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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 10話 3節

同時刻、スノートール王国でも首脳陣が集まって、

クールン問題に対して話し合いが行われた。

会議に先立って、ゲイリが口を開く。


「ロアーソンの研究所で手に入れた資料を基に、

判ったことを報告したいと思う。

ハルカ君、もち君の認識と違っているものがあれば、

遠慮なく意見を言って欲しい。」


ハルカは頷いた。

彼女は研究員ではなく、被験者である。

今から発表するのは、研究者側の資料であるため、

認識の相違は起りえた。

ハルカの返事にゲイリも頷き返すと、データを参加メンバーの

パソコンに送る。


「まずは、クールン人とは何か?というところだ。」


惑星クールン。

いわくつきの惑星である。

ガイアントレイブ王国のほぼ中央に位置するこの惑星は

恒星ダイヤズムを中心にしたダイヤズム星系に位置する

岩石惑星である。

大気と水持ち、人が住める天然の惑星として、

星暦830年に発見されたが、ダイヤズム星系は

宇宙の星域と星域を繋ぐ、高速移動用の宇宙河の発見に難航し

琥珀銀河の中でも調査が遅かった星系であった。

宇宙航路マッピングが完了した889年。

第1調査隊が惑星探索に入り、人の生存が可能である事を確認する。

クールン固有の新種のウイルスが発見されたが、

人体には影響がないと判断されていた。

916年、第一次惑星移民が開始され、

約200万人の人々が、この新たなる惑星に足を踏み入れる。

順調に惑星開拓は進んでおり、第2次惑星移民の計画が立った

918年に突然の悲劇が開拓民を襲う。

謎の伝染病の流行である。

当時の開拓民は直径200キロ圏内にコロニーを形成していたため、

伝染病は一気に人々に広まった。

発症から2ヶ月目には人工の7割が死ぬという大惨事であった。

惑星で起ったパンデミックの場合、

感染経路を遮断するため、その惑星を封鎖するのが常である。

衛星軌道上には、軍の宇宙艦隊が駐留し、

惑星からの脱出に目を光らせる。

これは人道的に酷いことのように思われるが、

琥珀銀河全体で行われていた処置であり、致し方なかった。

孤立したクールン星の住民は、次々に病に倒れていく。

完全防疫に身を包んだ医師団も少数は派遣されたが、

根本的原因もわからぬまま、翌919年には

生存者はたった5名であったとされる。

移民団の全滅と言っていい惨状であったが、

その5名は病床に伏せるわけでもなく、健康体であった。

そのため、謎の感染症の抗体を獲得した可能性もあり、

生存者たちは、衛星軌道上の宇宙艦隊と交信を続ける。

そしてガイアントレイブ王国は、生存者を救出、

隔離し、謎の伝染病への研究を行う事を決定する。

宇宙艦隊より、無人の宇宙ロケットが惑星に投下され、

その宇宙船で、生存者はクールン星を離脱する事になったが、

計画の実行中、クールン星の惑星軌道上に展開していた

宇宙艦隊26隻の消息が突然途絶える。

原因は不明であった。

ガイアントレイブ王国は、惑星軌道上でも

伝染病が発生した可能性があるとして、

ダイヤズム星系への立ち入りを禁止し、以後

調査は中止され、立ち入り禁止ゾーンとして

今日まで続いている。

しかし、広大な琥珀銀河内において、

危険領域として人類の立ち入りが禁止されている星域は少なくなく、

中性子星の影響による強力な電磁波の干渉を受ける星域など

特段珍しい事ではなく、人類は

ダイヤズム星系の事を忘れていった。

ただ、200万人以上の被害が出た悲しい事件としての記憶が残るのみである。

ここまでが、一般に伝わるクールン星の情報であった。

この中に、クールン人というワードは登場しない。

感染症で亡くなった200万人も、クールン人と言う括りではなく、

惑星移民団であって、普通の人類であった。


「ここから、クールン事変の闇の部分になる。

研究所にあった記録には、

信じられない事が記されていた。」


宇宙艦隊が消息を絶った2ヵ月後、

生存者の確認に、駆逐艦6隻を伴う調査艦隊が

クールン星へと向かう。

危険な任務ではあったが、原因不明というわけには

いかなかったからである。

そして調査に向かった223艦隊は、クールン星の軌道衛星上で

宇宙艦隊の残骸からブラックボックスの回収と、

信じられない事に、クールン開拓民の生き残り4名が乗った

宇宙船の回収に成功する。

開拓民の生存者の救出に成功したのだった。

当初、奇跡の生還として、生存者4名のニュースは

公共の電波に乗ったが、すぐにその情報は封鎖された。

伝染病に感染していた生存者は、

救出後、亡くなったと世間の人は予想する。

ガイアントレイブ王国はクールンの情報を遮断したのだった。

そして、壊滅した宇宙艦隊のブラックボックスには、

艦隊が突然、攻撃を受けた形跡が残されていた。

会議室にブラックボックスに残るオペレータの録音記録が流れる。


【なんだあれは?

トカゲ?ヘビ?

爬虫類のような生き物が、宇宙空間に浮いている。

艦長!!

あれは!?

ド・・・・ドラゴン!!!!!

うああああああ!!!!】


会議室の中がシーンと静まる。

一同の視線がゲイリに集中した。

ゲイリは皆が言葉を発さないのを確認して口を開いた。


「ガイアントレイブは調査の結果、

巨大な竜が衛星軌道上に出現し、26隻の宇宙艦隊を壊滅させた。

と結論つけた。

その竜は、惑星クールンの守護者、

つまり、クールンに元々生息していた生物である断定したんだ。

惑星開拓の2年間、ドラゴンの目撃情報はない。

突然現われた感じだな。

また、生き残った4人は、そのドラゴンと艦隊が戦っているのを

目撃している。

ハルカ君、何か聞いていないかな?」


ゲイリに問われた少女は、口を尖らせた。


「大婆さまから、聞いたことがある。

ドラゴンは口から高粒子のビームのようなものを吐いて、

艦隊を溶かし、翼から雷のような電撃で艦隊を航行不能にしたって。

あれは、クールン星の守り神であって、

人類が触れちゃいけない禁忌って言ってた。」


つまらなさそうにハルカは言った。

その言葉にゲイリは頷く。


「ガイアントレイブの見解も同じようなものだ。

そして謎は、なぜ?開拓者の生き残りである4名のみが

助かったか?という事だった。

ガイアントレイブは生存者である4名の女性を調査した。

ちなみに、生存者であった5名の内、1名は

クールン星の衛星軌道上で漂流していた2ヶ月の間に

亡くなっていたそうで、生存者は4名なのだが、

その4名を調査したところ、

常人とは違う力を獲得している事がわかる。」


「魔法だね!

私たちクールン人が天から預かった奇跡の力!」


ハルカが陽気に言う。

会議の出席者の何人かの眉がへの字に曲がる。

一人は大きくため息をついた。

やりきれないという空気が会議室を包むのだった。


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