1章 9話 4節
コックピットに写る全包囲型モニターの星々が後方に流れていく。
加速をつけたスノーバロンは、ワルクワ製FGキトへと
突っ込んでいった。
相対するミラージョは剣を構える。
「腹を括ったか!?
その心意気や良し!
だが、勇気と無鉄砲とは彗星と流れ星ほどに違いがあるぞ。」
スノーバロンはキトまで一直線に突っ込んだ。
武器を持たないスノーバロンの攻撃手段は
体当たりぐらいしか考えられない。
猛スピードで猪突してくるスノーバロンに対しても
ミラージョは余裕があったのである。
そして、ミラージョは距離を計ると、
ロンアイソードを水平になぎ払う。
そのタイミングは完璧で、高さもスノーバロンの胸の高さに
合わせていた。
脚や背中にブースターがあるFGは、上方への移動が主である。
肩などに逆噴射用小型ブースターはあるが、
移動用というより制止用であり、
足元に沈み込むような動きは想定されていない。
胸の高さに剣を振るえば、FGは上空へと逃げても、
腰から下を叩き切られることになる。
ミラージョの剣捌きは、見事だった。
しかし、ロンアイソードが当たる瞬間、
ふっ!とスノーバロンが視界から消える。
タクはスノーバロンを下方へと移動させるのではなく、
上半身を沈めた。
重力のない宇宙空間では、態勢を無理に変えたとしても
それまでの慣性で物体は動き続ける。
タクはスノーバロンを前屈みに屈折させる事で、
ミラージョの剣の下を掻い潜ったのだった。
「しゃがんだ!だと!!」
そして、慣性の勢いそのままに、キトの右わき腹の辺りを
通り抜ける。
全力で剣を振るっていたキトは、真横をすり抜けるスノーバロンに
対応できなかった。
「しまった!!!
ルパンダ!!
敵がそっちに向かう!!」
慌てて通信機に向かって叫ぶ。
決して油断していたわけではなかったが、生身の人間のような動きに
完全に虚をつかれた格好だった。
仮に、ロボットが前転を出来るか?と聞かれれば、多くの者が
その姿を想像する事が難しいであろう。
それと同じく、ミラージョにとって、
FGが前屈みに剣筋を避けるとは想定していなかったのである。
だが、それを予想していった者がいる。
ルカゼだった。
ルカゼは自身が放った攻撃を、タクは次々に交わしていったのを見ている。
彼女は、ミラージョの剣捌きも、タクならば交わすかもしれないと考えていた。
FGを前屈させるタクといい、交わしてくるだろうと予想するルカゼといい、
子どもの発想には柔軟性がある。
惑星崩壊という前人未到の戦場に於いて、場を支配したのが
子ども達であったのは、偶然ではない。
先の読めない現場での柔軟な発想が、この場所には必要だった。
そもそも、クールン人の魔法と言う力こそが、
未知の力であり、先読みを不可能にしている。
経験がモノを言わない世界がここにはあったのだ。
そのルカゼが勝ち誇ったように嗤う。
「ははは!
小ざかしくウロチョロする小者だから、
その行動は読んでいたよっ!」
ミラージョの剣先を掻い潜ったスノーバロンの前に
巨大な土の塊が飛んで来ると、回避行動を取れなかったスノーバロンに衝突する。
「ぐあ!!」
「きゃああああああああ!」
タクは辛うじて、スノーバロンの両腕と両脚を前面に屈折させ、
胴体への直撃を避けた。
幸いにもルカゼが操っていたのは、土の塊だったので
鋼鉄やコンクリートとは違い、衝突のエネルギーは吸収されるが、
それでも巨大な物体の衝突は、スノーバロンを後方へと押し返す。
「くそっ!コントロールが!!」
タクはなんとか押される力を受け流そうと、レバーを操作するが、
衝突のダメージで、一部のコントロールが失われたスノーバロンは
衝突のエネルギーから脱出できない。
それをルカゼは狙ったかのように言い放つ。
「ハルカも同乗しているみたいだから、命だけは助けてあげる。
でも、私の前に2度と立たないで!
今度立ち塞がったら、次は容赦しない!」
押し返されるエネルギーに顔を歪めつつ、それでもハルカは
ルカゼに呼びかける。
「ルカゼ!
どうしたのよ!?
一緒に静かに暮らそうよ!
大婆さまたちも呼んでさ。
みんなで、どこか静かな場所でゆっくり暮らそうよ!」
「だから、そんな場所が何処にあるってのさ!?
琥珀銀河から、外宇宙にでも出る?
私たちだけで!?
女性しか存在しないクールン人だけで!?」
「スノートールの皇帝さまに守ってもらおうよ!
私たちの力と敵対したくないなら、保護しろって言えば
そんなに難しい話じゃないと思うよ!?」
「そのスノートールが戦争で負けそうになったらどうなるさ?
保護する見返りに、力を貸せって言ってくるに決まっている。
だったら保護される対象は、今一番力のあるワルクワしかない。
そして、どうせ力を貸せって言われるんなら、
最初から魔法を高く売り込んだほうがいいじゃない!」
「それは、人を殺すの?
さっきみたいに・・・・・・。
その先に、クールン人の未来はあるの?
私たちは、30人もいないんだよ!?
人類の恨みを買って、それで幸せになれるの!?」
ハルカの叫びに、一瞬、ルカゼの言葉が止まる。
まるで覚悟を決めるための時間のようだ。
ティープは二人の会話を聞きながら、交渉は決裂したと感じている。
今、行われているのは、ハルカの交渉の場ではなく、
ルカゼの決意表明の時間であるように感じていた。
ティープの予想通り、ハルカは言葉を絞りだす。
「ああ、殺すね。
自分自身の未来のためなら、なんだってやってやる。
だからサ。
ハルカ・・・・・・お姉ちゃん。
ここでお別れだよ・・・・・・。」
「ルカゼーーーーー!」
ハルカの絶叫が宇宙空間を満たした。
それは双子の姉妹の、別れの瞬間だったのである。




