表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~決断~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/153

2章 13話 2節

ガイアントレイブ首都星であるベートーキン。

この惑星は首都星でありつつ、惑星自体が巨大な王宮である。

ベートーキンには王宮関係者と王宮に出入りする職人や商人しか

住んでおらず、星が丸々王宮として存在している。

従って、手付かずの自然が残されている惑星であり、

太古の地球のような環境が今に残っていた。

もちろん、建物としての王宮は存在しており、

クシャナダはそこで生活している。

そのクシャナダは身体に重みを感じる事で、

精神体から、現実の肉体に意識が戻ってきた事を把握した。

視界は暗いが、明るさの透けた暗さで

瞼を閉じている事も理解する。

ゆっくりと瞼を開けた。

側には側近であるアサーテ侯爵が、

眼の前に置かれたティーカップを交換している所だった。

アサーテはクシャナダが目を覚ました事に気付くと

背筋を伸ばす。


「お疲れのようでありますな。

今は戦争も休戦状態です。

休める内に休まれていたほうが良いかも知れません。」


アサーテはクシャナダが居眠りをしていたと思ったようである。

それを聞いたもう一人の側近が口を挟む。


「天下のクシャナダ女王さまが、居眠りなどするはずもなく、

陛下は、夢の中の世界を征服しに行かれたのよ。

さぞかし、広大な領地をその手に治めたもう。」


言葉を発した側近は、普通の役人ではない。

派手な格好に、子どもが泣きだすような化粧。

サーカスのピエロのような道化の格好をしていた。

彼はクシャダナがお気に入りの子飼いのピエロだった。

女の身で王の座につくクシャナダの

数少ない心が許せる側近である。

クシャナダは道化の言葉に微笑みを見せる。


「煩いぞ、道化。

妾とて職務中に居眠りする時ぐらいある。

激務であるからな。王とは。

だが、今回の弁は言い得て妙よ。

まさしく妾は巨大な敵と相対してきたのだからの。」


「流石は陛下。

人類の頂点に立とうと言うお方は、

夢の中までも覇を競っておられる。

一般庶民には到底叶わぬ事でございますな。」


歯に衣着せぬおべっかの類であったが、

この道化は、おべっか使いで女王の近習に取り立てられたのではない。

むしろ、この言いっぷりは皮肉を含んでいる。

居眠りしていたと思われるクシャナダを責めているニュアンスが含まれる。

だからこそ、クシャナダにとっては心地良いのだ。

この男の物言いが、クシャナダを冷静にさせるのだ。


「ふっ。

今は難題が山積みだがの。」


そう言うとクシャナダは話題を切り替える。


「アサーテ。

トワに繋いでくれるか?」


クシャナダはいきなり真和組の副総長の名前を出した。

真和組の総長はここにいるアサーテ侯爵である。

真和組という組織の実質のリーダーはトワであるが、

庶民出身のトワの才能を見抜き、

組織を作り、初期の頃の経済的援助をしていたのが

このアサーテ侯爵である。

今も組織の運営からは一歩退いているが、

貴族ではなく市民階級で構成された真和組の

政治的な部分はアサーテがやりくりしている面が大きい。

トワは今は子爵位を得ているが、真和組の実績により得た爵位であり、

歴史ある王国貴族ではなかった。

アサーテは突然名前の挙がった自分の配下に少し驚きながらも、

通信機でトワに連絡を取る。


「陛下。トワに繋がりましてでございます。」


「繋いでたもれ。」


クシャナダが応えると、彼女の眼の前に3Dの映像が映し出された。

少し透明がかってはいるが、先ほどのクシャナダの精神映像とは違い

人物は鮮明に写っていた。


「お呼びでございまましょうか?

真和組副長、トワ子爵、

陛下に謁見致します。」


「うむ。

とりあえず、肩の力を抜け。

そなた、ロアーソンから脱出したクールン人を保護したそうであるな?

モミジと言ったか?

情報では、ワルクワに亡命したルカゼという少女とやりあった存在じゃそうだが。」


隣で話を聞いていたアサーテの表情が強張った。

今、ガイアントレイブ王国でクールン人の話題は禁句と言っていいほど

神経質になってしまう話題である。

ロアーソンの事件の詳細を聞いたクシャダナは明らかに不愉快な顔をし、

自分が即位前より存在しているクールン人の報告が中途半端にしか

自身の耳に入ってなかった事を激怒した。

調査によると、クールン人研究の予算を減らされる事を恐れた

研究所の責任者が、クシャナダに対して報告の義務を怠ったといのが

真相らしいが、その事を確かめる為に、

研究所の責任者であったアイゼルミスマー教授を

ベートーキンへと召還し詰問しようとしている状況である。

そのような状況でクシャナダ自らクールン人の話題を

トワに振るというのは、アサーテ侯爵にとって

喜ばしい事ではなかったのである。

対して、クシャナダの質問を受けたトワの表情は変わらない。


「はい。ロアーソンより脱出に成功したクールン人を

真和組にて保護致しました。

報告にあげておりますように、モミジは真和組への

入隊を希望しており、我々は彼女を受け入れ、

現在は真和組の一員として訓練に勤しんでおります。

彼女がどうか致しましたか?」


ロアーソン事件以前のクールン人問題とは違い、

真和組からの報告は逐一クシャナダの元へと届けられていた。

トワの返答は目新しい情報ではなく、確認である。

従って、想定通りの報告を受けたクシャナダは

即答でトワに言葉を突き返す。


「殺せ。

クールン人は、ガイアントレイブの、

否、人類社会の害となろう。

存在自体を認めることは出来ぬと判断した。」


その言葉を聞いたアサーテは思わず後ろに仰け反る。

流石のトワの眉も一瞬動いた。

クシャナダの言葉を聞いて表情を変えなかったのは、

言葉を発したクシャナダ自身と、近習の道化だけだったのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ