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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 12話 6節

更にガルはドメトスに進言する。


「ルカゼは、未だ魔法の力を完全に制御しているとは言えません。

ロアーソンの崩壊。

あれはまだ調査中ではございますが、

恐らく魔法の暴走の結果でございます。

もしここで同じ事が起きれば、

宇宙艦隊が吹き飛んでしまいます!!!」


ガルはルカゼの手前であったが、言葉を選ばなかった。

それを気にとめる素振りもない。

ルカゼも冷静だった。


「大丈夫だよ。ガル。

今は落ち着いている。」


ルカゼと男二人の視線が合う。

ドメトスの口元が緩んだ。


「できるのか?」


「人の転移。

やった事はございませんが、試した事もございません。

女王は、どこにいるのか?場所はおわかりですか?」


ルカゼの質問に答えたのはガルである。


「諜報部に聞けば、ある程度の位置はわかるだろう。

しかし、大丈夫なのか?」


質問を返しながら、ガルは手首に付けられたの通信機を操作し、

諜報部へと通信を送った。

確かに試してみる価値はある。

否、むしろそれが出来るのであれば、

凄まじい程の効果を持つ。

琥珀銀河に存在する人という人を、自由自在に呼び寄せることが出来るのだ。

それが出来るだけで、世界の支配は確定したようなものであろう。

敵対する者を呼び出し、拘束する。

反乱の芽を摘む事が出来る。

圧倒的な力だ。

本来なら、十分な時間を使って検証したいところではあったが、

それは出来ると手応えを掴んでからでもいい。

むしろ、目の前にいるドメトスに

魔法の可能性を披露する場としてはうってつけだとガルは考えたのである。

ルカゼはガルの質問に軽く頷く。


「やばそうだったら止めるよ。

私だって、ロアーソンの事は重く受け止めているんだ。」


更に言えば、ルカゼの母は魔法の暴走で死んだと聞いている。

ルカゼが慎重になるのは信頼できた。

ガルが通信機からの返信を受領する。


「クシャナダは惑星ベートーキンの王宮にいるらしい。

ベートーキンの地図もある。

これで行けるか?」


「待って。探ってみる。」


ルカゼは両目を閉じると、顎を少し上げ、

何かを念じるかのように、たまに眉とピクピクと動かす。


「んー。

一番大きなオーラを感じる。

独特な波長・・・・・・。

これかな?」


ブンッと部屋の中を一筋の風というよりは、

衝撃波のようなものが走り抜けた。

そして部屋の中央の時空が歪む。

もちろん、ガルもドメトスも、時空が歪む感覚を知る訳がない。

はじめはかすみ目のような症状が起きたと、

二人して同時に目を擦った。

風景がボヤッと歪んだからだ。

あまりにも同じタイミングだったので、それは自身の目が

かすんでいるのではなく、部屋の空間自体が

歪んでいるのだと把握できたほどである。

そして部屋の中央に、うっすらと何か形があるものが

出現しようとしていた。

大きさはそんなに大きくない。

人の背丈ほどの大きさの、否、人と同じ大きさの

物体が部屋の中央に現われようとしていた。

話の流れ的に、ルカゼがクシャナダ女王をこの場所に

転送させようとしていたのだが、

それが成功するかのように思えた。

歪んだ空間に浮かぶ残像のようなものは、

ふと、こちらに気付いたかのように反応する。


「ほぅ。眼の前に狸がおる。

滑稽な事だ。

これはそなたの仕業か?」


聞き覚えのある声だった。

燐として棘のある声。

ガイアントレイブ女王クシャナダの声だ。

声に遅れ、残像が揺れ動きながらはっきりとした姿を見せ始める。

形作られるものもまた、クシャナダ女王の姿形をしていた。

ドメトスが目を見開く。


「久しぶりじゃの。クシャナダ。

元気そうでなによりだ。

何、何の事はない。

そなたをここに呼び寄せることが出来れば、

すべてが解決すると思ってな。」


正直に答える。

転移が成功しても失敗しても、もはや言い逃れる事は出来なかった。

しかし、驚きなのはクシャナダである。

眼の前にいきなりドメトス6世が現われただけではなく、

自分自身が居た場所も一気に風景が変わったであろうに

動じるところがない。

そしてクシャナダは周りの風景をじっくりと確認すると、

自分自身の手を見た。

身体は未だにぼやけた映像のように半透明に透けている。

その瞬間、ルカゼが膝からガクッと崩れ落ちる。

慌ててガルがルカゼに手を伸ばした。


「ルカゼ!大丈夫ですかっ!?」


抱きかかえられた少女は、目を細めつつガルを見た。


「ごめん。無理みたいだ。

精神は連れてこれたみたいだけど・・・・・・。

物の転移は厳しいみたい。」


そう言うとクシャナダを見る。

確かにクシャナダはここにいる。

身体は半透明の3Dホログラムの映像のように実体ではなかったが、

クシャダナの精神はここにいるのである。

クシャナダは全てを悟ったかのように笑みを見せた。


「なるほどの。

ワルクワに協力したというクールン人か。

このような事も出来るとは、さぞ便利な道具よの。」


ドメトスも笑う。


「精神だけでは、捕縛する事は出来ん。

使い方によっては便利かも知れんが、

実験は失敗じゃな。」


「申し訳ございません陛下。」


「いや、出来ればめっけもの!というレベルの話じゃ。

これでそなたの評価が落ちるわけではない。」


ドメトスは優しくルカゼに返すと、再びクシャナダに向き直る。


「クシャナダ。

先のスノートールの内戦、それにクールン人への扱い、

そなたはもう、琥珀銀河に不要の人間じゃ。

大人しく降伏し、国際裁判所に出頭せい。

さすれば、ガイアントレイブの名は

琥珀銀河に残してやっても良いぞ。」


「ふん。何様のつもりか。

もう銀河の盟主気取りかえ?

お前にそのような資格があると誰が決めた?

狸風情が人里に降りて来たと思えば傲慢なふるまい。

恥を知れ。

しかし、ルカゼと言ったか?クールン人。」


急に話を振られたルカゼはガルに抱えられながら、クシャナダを睨み付けた。

ルカゼの眼光を女王は軽く浮け流す。


「そなたは危険じゃな。

人の理にあってはならぬ存在じゃ。

人の世を乱す元凶になりかねん。

排除せばの・・・・・・。」


クシャナダの言葉を受け、ガルのルカゼを抱く腕に力が篭もる。

これは明らかにルカゼに対しての、

クシャナダからの宣戦布告に思えたからである。

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