかない。

そのモミジにトワとソーイを護衛に付けるのは

理に適っているのであった。

だが苦言の一つも言いたくなる。


「アサーテ公爵がぼやいていましたよ。

トワさんが前線に出なくていいように

組織を大きくするのに協力しているのに、

あいつは直ぐに前線に出たがるって。

結婚でもして、落ち着いて欲しいと。」


トワは首を振った。


「組織が大きくなれば、隊員の数が増えるんだ。

それを食わせていかなきゃいけない。

俺が落ち着くのは、まだまだ先さ。」


それに今は戦時中である。

ガイアントレイブ王国は、ワルクワとスノートールと

つかの間の休戦状態ではあるが、戦争を行っている。

戦争に負ければ、真和組に未来はないのである。

後方でふんぞり返っているわけにはいかなかった。


「それに組織の運営はナミナミさんのほうが上手だろう?

俺は前線のほうが似合っているよ。」


とトワは言うが、ナミナミが組織を指揮できるのも

トワのカリスマがあってこそである。

武闘派集団でもある真和組に、規則を浸透させているのは

トワの絶対的な武力であって、

ナミナミの組織運営の賜物ではない。

それはトワ自身も理解していたが、

真和組がトワに頼っている内は、ただの武装集団でしかないという

認識もあった。

真和組隊員が、定職として真和組として働き、

生活基盤を整えられるようにするためには、

トワの武力ではなく、ナミナミの組織力で組織が運営されるように

ならなくてはならない。

真和組上層部の共通認識である。

そのためには、実績がいる。

今回の作戦も今はトワの力を必要としていたのである。



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