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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 15話 1節 乱再開

星暦1003年 1月27日


ガイアントレイブ領内にある惑星クワバランカで

7回目の3国間停戦交渉が行われた。

前年7月2日のロアーソン崩壊より始まった

休戦期間より月に1度の頻度で行われていた交渉であったが、

停戦に向けての進捗はなく、ただいたずらに

時間を浪費していた感が強い。

しかし、新年明けて1回目の今回の交渉では

いよいよ休戦期間も終わり、戦争再開に向けて

加速するだろうと思われていた。

惑星ロアーソン崩壊の調査がひと段落ついたからである。


「では、どうしてもガイアントレイブ王国は

停戦への条件が飲めないとおっしゃるのですな?」


スノートール帝国の外交大使ワンワオが

ガイアントレイブの大使に確認する。

尋ねられた男は首を振った。


「女王陛下を軍事裁判に出頭させろなどという条件が

飲めるはずもありません。

そもそも、我が国は正当な手続きで宣戦布告し、

スノートール王国の前王カルスも、それを受諾した。

言わば、ルールに則った正当な戦争であり、

非難される覚えはない。

ましてや軍事裁判などと。

むしろ、言いがかりをつけて戦争を吹っかけているのは、

あなた方、スノートールとワルクワではございませんか。」


口調は冷静であったが、内容は激しく両国を糾弾していた。

ワンワオも引き下がる事はない。


「問題となっているのはスノートール王国に宣戦布告した事ではありません。

その後のメイザー公爵と共謀して、スノートールを崩壊へと導いたこと、

内戦のキッカケを作ったのが

クシャナダ女王であることを糾弾しているのです。」


「それもおかしい。

我々はメイザー公と協力し、王を失ったスノートール王国を

立て直そうとしたまで。

それに異を唱え、内戦状態に持ち込んだのは

他でもないウルス陛下ではございませんか!?

更に部外者であったワルクワ王国も巻き込んで

世界大戦へと導いた元凶がどちらなのか?

冷静に考えれば子どもでもわかることだ。」


部屋に沈黙が走った。

歴史とは断続的に繋がった事象の結果である。

一言で簡潔に導けるものではない。


琥珀銀河で武力による他国領土の侵略をまず最初に行ったのは

神聖ワルクワ王国である。

かの国に他国侵略を非難する資格はない。

そもそも侵略戦争を非難していたのは、ガイアントレイブ王国であった。

侵略したワルクワと、侵略されたが抗議しないスノートールに対して

琥珀銀河の秩序のために、紛争地を中立地帯とする提案をしていたのである。

つまりクシャナダは一貫して、武力による侵略を容認しない姿勢を貫いていた。

このため、クシャナダ女王は、ワルクワ・スノートールの両国から

煙たがられていたのは事実である。

そして、ガイアントレイブとスノートールが開戦したのは、

クシャナダ女王暗殺未遂事件が発端である。

この事件の犯人はスノートール王国であるとガイアントレイブ王国は

スノートールへと宣戦布告を行ったが、

この時代においても、クシャナダ女王の自作自演説が根強い。

真相は闇の中である。

ガイアントレイブとスノートールの初戦となった

カラドルデ海戦では、スノートールの王カルスが討ち取られ、

スノートール王国軍は全軍敗走し、後を継いで臨時政府を打ち立てたメイザー公が

無条件降伏を受け入れたが、元々ガイアントレイブとメイザー公が

繋がっていたという疑惑もあり、王太子であったウルスを筆頭にした

反メイザー陣営が誕生し、国内は2分された。

必然、ガイアントレイブはメイザー陣営に味方しウルスと戦う事となるが、

ウルスはワルクワ王国を味方につけて、これに対抗した。

スノートール王位継承戦争の始まりである。

スノートールの内戦はウルス側が完勝し、

全ての元凶はクシャナダ女王であると宣言したワルクワ王ドメトス6世は

スノートールでの戦勝の勢いのままガイアントレイブ王国へと侵攻を開始する。

これがおおまかなこれまでの流れであるが、

果たして誰が悪いのか?という線引きは正直難しい。

国際紛争の解決手段として武力を用いたのは、琥珀銀河ではワルクワ王国が

悪い前例を作ったわけであるし、

その前例を利用して自国の領土を広げようとしたのはガイアントレイブだが、

正式に降伏を受け入れ、戦争を終わらせようとしたメイザー公爵に

反旗を翻したのは、王太子ウルスである。

彼が立ち上がらなければ、少なくとも戦争はカルス前王が死去したタイミングで

終結していたのである。

だからと言ってウルスを非難するのもまた違う。

何故ならウルスは正式なスノートールの王太子で、

メイザー公爵はカルス前王の死去した混乱を利用して、

王家を簒奪しようとしたからである。

ワルクワがウルスに協力したのも、建前上ではあるが、

継承権の正当性はウルスにあったからに他ならない。

では、王家簒奪を目論んだメイザー公が悪いのか?と言われれば、

そうとも言い切れない。

彼はカルスの死後、混乱する王国をまとめ上げ、

犠牲少なく、ガイアントレイブと迅速に和平交渉を結んだ人物であり、

その一点だけみれば、悪戯に戦火を拡大させたのはウルスであるとの見方も出来た。


今日、ワルクワとスノートールが主張するクシャナダ女王の罪は、

開戦前よりメイザー公爵と手を組んで、スノートール王国の転覆を狙っていたとする

王位継承戦争黒幕説であるが、具体的な証拠は何一つなく、

当事者の一人であるメイザー公も戦死している。

だからこそ国際裁判で白黒ハッキリさせようというのが2国の主張であったが、

戦争裁判は完全中立な裁判で行われる事は稀で、

多くは戦勝国の一方的な弾劾の場になるのが常である。

今は膠着状態が続いているとはいえ、戦況が不利な状況で裁判をしても、

クシャナダの身の潔白が認められる可能性は低いと言わざるを得ない。

出来レースであると言えた。

要するに裁判は茶番でしかなく、

少なくともクシャナダ女王の退位は確実なものとなるだろう。

そうなると、国際秩序に関してガイアントレイブは発言力を失い、

現時点でも最大勢力である神聖ワルクワ王国が、琥珀銀河の筆頭勢力として

君臨するのは目に見えていた。

それは避けねばならなかった。

もっと言えば、今はワルクワと足並みを揃えているスノートール帝国も、

ワルクワ1強の国際情勢を受け入れる事は望んでいない。

このような状況で、停戦交渉がまとまるわけもなかったのである。


「まぁいい。

そもそもクシャナダ女王が素直に裁判に参加するなど期待しておらん。

だが、ロアーソンの件はどうか?

クールン人に対しての人道的罪、

これに対しては申し開き出来ない状況ぞ?」


それまで黙っていたワルクワ大使、デ・レロ参事官である。

彼は未だ公にされていないクールン人問題に言及してきた。

ロアーソンの崩壊の原因は不明ではあるが、調査の過程で顕わになったクールン人への

非人道的問題についてもガイアントレイブは非難される立場にある。

会議はクールン人問題へと推移していくことになった。


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