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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 12話 4節

星暦1002年12月11日


ルカゼが神聖ワルクワ王国と合流して五ヶ月。

未だに世界はクールン人の存在が公式に認知されてはいなかった。

まず始めに動き出そうというワルクワ王国が動かなかったからである。

勿論、直ぐにでもルカゼは動くつもりであった。

それに待ったをかけたのは、ルカゼの後見人であるガルである。

彼はまず下準備が必要だと考えていた。

そのガルにルカゼは不満を漏らす。


「あーもう。

なんでこんな事が必要なのさ!」


ルカゼが叫ぶと、側にいた女中がパンパンと両手を叩く。


「ルカゼさん!文句を言わない。

フォークを使う際は、音を立ててはいけません。」


「わかってる!!!」


ルカゼは今、レディとしての嗜みを教育中であった。

教育現場の様子を見に来ていたガルも口を挟む。


「ルカゼ。

この広大な琥珀銀河を支配するにしても、

宇宙は広大だ。

クールン人の魔法をもってしても、行き届かない場所は出てくるだろう。

人間の協力が必要なのだ。

それを理解して、君はワルクワと手を組んだのだろう?」


「協力は求めた。だけど、力で支配すればいいじゃないか。

協力体制にある限り私は手を出さない。

反抗的なワルクワ人がいたら、それを潰せばいい。」


ガルは首を振る。


「いいえ。ルカゼ。

人が行動を決断する時に、一番の感情は何かわかりますか?」


「怒りだろ!?」


「違います。不安感です。

怒りも原動力になりえますが、多くの人の場合それは一過性でしかありません。

時間が経てば怒りを押さえ、冷静に考える事が出来ます。

しかし、人は不安感に押しつぶされると、

冷静な判断力を失い、明後日の方向に舵をきる事がある。

いい例が、戦争です。

人は、命が一番大事と謳いながら、命を駒のように扱う戦争を繰り返します。

戦争を始める為政者は、打算で戦争を始めますが、

一般庶民、国民、兵士たちは『不安感』を煽られ、

何よりも大事な生命を差し出すのです。

為政者は、国民の不安感を煽り、戦争へと突入させる。

常套手段ですな。

我がワルクワも、スノートールのウルスもやっている事です。

逆に言えば、不安感を他者に持たせないことが肝要なのです。

ルカゼ。

人はクールン人の力が怖い。

魔法とは未知なる恐怖です。

その力が、自分自身や家族に向けられるのを恐れます。

そうなると、人は何をしてくるか?わかりません。

まずあなたは、自分自身を他者に理解させる所から始めなければなりません。

ワルクワ王国と協力するのであれば、

貴族の作法を学び、価値観が同じ者であることを

周知する必要があるのです。

そして、法やルールを守れば、

自分自身には危害が加えられない。と言う事を理解させるのです。

人々の不安感を払拭すること。

それがクールン人の人類支配に必要不可欠な事なのですよ。」


「言ってる事はわからないでもないけどさ。」


ルカゼは納得できなそうに、テーブル上のお肉を

ナイフとフォークで細かく分ける。

教育係の女中の叱責が飛んだ。


「ルカゼさま。

脇が上がっております。

背筋を伸ばして、脇を締めるように。

ルカゼさまの身長ではテーブルは高いかもしれませんが、

美しく見せる事を忘れてはなりません。」


女中の指示をうざそうに聞きながら、ルカゼは

ガルとの会話を続けた。


「まどろっこしいんだよ。

結果だけでいいんだろ?

私なら望む結果を魔法で楽に達成できる。」


「大事なのは、物事を成し得た後の

体制の維持ですよ。

来週はバーレンドーイ公爵との会食があります。

理解を得、信頼を得て、

人々から不安感を取り除かねばなりません。

魔法の力を使うって事は、それほどの事なのです。」


「ちぇっ。」


ガルがルカゼを諭していると、後ろのドア開く。

ノックもなく部屋に入ってくる人物というのは限られている。

ガルはすぐさま振り向き、来客を確認すると、

深く頭を垂れた。


「陛下。

出歩いて大丈夫なのですか?」


部屋に入ってきた男はワルクワ国王ドメトス6世であった。

服装こそ普段着であったが、スーツ姿のお付の護衛を引き連れて

現われた男には威厳が漂う。

杖を突きながらであり、体調が万全ではなかったが、

ベットの上で大半を過ごしていた男が出歩くのは珍しい事である。

ドメトスはガルの言葉に笑顔を見せた。


「何、今日は体調がいいのでな。

我々を導いてくれるであろう姫君の様子を見ておこうと思ったのだ。

ガルは有能で頼りになる男だが、

ちと他人に厳しいところがあるのでな。」


ドメトスの言葉にガルも苦笑いで応える。

だが、ドメトスのガル評は決して的外れではなかった。

士官学校時代の学友であるゲイリには、

「己で全てをやろうとしてしまうリーダーに向かない男」

と評されていたし、

ガルが保護者代わりとなっているルカゼは、10歳の少女であったが、

ガルに子育ての経験はなく、

自身が養育していたわけではないとはいえ、

娘を持つドメトス6世のほうが、ガルよりも

お年頃の少女の扱いは理解していた。

ドメトスは次にルカゼに視線を向ける。


「何か希望があれば、遠慮なく儂に言いなさい。

そなたの魔法の力には期待はしているが、

そなたの力がなくとも、ワルクワはガイアントレイブには

負けはせん。

むしろ、任せてもらっても結構な位だ。

急く必要はない。」


「ハッ!お初にお目にかかります!

ドメトス陛下!

ご配慮、痛み入ります。」


ルカゼは椅子から立ち上がると、ドメトスに一礼する。

彼女とドメトスは初対面であったが、ガルの様子から

ドメトスがワルクワ国王だと察したルカゼは、

とっさに挨拶したのである。

この辺りの行動は、ガルの教育の賜物であった。

今もガルの厳しい視線がルカゼの一挙手一投足を観察する。

その視線をルカゼはわずらわしく感じながらも、

一国の国王と相対する事が出来ている自分を実感し、

感謝の気持ちがないわけではなかったのである。

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