2章 14話 1節 黎世
星暦1003年1月1日
タクらを乗せた巡洋艦ブレイズは、
新年を宇宙空間で迎えた。
クールン人の謎を探るべく動き出したK作戦は
未だ続行中であるが、次の行動を決めかねており、
自由に動けるように単独行動が継続されていたのである。
行動を決めかねていたのには、理由がある。
ルカゼの所属する神聖ワルクワ王国に動きがなかったからであった。
琥珀銀河で開戦したスノートール帝国、神聖ワルクワ王国、
ガイアントレイブ王国の3国の戦争は、現在も休戦状態であり、
クールン人の存在も伏せられたままである。
時期が時期的に、もし戦争が再開するとしても
年が明けてからであろうとは予想されていたが、
巡洋艦ブレイズは、いかなる状況になっても
即座に行動できるように、
宇宙空間で待機させられていたのであった。
新年のパーティの準備をしながら、
ティープはタクを気遣う。
「新年のパーティっても、簡素なものだ。
お前は休んでていいぞ?
哨戒任務から帰ってきたばかりだろう?」
パーティの準備と言っても、派手な飾りつけなどあるわけではなく、
食堂に食事を配膳する程度の作業であった。
FGパイロットであるティープはFGの訓練ぐらいしか
時間を使う事がなく、暇であったため、
準備を手伝っていたが、タクは正式にパイロットではなく、
未だ作業員の立場であり、休戦状態の今でも忙しい身であった。
だが、タクは首を振る。
「父さんとは違って若いんだから大丈夫。」
「俺だってまだ若いさ。」
ティープは今年で29歳になるが、まだ30手前であり、
父としては断然若い部類に入る。
タクはティープの実の子どもではなかったが、
もし血が繋がっていたら、今年15歳のタクは
ティープが14歳の時の子どもとなるわけで、
タクの父親としては若すぎると言えた。
しかし、二人の関係は良好だった。
カレンディーナの死と、戦場と言う特異な空間、
FGパイロットとしてのティープの技量の高さ、
そして何より、ハルカの存在である。
クールン人であるハルカをタクは守りたいと考えていたが、
そのためには、力になる大人の協力が必要不可欠であった。
自分自身だけの事であれば、ティープに反発しても問題はなかったが、
ハルカを守るためには、エースパイロットとして
軍に発言力を持つティープの協力が必要だったのである。
タクから見ても、ティープは未だにハルカに対して警戒している。
カレンディーナをクールン人に殺されたわけで、
ティープの警戒心は当然だとも言えたが、
タクが一番頼りに出来るのは、養父であるティープであり、
クールン人とティープの橋渡しの役目を自分に言い聞かせていたのだった。
「父さん。」
「ん?なんだ?」
ティープはタクの表情が固くなったのに気付き、
年少の少年の発言を待った。
恐らく、大事な話なのだろうと身構えたのである。
タクは父の変化に気付いたわけではなかったが、話を続けた。
「父さんはさ、やっぱりハルカを、
クールン人を許せないのかな?
それが普通なのかな?
母さんを殺されて、それでもクールン人を助けたいって思うのは
薄情なのかな?」
大人は子どもの疑問に答えべきである。
だが、その回答が正解であるとは限らない。
ティープは苦笑した。
正しい解答が彼にもわからないからである。
だが、保留には出来ない。
「どうだろうな。
薄情なのかもしれないし、
ずっと恨んでいるのも、それはそれで違うと思う。
俺はハルカに対して、恨んでいるとかはないさ。
ただ、おっかさんを殺したあの力、
魔法は危険だと思っている。
あんなものは存在しちゃいけない。
アレは人の人生を狂わせる。」
正直な感想だった。
ここでかっこつけるのは、誠意がないと思ったからだ。
実際のところ、ティープは自身の人生を狂わされた。
カレンディーナが生きていれば、
彼は前線パイロットではなく、
今頃は後方でパイロット養成所の教官になっているはずだった。
カレンディーナの側で、子ども達に囲まれる未来が待っているはずだった。
タクはその事を知っている。
それでも、人と魔法の共存は出来るのではないか?と思っていた。
「だからって、ハルカたちには何の落ち度もないはずだよ。
ただ、生まれただけで危険視されるのは
可哀相だと思うんだ。」
タクの言葉もわかる。
だが割り切れない部分もある。
ティープは話題を変えた。
「タクはえらくクールン人に熱心だな?
さては、ハルカに惚れたな?
確かに彼女は可愛らしいが、
お前、結構面食いだったのか。
ただ、惚れた相手を守ろうっていうのは、
立派な動機だ。悪い事じゃない。」
「そ・・・・・・そんなんじゃないよ。
俺は母さんが守ろうとしたモノを守りたいって
そう考えてて。
それが母さんの意思を継ぐんじゃないかって。」
「生きる気力ってのは、他人に委ねちゃダメさ。
自分自身の意思で選択し、決定しなきゃな。
母さんの気持ちは動機ではあっても、
目的にしちゃいけない。
自分自身がどう考え、選択するかさ。
タク、お前が守ろうとするものは、
お前が大事に思っているものじゃないといけないんだよ。
特に戦場ではな。」
ティープの言葉にタクは黙った。
母さんの意思を大事に思っているからこそ、
タクはカレンディーナの意思を継ぎたいと考えている。
それは、タク自身の選択であり、決定だ。
しかし、父が言うのはそういう事ではないのだろう。
タクが黙っていると、後ろから可愛らしい声がする。
「新年のパーティするんだ!?
私、パーティってやった事ないんだー。
何するの?おいしいもの食べられる?
楽しみだなぁ。」
無邪気なハルカの声に、ティープとタクの表情が歪む。
そう今は、新年のパーティの準備が第一目標だ。
来年にはないのかも知れないのだから。




