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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 10話 2節

星暦1002年7月5日


ロアーソンの悲劇から3日が過ぎていた。

ワルクワ軍のロアーソン侵攻部隊は、生存者の救出を続けているが

そもそも生存者自体の数が少ない。

唯一、該当の時間にたまたま宇宙へと飛び出そうとしていた

宇宙旅客船の一部が、崩壊の難を乗り越え、

ワルクワ軍に救出されているぐらいである。

もちろん、無事に宇宙に飛び立った旅客船も存在していたが、

生存者は1200名ほどであると計算されていた。

30億人の内の1200人である。

それは奇跡にも近かった。

ロアーソンの崩壊は原因不明として、各国は受け取ってる。

たまたま、ワルクワ軍の侵攻部隊が上陸したタイミングであったが、

大気をもつような質量の惑星を内部から破壊するかのような

兵器などはこの時代に存在しておらず、

各国の首脳部は、「災害」として認知せざるを得なかった。

もちろん、各国ともに、クールン人の情報はあったが、

それを公表するわけにもいかず、そもそも被害にあったロアーソン自体は

ガイアントレイブ王国領であったため、被害者の立場である。

クールン人の情報を公開すれば、

被害者であるガイアントレイブが、加害者にもなり得る。

クールン人の研究を行っていたガイアントレイブ自身が

それを認めるわけにはいかなかったのである。

要するに各国は、様子見を決め込んだ。

誰が真っ先にクールン人の情報を公開するか?という疑心難儀に包まれながら、

世界は一同に口をつぐんだのである。


そうして3日が経った5日。

ルカゼが病室のベッドの上で目を覚ました。

起き上がると布団の中であったが、彼女は布団の中に潜り込んだ記憶がない。

記憶を辿る。


「宇宙に放り出されて・・・・・・。

FGに回収されたところまでは憶えているが・・・・・・。

だとしたら、ワルクワ艦隊の病室か?」


独り言を言いながら、ベッドから上半身を起こす。

その様子は監視カメラで覗かれていたようで、

即座に壁に備え付けのモニターが機動した。

一人の青年が写ったが、顔は知らない。

顔を知らないという事は、研究所のメンバーでもないという事であったので、

ルカゼは少し安心する。

青年はマイクのスイッチを入れた。


「お目覚めですね?

ここはワルクワ艦隊の病院船シャーチの中です。

ルカゼ様は3日ほど眠っていらっしゃったので、心配致しました。

生命維持のため、お身体に機器を取り付けておりますが、

そのためだけの機材です。

ガル様より、それ以上の事はするな!と伺っておりますため、

他意はございません。

ご安心ください。」


青年は言った。

ルカゼはクールン人である。

ワルクワ陣営としては、クールン人が何者なのか?

調べたがっていたが、ガルはそれを止めさせた。

ルカゼの意識が戻ってからで良いと言う。

まずは、両者の信頼関係を築くほうが優先だと力説し、

彼女に対して、何も施さなかった。

青年はそれをルカゼに伝えたつもりであったが、

ルカゼもそれを直ぐに理解する。

彼女らは、今まで研究材料だった。

研究される事には過敏である。

一番重要な事だと言っても過言ではない。


「ワルクワの配慮に感謝する。

状況を知りたいのだが、誰か派遣してもらえるか?

少し、お腹がすいたので

何か食べ物を貰えると嬉しい。」


「承知しました。

お待ちくださいませ。」


モニターが切れ、暫くすると病室のドアが開きガルが

食事の乗ったトレーを両手に抱えながら現われた。


「体調はいかがです?

データを見る限り、問題はなさそうですが。」


ガルは恭しくルカゼの手前にテーブルを出すと

食事をそのテーブルに置いた。

ルカゼは軽く頭を振る。


「魔法を使いすぎたのかも知れない。

ちょっと頭痛があるが、大丈夫だ。」


「申し送れました。

私はガルと言います。

ルカゼ様の秘書を任されております。」


「監視も兼ねているのだろ?」


「そこは、申し訳ございません。

周囲を説得するためには、致し方なく。」


「わかっているよ。」


ルカゼはスプーンを手に取ると、スープをすくって口に運ぶ。

久々の食事であるため、胃に優しいものを選んだ。

ガルはベッドの横に椅子に座ると、

ルカゼの食事が終えるのを待つ。

静かな時間が流れていった。


「ごちそうさま。」


食事を終えると、ルカゼはスプーンを置いた。

ロアーソンでの激情が嘘みたいに、大人しく、礼儀正しいルカゼを

ガルは好意的に捉えていた。

言ってしまえば、あの時はガルも激情に流され、

ティープと剣を交えたのである。

だが、彼は普段は冷静沈着なクールな男であった。

ロアーソンでの一面が、全てではない。

それはルカゼにも当て嵌まる。

ガルは、落ち着いた雰囲気のルカゼに対して、

早速、要件に入った。


「まず、状況をご説明したいと思います。

ロアーソンはご存知の通り、崩壊いたしました。

この件、ワルクワもスノートールも、ガイアントレイブも

災害として認知しております。

ルカゼ様のことは元より、クールン人の事も表立って話されておりません。

従って、ワルクワとスノートールの関係も現状維持。

同盟したままです。

全ての陣営が、様子見をしている。

といった所でしょうか。」


ガルの報告にルカゼは、目を細めた。

要するに、皆がルカゼの行動待ちであるという事なのだろう。

ガルは話を続ける。


「で、クールン人とは?

魔法とは?

私は力の一片を垣間見る事が出来ましたが、

アレは一体、何なのです?

ロアーソンの崩壊は、ルカゼ様、あなたのお力だったのでしょうか?」


ルカゼは瞳を閉じる。

そして、目を開けるとガルに視線を合わせた。


「まずは、クールン人の説明から。」


ルカゼは唇を噛み、静かに語りだしたのである。

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