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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

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2章 13話 6節

ルカゼ暗殺計画。

言うは易しである。

貴族社会であり、絶対な身分制度があるガイアントレイブ王国に於いて、

トワは立身出世を体現したかのような人物であった。

庶民の家庭に生まれ育ったトワは、

民主的な思想を持つアサーテ侯爵に見出され、

貴族の嗜みとして存在していた剣術大会にて、

アサーテ侯爵の推薦枠として出場し、初優勝を遂げる。

真和組は元々は、アサーテが剣術大会で好成績を得るために

設立された剣術の道場だったのである。

トワの強さは異常だった。

貴族の子弟たちを悉く撃破していく様は、

民衆を熱狂させ、真和組の門戸を叩く門下生が増えていった。

だが、貴族のスポーツとして伝統のあった剣術大会で

庶民のトワが無双することを好ましく思わない大会の執行部は

トワが不利になるようにルールを改定し、

更には、貴族の子弟たちも反則スレスレの行為で

トワを潰そうとするような状況になると、

剣術大会は不穏な空気に包まれていった。

民衆の熱狂とは比例して、貴族たちの

怒りも高まっていったからである。

これ以上はまずいという認識の元、

アサーテは増えた真和組の門下生達の活躍の場を

別の場所に見出す必要性に迫られ、

近年スーパーコンピュータ「バッカー」の登場で

操作性が格段に上昇した作業用巨大人型ロボット

ファントム・グリム(略してFG)

を使っての、ロボバトルとしての剣術大会を立ち上げた。

FGは作業用ロボットであり、民衆に馴染みの深いものであったが、

貴族たちの息はかかっておらず、

庶民のスポーツとして定着したのである。

そこでもトワは鬼神のような強さを見せ、

初代王者として長らく君臨した。


だが、ガイアントレイブ王国内で先王の死による次期国王選定で

姉クシャナダ派と弟タケイル派の対立が明確になると、

クシャナダ派であったアサーテは、裏で暗躍する組織を必要とし、

そこに白羽の矢が真和組に立てられたのである。

財政的な援助や貴族社会から守ってくれた

アサーテ侯爵への恩もあり、真和組は裏工作部隊として

暗躍することになる。

敵対する貴族の弱味を握り、時には恫喝し、

そして何より、要人暗殺も彼らの仕事だった。

もちろん、公式に真和組の仕業であると認知されているわけではない。

だが、敵対勢力にはアサーテ侯爵の私兵集団として恐れられており、

今では、クシャナダ政権の憲兵部隊としての顔もあった。

従って、暗殺という行為に対して彼らに抵抗感はない。

数はそう多くはないが、今迄もやってきたことである。

あるのは、可能か?不可能か?だけであった。

ナミナミがおでこを指でかく。


「一番現実的なのは、スノートールの王のように

戦場で討ち取る事でしょう。

ですが果たして、戦場に出てきますかな?

魔法と言う存在が未知な分、先が見えないとこがありますな。

せめて魔法の効果がわかっていれば

やりようはあるのでしょうが・・・・・・。」


そう言うとナミナミはモミジを見た。

モミジはナミナミの視線を感じると、軽く頷く。


「魔法は、私達でも全てはわかっていません。

イメージ出来れば、出来るけど、

イメージ出来なければ、理屈はわかっていても出来ない。

一人が出来たからと言って、全員が出来るわけじゃない。

トワ副長が剣で、丸太を切る事ができるからといって、

誰でもが丸太を切れるわけじゃないように、

魔法も、理屈じゃないんです。

私は電気を扱う事が得意ですけど、

ルカゼは電気を扱えません。

逆に、ルカゼが何を得意にしているのか?

私にもわからないんです。

ロアーソンの崩壊の時には、ワルクワ王国軍が迫っているのを

軍に知られないように、惑星に入ってくる電波と

外に出る電波を遮断した。って聞いています。

どこをどうしたら、そんな事が出来るのか?

ルカゼには、どんな力があるのか?」


申し訳なさそうに言う。

研究所ではルカゼは力を隠していたとの情報もある。

モミジの言葉に、トワも困った顔をした。


「得体が知れないモノを相手にするなら、誘いだすのはナシだ。

誘いだすにはモミジ、

君を囮にするぐらいしか、思いつかないが、

相手の戦力がわからない以上、囮という策は用いたくない。」


ふと何かを考える表情をし、少し口を尖らせる。


「おびきだすのが無理なら、こちらから出向くしかないな。

ナミナミさん、ワルクワとの停戦交渉の進捗ってお解かりですか?」


「そんな、借金を返さない相手から取り立てるような感じで

言わないでくださいよ。

停戦交渉は難航してるみたいですね。

ワルクワ側は当初の予定通り、女王陛下と軍の関係者12名の

法廷への出頭を求めています。

ん?待てよ。

そう言えば、ロアーソン事件後に一人追加されましたな。

ロアーソン研究所のオッタリア教授も、

理由は名言されておりませんが、名簿に追加されたとの事。

クールン人の件だとは思いますが、

惑星崩壊という前代未聞の事件がありましたからな。

全く根拠のない出頭命令とは言えますまい。」


ナミナミの言葉にトワは今度はモミジに質問相手を代えた。


「モミジ、プロフェッサー・オッタリアはどんな人物だったか

わかるか?」


モミジは目線を天井に向け、少し考えて言葉を選ぶ。


「所長は、あんまり面識ないですね。

研究所の方針を決めていたのは、彼だと言われていましたが、

あまり研究所にはいなかったもので。」


「方針を?

ならば、胸糞悪い繁殖計画や、軍事利用なども

そいつの発案って事だな。

クズ野郎なら、護ってやる価値はあるまい。

なんだったら、そいつだけでもワルクワに突き出してやろうか。」


「まさか!!

教授と同伴して、ワルクワに乗り込む気じゃないでしょうねっ!?」


ナミナミが今にも怒鳴ならんという表情でトワに言った。

ナミナミは真和組に加入してまだ日が浅いが、

トワの人となりは長年の親友のように理解していた。

彼が何を考えているのか理解できたのだ。

しかし、トワが返答するよりも先に、彼の思考は加速する。


「んー。まてよ・・・・・・。

あながナシとは言い切れないか・・・・・・。

教授の持ってるクールン人の情報はワルクワも欲しがるはず。

ある程度、情報を引き出そうと彼を生かす可能性がある。

だが、ルカゼという少女は彼を処断したい。

そうなると、ワルクワとクールン人の間に、

教授への処遇で意見が割れる!?」


ナミナミの独り言のような呟きにトワはニヤリと笑う。


「結局のところ、クールン人がクールン人である限り、

周りもクールン人として扱う限り、

クールン人は、人類が抱えた爆弾って事です。

その溝は、簡単に埋まるものではない。

なっ、モミジ。」


話を振られたモミジは、トワから視線を外した。

爆弾。と言われて、切ない気持ちになったからであったが、

だが彼女は、クールン人としてよりも

真和組の隊員として、真和組の鉄の掟の中で生きている。

つまり、彼女はクールン人である前に真和組隊員であり、

周りも、彼女を真和組の一人の隊員として扱っていた。

鉄の掟が、彼女をクールン人でなくしていた。

「魔法が使える?」

それは、個々の能力の一つとしてでしか受け止められてなかったのである。

力が強い、足が速い、動体視力が高い。

それらと、魔法が使えるは変わりがなかったのである。

だから、モミジは真和組の居心地が良かった。

今まで特別視とは聞こえはいいが、差別さえもされてきた

クールン人の呪縛から解き放たれていたと言っていい。

鉄の掟は厳しかったが、それは何もモミジだけに当て嵌まることではなく、

真和組の隊員全員が、トワでさえも掟に縛られていたのだから。

そこに「差」というものは、なかったのである。

偶然ではあったが、、真和組という組織は

クールン人を人類社会に受け入れる器として機能していたのだった。


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