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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 15話 2節

デ・レロの追及にガイアントレイブ大使ムサバは

初めて表情をこわばらせる。


「クールン人問題に関しては、陛下も心を痛めています。

監督不届きなのは間違いありませんが、

クールン人の研究は、陛下の知らぬところで行われておりました。

こちらに関しては責任者を明確にし、

罪は罪として償わせる意向であります。」


「それは、良いことだ。

だが、ガイアントレイブ国内で裁くのでは

話にならん。

こちらも国際裁判所への出頭を要請しているはずだが、

こちらは飲むという事でよろしいか?」


デ・レロは笑みを浮かべつつ、ムサバを睨んだ。

デ・レロはこの要望もガイアントレイブは突っぱねると考えていた。

国際裁判の出頭となれば、全ての国に裁判の内容は筒抜けになる。

その中でクールン人の研究内容も明らかになるであろう。

情報を独占したいはずのガイアントレイブが、

この条件を飲むはずがないと考えていたのである。

しかし、ムサバの回答は以外なものであった。


「ロアーソン研究所の元所長である

リー教授をワルクワへ引き渡したい。

この件に関しては、ガイアントレイブは主導権を放棄致します。

尋問なり、拷問なりお好きにしていただいて結構です。」


ムサバの回答にデ・レロが不可解な顔をした。

まさかという思いである。


「教授の出頭要求を飲む。と?

いささか心外ですな。

クールン人の情報は、我々も喉から手が出るぐらいに欲しい。

無条件で飲むとは考えられん。」


「クシャナダ陛下は、クールン人に対しての

非人道的扱いについては心を痛めていらっしゃいますが、

クールン人の存在については否定的なのですよ。

ワルクワにルカゼという少女が亡命した事で、

クールン人問題はガイアントレイブだけの問題ではなくなった。

それは、ワルクワもクールン人について、

正しい情報を知る権利がある。

陛下はそうお考えなのです。」


ムサバは明言こそ避けたが、

クールン人の情報をワルクワも得る事によって、

ワルクワ側でもクールン人の扱いに慎重になるであろうという趣旨の発言だった。

デ・レロも腕を組む。

彼は停戦交渉の大使として、ある程度のクールン人の情報を得ていたが、

実際にルカゼに会ったわけではない。

魔法などと言う超常的な現象に肯定的ではなく、

ムサバの言葉に軽く頷く。


「危険なもの。という事か。

ならば確かにムサバ殿の言うように、

情報を開示したほうが、危険度の理解はしやすい・・・・・・か。

なるほど、相分かった。

ではリー教授の受け入れをワルクワ側で調整したいと思う。

ワンワオ殿もそれでよろしいか?」


デ・レロの言葉にワンワオは頷いた。

スノートール帝国としても、クールン人の問題は他人事ではない。

魔法の力は小さいとは言え、ハルカがスノートールに亡命してきているからである。

だが、デ・レロと同様に彼も最低限の情報しか持っていなかった。

更にスノートール首脳陣より、

クールン人の件に関しては、帝国が深入りする必要はない。

との指示も受けている。

受け身と言うか、完全に問題をガイントレイブとワルクワに

丸投げしているようなものであったが、

皇帝たるウルスも、参謀であるゲイリも、

正直、この問題に対しては、持て余していたと言っていい。

ハルカがルカゼ並みの魔法力を所持しているのであれば

話は違ってくるが、ハルカ自身は普通の人間と大差なかったからである。

むしろ、科学や機械などを駆使する人類と比べたら

劣っているとも捉えられなくはなかった。

従って、この停戦交渉の場でも、ハルカの存在が問題視される事はなく、

スノートールとしては、2国の判断に任せるところが大きかったのである。

こうして7回目の停戦交渉は終わりを告げる。

進捗としては、ロアーソン研究所の元責任者であったリー教授の

ワルクワへの引き渡しが決まっただけであるが、

そろそろ休戦期間が終わるだろうと考えられていた周囲の予想を裏切った事になる。


会議が終わるとガイアントレイブのムサバ大使はさっそく通信機を取り出し、

本国へと通信を繋いだ。

政府には会議に同席した書記官から報告がもたらされるため、

彼が繋いだのは個人的な通信である。


「ナミナミ氏、休戦交渉任のムサバです。

ワルクワは、リー教授の受け入れを承諾しました。

やはりワルクワもクールン人問題に対しては

一枚板ではないようですな。」


「そうですか。

ありがとうございます。

ええ、ではこちらでも手配を進めますよ。」


通信機越しのナミナミは用件だけ話すと通信を切った。

ナミナミの隣には、真和組のトワが目を輝かせている。


「ナミナミさん、受けたかい?ワルクワは。

まぁ相手が望んでいた事だ。

受け入れない道理はないと思うが。」


子どものようなはしゃぎようである。


「副長。

私は反対なんですよ?

もうちょっと感情を抑えるなどの配慮はないんですかね?」


ナミナミが苦言を呈するのも致し方ない事だと言える。

トワの計画では、リー教授の引き渡しに真和組が随伴する予定となっていた。

ガイアントレイブで憲兵のような存在になりつつある真和組が、

リー教授という要人の引き渡しに同行するというのは

奇想天外な事ではない。

だが、その計画にナミナミは反対であった。

トワはナミナミに対して笑いを堪えるかのような表情をした。


「だが、これでルカゼの近くに近寄れる。

リー教授が本人かどうか、ルカゼ自身が確認したいはずだ。

引き渡し場所に立ち会う可能性が出てくる。

引き渡し場所には姿を現さないとしてでも、

彼女のいるワルクワ艦隊に接近できる。

接近してしまえば、モミジがルカゼの場所を特定できるって言ってるしな。

千載一遇のチャンスなんですよ。これは。」


「まったく・・・・・・。

敵陣のど真ん中に殴り込もうっていう人間の表情じゃないんですよ。

それは・・・・・・。」


満面の笑顔のトワにナミナミは呆れたように言う。

止めても無駄なのは理解していた。

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