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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 10話 4節

病室で話し込むガルとルカゼも同じく、

神妙な空気が部屋を飲み込む。

ガルは思わず、頭を掻き毟った。


「ちょっと待ってくれ。

魔法にドラゴンだとっ!?

理解が追いつかない。」


ガルの言葉にルカゼは首を振る。


「理解する必要はないさ。

あんたは既に魔法を見て、その力を受け入れている。

もう、世の中の常識っていうのは崩れ去ったんだ。

理解できなくとも、現実なんだ。

魔法を信じられて、ドラゴンを信じられない道理はないだろう?」


「それはそうだが・・・・・・。

だが魔法なら、君達が使うもので、

制御が出来る。

だが、ドラゴンって言うのは話が違う。

それは計算が出来ないものだ。」


「何かあったら、私が守ってあげるさ。

それに過去、人間達は自然や宇宙など

制御出来ないものを、制御してきた歴史があるじゃないか。」


そう聞くとガルは思案を巡らせる。

クールン人とドラゴン。

同じタイミングで人間に認知されたのは偶然なのであろうか?

まるでドラゴンという脅威に対して、

対抗手段かのように、クールン人という力を人類は手にいれたように思える。

偶然にしては出来すぎのような気がした。

ガルは一旦、頭を整理する。


「で?

そのクールン星からの生き残りが、君たちクールン人という事でいいのか?」


「そうだね。

生き残った4人と血の繋がった子ども達。

正確には、3世代をクールン人って呼んでいる。

私はクールン星の生き残り、大婆さまたちの孫に当たるんだ。」


そこでガルには疑問が沸く。


「3世代?

4人は女性って言っていたな?

軍に保護されて自由はなかったはずだ。

自由恋愛など出来なかったのではないのか?

・・・・・・。

まさか、軍は繁殖を!!」


ガルはあえて繁殖という言葉を使った。

その言葉を人間に使うには、不適切であるが、

イメージはルカゼに伝わったようである。


「そう。

ガイアントレイブは、クールン人の魔法が

子ども達に遺伝するのかを確かめた。

軍の屈強な兵士を相手に、性行為を行わせたんだ。

そして、生まれてくる子どもたちも魔法を使えるのを確認した。

ガイアントレイブはクールン人の数が増えすぎないように

調整しながら、私たちを管理した。

まるで家畜のようにね。

ただ、理由はわからないけども、

生まれてくる子どもは、女性ばっかりだった。

孫の代でもそれは続いたんだ。

男子は一人も生まれていない。

今、クールン人は30人ほどいるけど、

全員女性だよ。

だから、クールン人はクールン人だけで、子孫を増やせない。

人類との共存が必須なんだ。

それが、クールン人が人に対して歯向かえない理由。

私たちは人と共存するしか、子孫を残せない。

管理されることでしか、種を残す事は出来ない。」


「つまり、人類に支配されるか?逆に人類を支配するしか、

方法はないのか。

無闇にクールン人の血を増やせば、女性しか生まれいクールン人には

未来はない。

徹底的に管理しなければ、人類さえもクールン人の血の呪いに染められてしまう。

それはクールン人のみならず、人類の滅亡でもある。と。

・・・・・・・なるほど・・・・・・。」


まるでウィルスだな。

と言いかけて、ガルは口を噤んだ。

人類のためには、クールン人は滅亡したほうがいい。

世に放ってはいけない存在である。

だが、目の前で魔法の力を見せ付けられたガルは

クールン人の魔法が、人類の希望でもあるように思えた。

もし、女性しか生まれないという条件がないのであれば、

魔法は人類の新たなる進化の一歩になるのである。

クールン人の繁殖はたかだか3世代。

30人とルカゼは言った。

サンプル数も少なすぎるし、

もっと何世代も配合を続け、クールン人の血を薄めていけば、

いつか男子が生まれるかも知れない。

そうなれば、人類はクールン人と融合し、

魔法を普通に使う新しい人類の誕生になるのだ。


「なるほど・・・・・・。これは人を惑わせる。」


ガルは唇を歪めた。

ロアーソンでの彼は、信じられないクールン人の魔法という代物に直面し、

気分が高揚していたかも知れない。

冷静に考えれば、これは人の手に余る。

結局のところ、クールン人に自由を与える事は出来ない。

だとすれば、支配するか?支配されるか?だが、

クールン人を支配するというのは、現実問題難しい。

人類が到底及ばない力を持っているからだ。

現にルカゼはガイアントレイブに反旗を翻したではないか?

では、逆にクールン人が支配する側に回ることも現実的ではない気がする。

何故なら、人類は数が多い。

クールン人一人一人に魔法を使う力があろうとも、

四六時中、常に警戒しているわけにはいかないだろう。

だから、なのである。

ルカゼが、ワルクワやスノートールという他国と手を組むという選択を取ったのは。

人類の権力者と手を組み、お互いに信頼関係を築くことができれば、

権力者側はクールン人の魔法を、権力の維持のために使う事ができるし、

クールン人は、身の安全を確保する事ができる。

信頼関係が築ければ。であるが、それが最善の道であるように感じた。

ガルはそこまで考えると、大きくため息をつく。


「よく決断したものだ。

一歩間違えば、人はクールン人、君たちを根絶やしにする危険性だって

あったようなものを。」


「ああ、この決断には、

大前提がいる。

お互いがお互いを決して裏切らないこと。

それは最低条件。

本気でクールン人の未来を考えてくれる相手じゃないと、

ダメなのさ。

スノートールの兵士は、綺麗事を言ってるだけで、

私たちの問題を真剣に考えてくれなかった。

契約ってのは、自分だけにも、相手だけにもメリットがあるだけじゃダメだろう?

両方にメリットがなくては、お互いを信用する事はできない。

スノートールの兵士たちは、私たちの事を考えたのかも知れないけど、

あれじゃ、スノートール側にメリットがない。

人の善意を信じるには、私たちは人に迫害されすぎた。」


ルカゼの瞳に悲しさが宿る。

タクに失敗があるとすれば、迫害された側の人の気持ちを汲み取れなかった事にある。

ルカゼは、人を信じる事ができなかったし、

人の善意に甘える選択も取れなかったのだ。

対して、ガルは察しのいい男である。

ルカゼの悲しみの感情を、正確に読み解く。


「わかった。

私はクールン人の力を、最大限に使わせてもらおう。

力を貸してくれ。ルカゼ。

君の力が私には必要だ。」


ガルは右手をルカゼへと差し出した。

掌はパーに広げられている。

ルカゼも布団から右手を差しだすと、二人はお互いの手を固く握り合った。


「ああ。こちらこそ、よろしく頼むよ。」


ルカゼの愛くるしい笑顔を、ガルは初めて見る。

それは本当に愛くるしい、少女の笑顔だったのである。

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