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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 15話 6節

神聖ワルクワ王国にも、リー教授護送の報は

クールン人の存在を知る面々に驚きをもって伝えられた。

当のクールン人であるルカゼは、現在

貴族としてのマナーや作法の勉強をしながら、

ワルクワ艦隊に流れる娯楽映像番組に出演するようになっていた。

大人ばかりのいる軍艦隊の中に、

10歳の少女がいるという噂が広がっており、

その存在を隠す事が出来なかったため、

ガルの発案の元、ルカゼを広報部に所属させ、

娯楽の少ない宇宙艦隊の中で、兵士たちに娯楽を提供する

タレントとしての存在価値を見出したのだった。

何気にこの作戦は功を奏し、

兵士たちの間でルカゼは、ちょっとした有名人になっている。

この日も、宇宙艦隊食堂の新メニューを紹介する番組に

ルカゼは出演しており、味気ない栄養食に

スパイスを加えた新メニューの食レポを行っていたのである。

番組が終わり、スタッフたちに挨拶するルカゼに

ガルが近づいて行った。


「本当にルカゼさまは、ただの栄養食だと言うのに

美味しそうに食べる。

兵士たちにも、新メニューを考案したコックたちにも

ルカゼさまは好評ですよ。」


手にしたドリンクをルカゼに手渡しながら言った。

ルカゼは不思議そうにガルを見返す。


「研究所の食事よりも全然おいしいし、

食事を楽しめるように創意工夫されている。

おいしいと感じないほうが問題だろう。」


さも当然といった素振りである。

軍の栄養食といっても、軍人に提供される食事は

食事が娯楽ではなく、生きるための最低限の行為である

この時代の一般の食事に比べれば、かなり美味しいとは評判ではあるが、

それでも、味気ない部類の食事である。

それよりも不味かったという研究所の食事は

最低限レベルの食事であったのが推測された。

ガルは話題を本題に移す。


「研究所と言えば、総責任者のリー教授が

国際裁判所に出頭する為に、我が国に護送されてくるそうです。」


「教授が!?」


ルカゼの表情が一瞬にして曇るのをガルは見逃さなかった。

ガルの予想通り、彼女にとって

リー教授は好意的な存在ではないのであろう。

その反応を確かめて、彼は言葉を続けた。


「正直、クールン人の研究成果は我々人類から見れば

喉から手が出るほどに欲しい情報です。

それを惜しみなく渡してくるガイアントレイブの魂胆が

計りかねますね。

ですが、個人的な意見を言わせてもらうのであれば、

ルカゼさま。あなたの魔法は天より授けられた

神秘の力。

人間如きが、解析しようなどと畏れ多い事です。

ですが、人はクールン人を理解し、管理し、

そしてコントロールしたいと願うでしょう。

リー教授の存在は我が国にとって好ましくないと考えます。」


ガルの言葉にルカゼは即答を避けた。

ガルは追い打ちをかけるかのように言葉を紡ぐ。


「それは、ガイアントレイブのように

貴方を研究対象とし、利用するという事です。

それを嫌って我が国に亡命してきたあなたの本意ではないはず。

ですが、陛下も含め、

多くの者たちはリー教授の研究成果を求めています。

仕方ない事とは言え、私はそれを阻止すべきだと考えている。」


ルカゼの視線がガルから流れた。

ガルは鋭い男である。

目を合わせていたら、自分が何を考えているか

見透かされるような気がした結果だった。

そして口を開いた。


「研究対象になるのは、もう勘弁願いたいね。

でも、どうするんだい?

教授はこの国に来るんだろ?

今更突き返す事なんて出来ないんだよね?」


ガルは淡々とした口調でルカゼに対した。


「事故にみせかけて始末しようと考えています。

もちろん、ルカゼさまの手を煩わせるつまりはございません。

ただ、リー教授が偽物かどうかの確認はしていただきたい。

可能性は低いと思いますが、

ガイアントレイブが偽物のリー教授を差し出して

我が国の混乱を狙ってきている事も考えられますから。」


ルカゼはガルの言葉に笑顔で返す。

彼の言葉の意図を感じたからだった。


「それと、私が独断で動くな!と言いたいのだろう?

そう言うことはハッキリ言えばいい。

大丈夫さ。

教授に恨みはあるけど、今はそれよりも

この国でやろうとしている事が大事で、

そのためには、ガル、あんたの協力がいる。

逆に私もあんたに協力するし、独断は控える。

その位の決意はあるよ。」


「助かります。」


ガルは一言だけ答えた。

余計な言葉はこの場には必要ないと考えたのだ。

ガルの返答にルカゼは疑問に思っていた事を尋ねる。


「それはそうとして、あんたの

本音が聞きたいね。

何故にそう協力してくれるんだい?

クールン人の人類支配。

人としては拒絶するのが普通だと思うが。」


ルカゼの疑問は当然である。

彼女は人類の協力者を求めてはいたが、

率先して協力してくれるような人物は現れないと思っていた。

そこは魔法という絶対的な力で

言う事を聞かせるしかないと割り切っていたのである。

しかし、ガルはルカゼの考えに同意し、

人間社会でルカゼが認められるようなアイデアも出してくれる。

研究所暮らしで社会経験のないルカゼにはない発想だった。

それは不思議な事だったのである。

ガルは軽く目線を下げた。


「私はこの世界に絶望していた。

努力しても、どんなに才能があろうが、

ウルス。

スノートールの皇帝には叶わなかった。

奴に勝ちたいと願っても、

届かなかった。

越えられない壁というものがあり、

私は自分の境遇を受け入れるしかなかった。

ルカゼさま。

貴方に会うまでは。

貴方の存在は、私にとっては希望なのですよ。

ウルスと対等に渡り合うために。

私は、奴の部下ではなく、対等なライバル、

そして友人でありたい。

貴方がいれば、それが可能なのです。」


ガルはスノートール生まれで、士官学校時代には

皇帝ウルスと学年主席をかけて争っていた人物なのは

ルカゼも知っていた。

右往左往あり、今はワルクワ王国の食客となり、

対ウルスの切り札として、ドメトス6世の懐刀的な存在になってはいるが、

確かに、内戦に勝利し皇帝にまで上り詰めたウルスとでは

差がついてしまった感は拭えない。

比べる相手が悪いのではないか?とルカゼは思うが、

それは口に出さなかった。


「私は私の望みが叶えられればそれでいい。

頼りにしているよ。」


ルカゼの言葉にガルも笑う。

二人には、とんでもないことをしようとしている自覚があった。

その自嘲が含まれた笑みだったのは言うまでもない。

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