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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 9話 6節

タクと合流したティープは、マリーや上陸艇と共に

巡洋艦ブレイズへと帰投した。

巡洋艦3隻、駆逐艦15隻からなるワルクワ艦隊のロアーソン攻略部隊は

惑星ロアーソンの崩壊を受け、大混乱となっていた。

惑星に向かった惑星用強襲揚陸艦45隻の人員の安否の確認もさることながら、

割れるように崩壊した惑星ロアーソンの残骸が、

無数の宇宙デブリとなって、周囲に散乱していたからである。

更には地表上にあった大量の海水が宇宙空間に投げ出され、

蒸発し、周囲は水蒸気状のガスが漂う空間となっていたため、

電磁波などが屈折し、レーダ兵器などの再計算を余儀なくされた。

また、大量のデブリが艦隊を襲った影響で、各艦隊は

デブリの回避のためバラバラに動いており、巡洋艦ブレイズも

ワルクワ艦隊とは離れ、単独航行していたのである。

このデブリの中には、ロアーソンに住んでいた3億人の数の

人の死体も含まれている。

もちろん、ブレイズがワルクワ艦隊から逸れたのは、

マリーから報告を受け、ワルクワ艦隊から離れる判断をしたという理由も大きい。

ブレイズの格納庫に着艦したティープは、

ルシュヴァンのコックピットから出ると、急いで艦橋へと通信を繋ぐ。

格納庫に存在する有線の電信装置を使ったのは、

無線では他の者に聞かれる恐れがあるからだった。

艦橋に繋がった電話で、ティープはゲイリの所在を聞く。


「ゲイリ中佐に繋いで欲しい。

緊急の要件だ。」


しかし返ってきた返答は、ティープにとっては予想外の返答だった。


「中佐でしたら、焔騎士団と一緒にロアーソンに向かったはずですが。

今は上陸艇の中におり、無事だと聞いております。

大佐はご存知なかったのですか?」


「なに!?」


ティープはブレイズに着艦した上陸艇へと視線を動かした。

今、まさに焔騎士団の隊員たちが、上陸艇から降りてくるところである。

その一団の中に、お目当ての人物を見かける。

フッ!と自嘲交じりに笑うと、受話器に意識を戻す。


「私は知らなかったな。

まぁ、こちらでも中佐を見つけた。

ありがとう。」


そう言うと受話器を置いて、上陸艇へと歩き出した。

ティープの姿を見つけたゲイリも、彼に片手を挙げて応える。

ティープは開口一番、文句を言った。


「なんでお前が、焔騎士団と一緒に行動してるんだ?

もしもの事がどうするつもりだった?

現に、危なかっただろうが!」


ゲイリは軽く視線を外す。


「危険は承知していたが、

クールン人の問題は、直接確認しなきゃいけないと判断した。

過去に事例がない事だからな。

他人任せには出来ないさ。

それよりも、ロアーソンの崩壊・・・・・・。

これはどういう事だ?

原因はクールン人なのか?

お前の隊から、ワルクワ艦隊から離れろとの指示も受けている。

何があった?」


ゲイリは格納庫にある巨大モニターに映し出される光景を見ながら言った。

本来であればそこにあるべき惑星が無数の破片となって宇宙空間を漂っている。

長い宇宙生活の中で、人類は

自身が大気をもたないような岩石型の小惑星の崩壊は経験があったが、

大気を持てるほどの質量のある惑星の崩壊というのは前代未聞である。

前代未聞すぎてアクションに困るほどであった。

だが、被害の大きさは今でも把握できていた。

ロアーソンの人口3億人が宇宙に放り出されたのである。

考えるだけでも、背筋が凍る数字だった。

ティープは一息、呼吸を挟むとゲイリの腕を引っ張り近くに寄せた。


「恐らくだが、クールン人の力の暴走が原因だ。

認めたくないが、恐らくな。

そしてクールン人を巡って、ガルと決別した。

ロアーソンを崩壊させるような力を持った少女をガルが保護した。

そのクールン人は、ガイアントレイブを滅ぼして、

全ての人類をクールン人の支配下に置くと言う。

ガルはそれに協力すると。

荒唐無稽な話だが、ロアーソンの崩壊という事実を見た後では・・・・・・な。」


「・・・・・・・。」


ゲイリは沈黙した。

ティープの話はにわかには信じがたい部分もあったが、

こういうところで嘘をつく男ではない事をゲイリは知っている。

物事を誇張しても言わない男だ。


「人類の支配か。

つまり、クールン人というバックボーンを得たワルクワ王国が

この琥珀銀河を統べる。という事だな?」


ようやく出たゲイリの言葉に、ティープは頷く。


「だから、お前を探していた。

外交問題にもなりかねない話だ。

それなのに、お前ときたら・・・・・・。」


「相談されても、俺にもどうしていいかわからんよ。

外宇宙から宇宙人が攻めてきたようなものだ。

相手の狙いや、価値観がわからないようじゃ対処しようがない。

様子を見てその都度、臨機応変に動くしかないな。」


ゲイリは答える。

彼はスノートール帝国の軍師のような立場であるが、

一種の天才ではなく現実主義者で、答えのないものを導くのではなく、

答えがあるものの、正解を導き出すタイプの男である。

前代未聞の事態に対応するのは彼の本質ではない。

もちろん、その前代未聞のハードル自体は、他の人間よりも高かったが、

少なくとも現時点では、彼の許容範囲を超えていたのである。

情報が少なすぎたのだ。

ゲイリの言葉を受け、ティープは大きくため息をつく。


「ふぅ・・・・・・・。

なんでこんな事に・・・・・・。

ガルの奴・・・・・・。

あいつこそ、クールン人の魔法という力の危険性を

理解してもいいだろうに。」


「理解しているだろうさ。

その上で、御せると思っているのだろう。

むしろ、自分でなければ御せないぐらいまで考えているかも知れない。」


「アイツは、そんな奴じゃ。」


「ティープ、お前はガルの評価が甘過ぎる。

ウルスを側に見ていたから、気付かなかったのかも知れないが、

王族のウルスと張っていた男だぞ?

ウルスの肩書きがなければ、立場は逆転していたかも知れない。」


ゲイリは言った。

確かに、ウルスはリーダーとしての素質が高く、

ガルは一匹狼のイメージがある。

だが、ウルスのリーダーとしての素質は、王族であるという

立場が彼のリーダーシップにバーストをかけているのは

間違いなかった。

そして、ウルスが居たからこそ、ガルは孤高の存在になった節もある。

もし、ウルスが同世代にいなければ、

ガルのリーダーとしての素質が開花したかもしれないのだ。

ティープは頭を抱えた。

ガルが言うように、自分達の存在が彼を追い詰めてしまったのかも知れないと

考えたからである。

だが、ティープは考えを一旦保留し、ゲイリに告げなくてはいけない事を思いだす。


「そうだ。

ロアーソンを崩壊させたと思われるクールン人の

姉をこちらで保護している。

彼女の力は強くないと思われるが、

クールン人はクールン人だ。

処遇は任せるが、彼女は普通に、一般人として

生きたいらしい。

希望は出来るだけ叶えてやって欲しい。」


「いいのか?

クールン人は、カレンディーナ少将の仇だろ?」


「そういう事を遠慮なく聞くのは、お前の悪い癖だな。

察してくれ。」


ティープとゲイリは視線を合わせると、フッとお互い笑った。

なんとも言えないやるせなさが場の雰囲気を染める。

彼らはまだ、この状況に戸惑いを隠せていなかったのである。


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