2章 14話 3節
人を呼び込むほどの魅力のある人物は存在する。
王族であったウルスやセリア姫であれば、
それは不思議な事ではないが、
そうではない一般人でも、人を呼び込む人間はいた。
ティープはその一人である。
今はスノートール王国軍FGパイロットとして
絶対的なエースの存在ではあるが、
学生の頃から、彼の周りには人が集った。
打算のないカリスマ。である。
この時も、ティープらの元に人が集う。
セリア姫も、会話の輪の中に加わってきた。
「ちょっとあなた達、ハルカちゃんを
苛めてるんっじゃないでしょうね!?」
公には明言されていないが、セリアは
ハルカの保護者として周囲に認知されていた。
ハルカはクールン人である。
人ならざる者であるハルカを、文字通り
「保護」するのは、皇帝ウルスの親族である
セリアぐらいの立場でないと勤まらない。
父親や母親という括りの保護者ではなく、
ハルカを保護する立場の「保護者」である。
セリアの問いにゲイリは笑って答えた。
無愛想なゲイリという男だが、
妻であるセリアや親友であるウルスの手前だと
自然に笑顔を出せる。
「姫。誤解ですよ。
ただ、新しい事実が出てきたので、
話を聞きたいだけです。
で、ハルカ君。
マークサスのお仲間達はなんと?
ロアーソンの事件があったわけで、
ガイアントレイブが放置しているとは考えにくいのだが。」
少し気を取り直したハルカがゲイリに答える。
「何も変わりはないって言ってた。
んんー。
マークサスの皆は魔法は使えても、
弱い力しかないから、大丈夫だと思うなー。
物を空中に浮かせる事が出来たりするけど、
人の力で投げるほうが早かったりするし・・・・・・。」
「しかし、恒星系を跨いで、君と通信が出来たりするのだろ?
凄い魔法だと思うが?」
ゲイリが思わず口を挟んだが、ハルカは軽く首を振る。
「それだって、通信機を使えば誰でも出来るじゃない。」
ハルカの答えのように、人であっても
通信機を使えば、遠方の人物と交信は出来る。
だが、そういう問題ではないのだ。
通信機を使わずに遠距離の人間と交信が出来るという事は
可能性は無限に広がる。
特に軍事面であれば尚更だ。
だがゲイリは顎に指を添えると、可能性に疑問をもった。
「ハルカ君。
その魔法での通信は、相手が誰であっても可脳なのかい?」
「相手は誰でも可能かな。
魔法自体を使えるのは、限られてるけど。
メコとチサ姉とルカゼ・・・・・・は似たような事が出来たと思うけどー。
私も使えないし、メコとやりとりしてたのも、
メコが私の通信を拾ってくれてるのが、大きいし。」
「なるほど。
誰とでも通信が出来るとなると、
政府や軍としては使えないな。
やろうと思えば、敵軍に自国の情報を流す事も可脳なわけだ。
現に、ルカゼはガイアントレイブに反抗したし、
スノートールにいるハルカには情報が流れ込んでいる。
使用する人間が絶対に裏切らないという確証が必要だな。
ガイアントレイブとしても、ほっておくしかないと言う事か。」
ゲイリは思案した。
自分自身が使うのであれば便利すぎる魔法だが、
兵器として考えた場合、問題が大きすぎる。
ゲイリの思案を他所に、
途中から入ってきたセリアが状況を確認する。
「あら?
ハルカちゃんはマークサスのクールン人と
通信をしていたって事?
何の目的で?
ハルカちゃんは私たちが保護しますけど、
マークサスの方々については、まだ決めかねてますのよ?
情報のやり取りについては慎重になってもらわないと。」
「そんなんじゃないよぉ。
メコは親友なんだ。
ずっと昔から、交換日記みたいに連絡を取り合ってだけだよぉ。」
ハルカの口元が尖った。
彼女は昔と言うが、ハルカの年齢的に4~5年程度の話だろう。
言葉を選ばないのは、セリアに対して
気兼ねしなくなってきているという事である。
ハルカとセリアは付き合いは短いが、大分打ち解けて来ているようだった。
ハルカの表情に、セリアは笑う。
「あら?
仲のいいお友達がいらっしゃるのね。
それはいい事だわ。
大事にしないとね。」
「うん!!!」
ハルカの機嫌は戻ったみたいで、再びテーブルの上に並べられた
刺身をフォークで刺すと口に運び始める。
ハルカの注意が料理に向いたのを確認すると
ティープはゲイリの耳元で呟いた。
「魔法の力が弱いと言っても、クールン人だ。
ガイアントレイブやワルクワの事情は知らんが、
俺達にとっては捨て置けないんじゃないか?
今はほって置かれていたとしても、
同じクールン人、人質に使われる可能性もある。」
「そうだな。
杞憂になりそうな事は潰しておきたいのは同意だ。
だが、マークサスってのが厄介なんだ。
あそこは、アトロ陛下の軍が侵攻する予定になっている。」
ゲイリの言葉にティープも眉をしかめた。
スノートール帝国には現在、一人の皇帝ウルスが君臨しているが、
帝国の中にスノートール帝国の母体となった
スノートール王国が存在していた。
帝国領でありながら、自治の裁量が大きい地域であり、
ウルスの甥にあたるアトロ王が治める領域である。
そして、2年前まで行われていたスノートールの内戦は
ウルスとアトロの父であるメイザーの
権力争いであり、今は内戦に勝利したウルスに
忠誠と誓っているとは言え、
アトロにとってウルスは親の仇である。
揉め事を起こしたくないというのが本音だった。
アトロ軍が侵攻予定の地にウルス軍が合流すれば、
警戒されるのは目に見えており、
更に言えば、ウルス軍の参謀であるゲイリや
エースのティープが合流するとなったら、
余計な疑念が生まれてしまうのは必然である。
二人の内緒話を目聡く気付いたセリアが首をナナメに
傾げながら会話に混ざってくる。
「あら?疑うのでしたら、疑わせておけばいいのです。
アトロ様は疑念で何かを決定するような方ではありませんよ。
それに・・・・・・。
クールン人の情報の共有の機会にはいいかと思いますけど?」
セリアは言った。
彼女の意見は盲点だった。
ゲイリもティープも、アトロ王にクールン人の情報の共有を
するつもりがなかったからである。
K作戦自体が極秘任務であったし、クールン人の情報は
いずれルカゼが表の舞台に出てきた時にわかる事であった。
殊更こちらから情報を提供する意義を見出せなかったのだが、
アトロと信頼関係を築くためには、
こちらから情報を提供するのは有意義だと
セリアの言葉で二人は気付く。
ゲイリは頷いた。
「ルカゼ君とワルクワの出方は気になるところですが、
行ってみますか、マークサスへ。」
ティープも静かに頷くのだった。




