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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 12話 3節

巡洋艦ブレイズの会議室に残った大人たちは

それぞれに神妙な顔つきをしていた。

ゲイリが口を開く。


「で、姫。

どうでした?ハルカ君の感じは?」


ゲイリとセリアは夫婦であったが、ゲイリは未だに

セリアの事を姫と呼ぶ。

それは職場だけに留まらず、家庭内でもそうだった。

セリアはナナメに首をかしげる。


「事前情報通り・・・・・・。

普通の10歳の女の子って感じですね。

10歳にしては大人びているような気はしますけど、

女の子の感性は成長が早いですから。」


セリアの言葉に一同は胸を撫で降ろす。

彼女は、王族でありながら子どもの頃より芸能界で頭角を現した。

天才子役、国民のアイドル、正統派俳優、歌姫と

芸能の階段を登っていった彼女は、その知名度と

王族という立場をフル活用し、姫サロンという

一芸に富んだ人材を収集し、各方面に送りだすという文化の担い手でもあった。

セリアに見出された人材は、各方面で活躍しつつあり、

彼女の人を見抜く目は本物であると評価されていたのである。

その筆頭が、一度はスノートールのトップに立ったアトロ王ではなく、

人生の伴侶に、ウルス軍の参謀ゲイリを選んだ事である。

当時は全く無名であったゲイリと王族であるアトロとでは

比べようもない差があったにも関わらず、

彼女は、無名の男を選んだ。

そしてウルス陣営とアトロ陣営の戦いは、ウルスに軍配が上がり、

彼女の選択は正しかったのだと証明されたわけである。

勿論、国家と国民に絶大な影響力を持つセリアが、

アトロを伴侶として選んでいたのであれば、

アトロ陣営が勝利していた可能性は高いと推測する歴史学者も存在する。

だがその場合でも、スノートールの内戦は長期化していただろうという

推測に否定する者はおらず、スノートールの内戦を

短期的に終らせる選択であったという評価が定着していた。

その彼女が、ハルカを見て、悪いイメージがないというのは

朗報だったのである。

ハルカを人類社会に受け入れるための担保が取れたと言っても良い。

セリアは言葉を続けた。


「それでも、妹のルカゼちゃんは不確定要素ですね。

彼女が姉のハルカちゃんに協力を求めた場合、

ハルカちゃんがどう決断するか?は未知数ですもの。

その時の状況、シチュエーションで結末は変わってくると思いますし、

今、予想出来る事でもないでしょうけど。」


「なるほど・・・・・・。」


セリアの言葉に反応したのは、ティープだった。

彼は人間が、シチュエーションによって心変わりをすると言うことを

自身で体験していた。

軍に入隊した頃、カレンディーナを女性として見ていたか?と言われればノーである。

彼は内戦時に彼女と共に行動し、次第に彼女に惹かれていった。

内戦前であれば、例え彼女からプロポーズをされたとしても

イエスとは応えなかっただろう男が、

内戦後には自分からプロポーズをするまでに変わったのである。

人の心というものは、未来を予測できるものではないと彼自身が理解していた。

ほんの小さなキッカケで未来は幾千万にも分岐するのである。

ティープの反応を見て、ゲイリが話しをまとめる。


「つまり、ハルカ君が心変わりをしないように、

悪い方向に進まないように、手を引いてやるってのが、

俺達大人たちの役目だって事だな。

ルカゼ君に協力を要請されたとしても、

断る事ができるシチュエーションを我々は構築しなければいけない。

という事か。

なかなか難しい問題だが、やるだけやってみるしかないだろう。」


セリアとティープが頷く。

ここでセリアが、ある事を気付いたように言葉を発する。


「ハルカちゃんの事はそれでいいのですけど、

隣に居た少年。

タク二等兵でしたっけ?

彼のほうが気になります。

タク二等兵の瞳、あれは兄と同じ瞳をしていました。」


「ウルスと!?」


「はい。どんな事があってもやり抜くという決意を宿した、

多少の犠牲なら、気にもとめない。

何が何でもやり抜くという固い覚悟の瞳です。

兄は、次期国王として、リーダーとして、世界を引っ張るために

必要なものでありましたが、

タク二等兵。

彼の立場と年齢で、それは危うい。」


セリアとゲイリが同時にティープに視線を動かした。

血は繋がっていないとは言え、タクの父親代わりはティープである。

この作戦にタクが同伴しているのも、母と慕ったカレンディーナを

失ったタクの心境を鑑み、ティープの側に付けている面も大きい。

ティープはしかめっ面で応える。


「アイツの今の父親は俺だ。

しっかり手綱を引くさ。

むしろ、俺が暴走しそうなのを抑えてくれているのが

タクの存在だったりもする。

タクは俺が見ている。

安心してくれ。」


と言うものの、ティープの表情が崩れたのには理由がある。

部隊長の頃から、部隊のおっかさんと慕われたカレンディーナならいざ知らず、

ティープに実子はおらず、教育者としての教養もない。

婚約者であるカレンディーナが亡くなった今となっては

ただの未婚の青年であった。

子どもの扱いに慣れているはずがないのである。

辛うじて、撃墜王・エースパイロットとして尊敬されてはいるが、

思春期真っ只中の14歳の少年を導く力は未知数であるとしか言いよううがなかった。

セリアが「ふぅ」とため息をもらす。


「考えて見れば、私達3人、

父親の愛というものを知らずに、大人になったのでしたのよね。

荷が重く感じられます。

国家を、国民を導こうという私達が、一人の子どもにさえ、

手を差し伸べることが出来ないなんて・・・・・・。」


セリアの言葉に続いて、ゲイリが頭をかく。


「しかし、父親の愛なんぞ受けずとも、俺達は大人を立派にやっていますよ。

父親なんて、その程度の影響力しかないのでしょう。

・・・・・・。

ティープ。

タク二等兵が本当に困っている時は助けてやれ。

たぶん、それだけでいいんだ。

父親なんてものは。

きっとな。」


「ああ。」


その後、しばらくの沈黙が続いた。

3者が3人ともに、それぞれの考えを巡らせていた。



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