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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 11話 3節

トワら真和組の隊員らは、宇宙港の食堂で

少し遅い昼食を取っていた。

テーブルに座る面々の中にモミジの姿も見える。


「このサンドイッチ美味しいわ。

具材が生きてる。」


先ほどまで凄惨な現場を見た後でも食欲があるのは、

彼女の特異性を物語っていたが、

生命の維持に食事は不可欠であり、お腹が空いていれば

物を食べるものであろう。

泣きじゃくっていた少女が、

今は満面の笑みで食事するのをトワは好意的に見ていた。

食事を楽しむのは、生きる意志のある証拠である。


「で?

そのルカゼという少女がロアーソンを崩壊に導いた。

という解釈でいいんだな?」


「そうね。

あれはルカゼの力だった。

ただ、制御しての魔法っていうより、

暴走してたみたいな。

研究所の訓練では、私より力が劣るように

カモフラージュしてたみたいだけど、

いくら隠してたとしてもあんな力は規格外。

魔法のコントロールは出来ていないようだったわ。」


「だが、彼女は、人類を支配する。と?」


トワの言葉にモミジの手が止まる。そこが一番の問題なのだ。


「ルカゼのお母さんは、クールン人の中でも

歴代トップの魔法力を有していたの。

だけど、4年前にルカゼのように魔法の暴走で命を落としたわ。

彼女からしてみれば、ガイアントレイブは母親の仇なんでしょうね。

でも、人類を支配するって言っても、

クールン人は30人程度しかいないのに、

何億人もの人類を支配するなんてできっこないわ。」


「いや・・・・・・。

人類側からの協力者がいれば、不可能ではないだろう。

それこそ、軍事力を持つ国家と手を組むことが出来れば、

惑星を崩壊させるほどの力を持つクールン人は

強力な兵器としての抑止力を持つ。

抑止力とは言い換えれば、支配力だ。

核兵器が人類の欲望を押さえ込んで、支配した時期もある。

核と違うのは、兵器自体に自我ある事だ。

それを人間側が受け入れる事が出来るのであれば、

共存は不可能ではないな。」


トワが冷静に分析した。

その上でモミジから、ワルクワ王国の兵士が

ルカゼに手を差し伸べた話を聞いている。

琥珀銀河最大勢力のワルクワ王国と、ルカゼが手を組めば

ワルクワの支配は更に磐石なものになるだろう。

ルカゼは、モミジの話からすると10歳の少女である。

大人たちが彼女を持ち上げ、利用するというのは可能であるように思えた。


「でも、大婆さまは、人間はクールン人の力を恐れ、

排除するようになるだろうって言っていたわ。

共存は出来ないって。

だから、人の世界に関わってはならない。っていうのを

私たちは物心ついた時から聞かされてた。」


「はは。

私も貴族には歯向かうな!と父親から

耳にタコが出来るぐらい言われていたさ。

剣術大会で貴族を打ちのめしたときは、

お前は勘当だ!と叫ばれたものだ。」


トワの言葉にソーイが反応する。


「あれは痛快でしたよ。

貴族の子息をバッタバッって。

大会の会長なんか、青ざめていましたもんね。」


「あんなものは剣術ではない。

貴族の道楽、大貴族の息子を勝たせる為だけの茶番だ。

優勝して当然だろう。

それにソーイ、お前だって連覇しているじゃないか。」


「トワさんが平民でも優勝できるって道を切り開いてくれたからですよ。」


二人の会話にモミジが食いついた。


「やっぱり強いんだ。

さっきの、剣を抜いたの見えなかったもん。

気付いたら剣は鞘に納まってて、知らない間に人が切られてた。

ねぇ?

クールン人とどっちが強いかな?」


突拍子のない言葉に、トワは笑顔を見せた。


「負ける気はせんよ。

そりゃ、惑星ごと破壊などされたら手も足も出ないが、

ルールがあって、正々堂々と立ち会うのであれば、

遅れを取るつもりはない。」


「へぇ~。」


モミジは興味津々気味にトワを見つめる。


「ねぇ・・・・・・。

私に武術を、剣術を教えてくれないかな?」


「ほぅ?」


「ルカゼを止めたいんだ。

研究所では、魔法勝負で負けちゃって。

年長者の私が止めなきゃいけないのに、

止められなかった。

でも、止めなきゃいけない。

あの子、あのままじゃ、多分人間にいいように利用されて、

力も暴走してしまいそうな気がする。

私が止めなきゃいけないんだ。

きっと・・・・・・。」


モミジの言葉にトワとソーイは黙った。

彼らはクールン人の調査命令が出ている。

ガイアントレイブに仇なす可能性があるならば、排除する命令も受けていた。

だが、クールン人の力は未知数であり、

クールン人の魔法に対しての情報も今仕入れたばかりか、

切り札なども所持していなかったのである。

モミジが真和組と協力し、ルカゼを止める事が出来るのであればそれで良し。

もし、止める事ができなくても、モミジを通して

クールン人の魔法への理解が深まれば、

何か対策が生まれるかもしれない。

悪い話ではないように思えた。

だが、トワは即答を避ける。


「我々は、クールン人が脅威であると判断したのであれば、

抹殺しろとの命令も受けている。

ルカゼが本当に人類の支配を求めているのであれば、

俺達はルカゼを殺す。

モミジ。

君が望まない結末が待っているかもしれないのだ。」


「でもトワは私を逃がそうとしてくれたよ?

クールン人なのに、逃がそうとした。

トワは信用できるって思ってる。

それに、そうさせないために私がルカゼを止める。

止めるんだ!」


モミジはトワの名前を呼び捨てで呼んだ。

この場合のそれは、信頼の証のように思えた。

彼女は、トワが自分を裏切る、利用するなどとは微塵にも思っていない素振りだった。

若い。と言われればそれまでだが、

ソーイにはその気持ちが凄くわかる。

ソーイだけではない。

真和組の隊員達は、それぞれにトワに対して、絶対的な信頼感を持っていた。

何をされたわけではない。

だがトワという男は、人を引き付けて止まないオーラがある。

彼の背中についていこうと思えるのだ。

彼のために死ぬことさえ厭わないのだ。

そしてその思いを、トワは決して裏切らない。

トワはモミジの瞳を深く覗き込むと、ニヤリと笑う。


「ああ、そうだな。

俺とて、10歳の少女を切りたくはない。

モミジ、力を貸してくれるか?

お互い協力しよう。」


モミジの瞳がパァと輝いた気がする。

彼女は絶望から、進むべき未来を見つけだす事に成功した。

例えそれが困難な道であるとしても、

真和組となら、トワとなら達成できるように思えたのである。


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