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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 10話 5節

星暦1002年10月17日


ロアーソンの崩壊から3ヶ月。

人類最大級の災害となった惑星ロアーソンの崩壊は、

社会の時間を一時的に止めた。

スノートール帝国・神聖ワルクワ王国・ガイアントレイブ王国の3国は

一時的な休戦条約を結び、前線は停滞したのである。

元々開戦当初とは違い、各戦線は膠着状態であったため、

状況が劇的に変わったわけではない。

ただ、明示的に3ヶ月間の休戦条約を結んだだけの代物であったが、

各国はこの3ヶ月の間に、クールン人問題の解決を強要されたのである。

クールン人の研究を行っていたガイアントレイブでもそれは例外ではなく、

ルカゼの反乱を以って、真剣に議論される事になる。

そんなガイアントレイブの領内、惑星コントスに

1隻の旅客船が宇宙港に到着した。

船の名は、カウンター号。

惑星ロアーソンの崩壊時に、運よく出港準備をしていた

宇宙旅客船であり、崩壊時に宇宙に投げ出され、

ワルクワ王国に捕捉される事もないまま、混乱の最中に

宙域を離脱する事に成功し、

そのまま惑星コントスへと辿り着いたのである。

コントスに辿りついたカウンター号の乗客は、

九死に一生を得たに等しい。

その中にいたグレイス婆さんは、コントスに到着した事を神に感謝していた。


「おじいさん。無事にコントスに着いたみたいですよ。」


「しかし、孫夫婦の消息が気になる。

ロアーソンから脱出出来たのであろうか。」


グレイス婆さんの長年の連れ合いであるガット爺さんは、

ロアーソンに定住していた孫夫婦の事を心配していた。

二人は元々コントスの住人であり、ロアーソンの孫夫婦に会いに

ロアーソンまで旅行していたのである。

たまたま、コントスに帰る日がロアーソン崩壊の日であったので、

偶然、カウンター号に乗り合わせたのだった。

彼らは奇跡のような生還を果たしたが、

ロアーソンに定住していた孫夫婦の消息は絶望的である。

グレイスは肩を落とす。


「あの感じでは、生存者は居ないのでしょうね・・・・・・。」


二人はカウンター号の窓から、ロアーソン崩壊の瞬間を目撃している。

地が割れ、海が蒸発し、空が消えた。

地上で生活していた生物で、生存した者は皆無だと思えるほどの

現場を目撃している。

あの惨劇の中、生きている事は無謀だと思えた。

グレイスは首を振り、話題を変える。


「私たちは、家に帰るわ。

あなたは?行くアテがあるの?」


グレイスは、隣に座る18歳ぐらいの少女に話かける。

この少女は、元々カウンター号に乗り合わせる予定のなかった少女であったが、

惑星崩壊の瞬間、カウンター号の横を重力がなくなりかけの

大気中に漂流していた状態で救出された少女である。

パジャマのような服はボロボロで、焼けたような跡があり、

彼女自身は憔悴していた。

グレイス夫人は彼女を憐れみ、着替えの服を少女に与えたり、

持ち合わせのない彼女の船内での食事を立て替えるなど、

親身になって接していた。

宇宙航行の間、彼女の身体は元気を取り戻したが、

表情は笑顔を見せる事はない。

グレイスからみれば、それは致し方ないことである。

それまで住んでいた惑星が崩壊したのだ。

少女には、親や家族が居たかもしれない。

グレイスらは、人生経験が豊富であり、

多少の事では驚かない自信があったが、

それでも、信じられない気持ちが強いのである。

ましてや、10数年しか生きてきていない少女の気持ちを

考えると、いたたまれない気持ちになるのであった。

むしろ、惑星崩壊と同時に命を落としていたほうが幸せなのかもしれない。

と、グレイスは少女を見て、そう感じる事もあった程である。


「あなたがよければ、落ち着くまで一緒に暮らしてもいいのよ?」


グレイスは優しく語り掛ける。

少女はうつろな瞳で老夫人を見た。

グレイスは少女の肩に手をかけると、彼女を立ち上がらせる。

ガット爺さんは手荷物をまとめ始めた。

他の乗客も次々に下船の準備を始める。

乗客の足取りは重く、カウンター号の乗降口、エントリードアへと

列を作って歩み始めた。

少女も立ち上がると、老夫婦の後に続く。

奇跡の脱出をしたとして、宇宙港には沢山のメディアが集まっていたが、

王国の計らいで入場は制限されていた。

宇宙港のロビーにも、専用のタクシーが準備されており、

そのまま目的地に帰られるように配慮されていた。

グレイスは遠巻きに見えるメディアの記者たちを見て、

あからさまに嫌悪感を出した。


「人の不幸で、ご飯を食べるような人にはなりたくないものですね。」


グレイスの言葉を聞き、ガット爺さんは大きく頷いた。


「全くだ。その情報に一喜一憂する羽虫にもな。

私は不幸です。と自身の不幸話で金銭を稼ごうとする行為を

けしからん!という声もあるが、他人の不幸で金を稼ぐ奴より、

よっぽどマシじゃわい。

ましてや、10代の少女の不幸など、奴らの格好のネタじゃろうて。

安心せい。

わしらが守ってやるからの!」


ガットは力強く言うと後ろを振り返り、少女に満面の笑みを見せた。

・・・・・・つもりだったが、ガットの目が見開く。

後ろを歩いていたはずの少女の姿が消えていたのである。


「婆さん、あの娘は?」


ガットの言葉にグレイスも振り返ったが、彼女の視野にも

少女の姿は映らなかった。


「あら、まぁ。

・・・・・・。

まぁ、あの子にも色々思う事があるのでしょう。

頑張りなさいね。モミジ。

強く生きるのですよ。

私たちはいつでもあなたを迎え入れますからね。

疲れたらいつでも帰ってらっしゃいな。」


グレイス婆さんは、優しく彼女の居ない空間に話しかけるのだった。

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