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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 15話 5節

タクは気落ちするハルカに

「食堂で何か食べよう。」と

ブリッジから退出させた。

廊下を歩く二人の足取りは重く、

いつもは陽気な彼女の元気のない姿に

タクはいたたまれなくなる。

思わず、声をかけた。


「ハルカ。

ルカゼを連れて、外宇宙に逃げよう。

今でさえ、大人たちはルカゼを危険視している。

教授との対面が平和的なものだったとしても、

この世界はルカゼには優しくない。」


外宇宙とは、銀河の外という意味で使われる。

つまり琥珀銀河の外に出ようと言うのだ。

人類発祥の地は琥珀銀河ではなく、

太陽系があった銀河だと言われている。

その発祥の地である銀河を出た人類は、

千年以上の時をかけて、琥珀銀河にたどり着いたが、

銀河系の人類が、外に出た人類の行先を知らないのと同様、

琥珀銀河から外に出た人類をタクたちは知らない。

公式記録では、琥珀銀河から外宇宙に出た人類は存在していなかった。

もしかしたら居るのかも知れないが、

そのような人類がどうなったかを知る由はない。

銀河と銀河を結ぶような大きな宇宙河の流れに乗ってしまえば、

それは一方通行であり、戻ってくる事はできない。

河の流れに沿って、どこか遠くに行ってしまうのだ。

琥珀銀河にたどり着いた人類も、

最初から琥珀銀河を目指していたわけではなく、

宇宙河の流れに導かれて、偶然たどり着いたに過ぎない。

外宇宙に出るというのはそういう事だった。

つまり、タクが言っているのは、空想の世界を語るようなものだった。

ハルカはタクの言葉に唖然とする。


「外宇宙って?

宇宙河に乗って、琥珀銀河を離れるって事?

そんなの出来るわけがないじゃない。

出来たとしても、私たちは一生を宇宙河の流れに流されたまま

終わるのよ?

なんにもない虚無の時間を過ごせって言うの?」


ハルカの言葉は正論である。

銀河からこの琥珀銀河にたどり着いた人類は、

人口2億人が住む巨大な宇宙コロニー「フロンティア」シリーズで

銀河を旅立ったのである。

フロンティアは宇宙河を悠然と流れに沿って流れていたが、

コロニー内では、日常の生活が続けられていた。

皮肉ではあるが、人類の歴史において、

一番平和な時代だったのが、この宇宙河を流れた千年であったと言われている。

コロニー内であったため、天変地異などなく、

また、安全のために市民は徹底的に管理されたが、

自由を奪われるほどではなかった。

コロニー内での重火器の使用はご法度であったし、

もしコロニーが破壊されてしまうような事態になれば、

2億人が全滅するのは確定であり、

市民は管理される事を受け入れるしか方法はなかったのである。

人道的に非難される事もないとは言えなかったが、

宇宙河を流れるコロニーの住人として暮らしたこの時期の人類は

他の時代と比べると、平和そのものだったのである。

だが、それは2億人という数の人口が居てこそである。

クールン人全てを合わせても30人程度で、数名の協力者が居たとしても

100人にも満たない人口で外宇宙に出るという事は

どういう結末を迎えるのか?は想像に難しくない。

もしかしたら、鼠算的に人口は増えていく可能性はあったが、

船はフロンティアシリーズのような大型コロニーであるはずもなく、

いずれ食料問題が発生するであろう。

人口100人の村が、千年の間ずっと100人の人口で

維持できるはずもない。

出来たとしてもそれは退屈で機械のような人生を送らなければならないと言う事である。

琥珀銀河の住人は宇宙船に乗って宇宙航路を数か月かけて旅行するが、

それは目的地に着くまでという制限があるからこそ可能であって、

一生を宇宙船の中で暮らすというのは話が変わってくる。

それに実際のところ、今までもクールン人は社会から隔離されてきた。

宇宙船の中で暮らす人類と似たような状況にあったのである。

だからこそ、ハルカは嫌悪した。

せっかく自由を手に入れたところで、自由を手に入れる前と同じような生活を

しなければならないのであれば、逃げだす意味がないのである。

その辺りの感覚は、タクにはない。

だから、タクは話を続ける。


「でも、ルカゼを助けるためには

それしか方法はない。」


「そんな、助けるって、

ルカゼはまだ何もっ!!」


とハルカの言葉が止まった。

ルカゼは裁かれるような罪をまだ犯していないと言おうとしたのだが、

躊躇したのである。

二人の脳裏にロアーソンでの出来事がよぎった。

公式に、惑星ロアーソンの崩壊と消滅の原因は不明である。

恐らくルカゼの魔法の暴走だろうと、事情を知っている者たちは

考えていたが、あくまでも推測の域を出ない。

だが、二人には確信があった。

ルカゼの姉であり、同じクールン人であるハルカと

その時、ルカゼに一番近くにいたタク。

この二人は確信を得ていた。

あの力はルカゼの魔法の暴走の結果であると確信していたのである。

この事をタクは誰にも言っていなかった。

そもそも根拠も証拠も何もない推測の話である。

言う必要を感じなかった。

だが、タクが大人たちに言わなかった理由はそこではない。

彼はルカゼを守りたいと思っていたから言わなかったのである。

しかし、惑星一つ。

3億人の人の命。

ルカゼの暴走で失われた命の数を考えれば、

彼女の罪は、人類社会では決して許されない大罪であろう。

だから、タクは外宇宙に逃げるしかないと言う。

それがわからないハルカではなかった。

しかし。


「外宇宙に行くにしても、船がいる。

あなたに何が出来るのよ!?

ただの二等兵で、子どもで、

何の力もない癖にっ!」


「力はないかもしれない!

でも、俺の父さんは軍のエースパイロットで

皇帝陛下の御学友だ。

今だって、その縁でこの船に乗っている。

そして、俺は君に出会った。

ハルカ!君の目の前にいる!

君とこうして、今会話をしている!

それは、力だって思うんだ。

運命とか宿命とかそういうのは好きじゃないけど、

今、君の目の前に俺がいるのは、決して無意味じゃないっ!」


タクの勢いにハルカは言葉を失う。

タクは右手の拳を握りしめた。


「これだけの縁があって、

ハルカやルカゼ、君たち二人も守れないような

そんな事って俺は嫌だ。

母さんは守れなかったけど、

だけど、同じ過ちは繰り返さない・・・・・・・。」


それはハルカに向けられた言葉ではなかったが、

タクの真剣な表情に、彼女は何も言い返さなかった。

「余計なお世話だ」と言いたいところであったが、

彼女には代案がなかったからである。

それに彼の母、カレンディーナを殺したのは

クールン人の同胞という負い目もある。

タクは黙ったままのハルカの瞳を見つめる。


「出来るかどうかは、正直わからない。

でも、誰かがやろうとしなきゃ、叶えられる事は絶対ないんだ。

何もしないで、ただ待ってるだけで、

それで希望が叶うって事は、甘い考えなんだ。

今の俺には力が、人の縁がある。

俺の今の立場で、何もしないってのは

罪なんだと思うんだ。」


タクは少し弱気を見せながら優しく笑った。

ハルカは納得したわけではない。

でも、否定するつもりもなかった。

彼の思いを完全に拒絶はしなかった。

ただ今は唇を少し噛んで、タクの眼差しを受け止めることしか

出来なかったのである。


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