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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 9話 5節

「タクッ!!!」


土砂の塊に押され、吹き飛ばされるスノーバロンを見て、

ティープは叫ぶと操縦桿を倒し、旋回した。

エクセルハーツと距離を取ったのである。

その動きを見たガルの口元が歪んだ。


「フッ。

退くか?

ならば、ルカゼ様は我々のモノだ。

そもそも、本人がそう望んでいるのだ。

貴様に止められる筋合いのモノではないのだがな。」


既にルカゼを手中に収めたガルは不敵に言う。

ティープは返事をする前に、スノーバロンが飛ばされた方向へと

アクセルを踏みこむと、タクが飛ばされたほうへと光の線を描く。


「あの力は、人類の敵になる!

彼女がそれを望まなくても、他人があの力を拒絶する!

それを力で押さえ込もうとでも言うのか?

ガル!

お前だけじゃない!

あの力で人を押さえつけようとしたら、

お前の子孫、子ども達まで、人類の敵と認定されてしまうぞ!」


「はははっ!

そのぐらいの業、私の血を受け継いで生まれるのであれば、

背負ってもらわねばならぬよ。

滅ぶのであれば、それは自己の能力の無さだ。

自己責任というものだよ。」


「薄情なっ!」


ティープは吐き捨てると、ガルとの通信を切り、

スノートールの非常用回線に繋ぎ直す。

非常用回線は電波が届く距離は短いが、非常用通信として

ネットワークの太い通信だった。


「タク!ハルカっ!聞こえるか?

操縦は出来るか?」


通信の先ではノイズが酷い。

ガコガコガコと機械が震える音が聞こえる。

慣性でかなりのGがかかっているようだった。

だが、タクの返答が返ってくる。

まずは、ティープは胸を撫で下ろした。


「父さん、エネルギーが!

こいつを押し返すほどの出力が出ないよ。」


「腕は動くか?

左腕で岩を押して、機体を横に回転させるんだ!

転がるように!」


「やってみる!!」


生命は重力下での生活で進化してきた。

宇宙では、地上で有用であった機能のほとんどが無用になったが、

それでも生命の造型は素晴らしいものがある。

特に四肢の発達は、生命に多くの自由を与えた。

FGが人型ロボットである理由は、その多くが浪漫であったが、

実用性の面でも秀でていると言えた。

例えば、腕が8本あるロボットを作成したとしても、

人がその8本の腕を有効活用するためには特殊な訓練が必要だった。

8本の腕を同時に、別々の動きで操作する事は無理だった。

能力をフルに使うためには、造型は四肢であることが理想だった。

FGが人型であるのには、理由があったのである。

タクは左手で土砂を押すと、

時計と反対回りにクルリとFGを回転させる。

スノーバロンは転がるように土砂の圧迫から逃れた。

しかしここは無重力の宇宙である。

後方に飛ばされていたスノーバロンが

岩石から逃れたとしても、そこで自然に止まる訳ではない。

回転し、方向感覚がなくなる中でタクはエンジンのブースターをいれ

静止を試みる。

どこを向いているかもわからない。

どっちへ向かえばいいかもわからない。

だが、タクは感性で機体を制御しようと努力した。

隣ではハルカが、激しく揺れるコックピットの中で

必死に椅子に縋り付いていた。

彼女のためにも、タクは出来るだけ早く、

スノーバロンの制御を取りもどす必要があったのである。


「くそぉぉぉぉぉ!」


宇宙空間で錐もみ状態でクルクル回る。

タクは必死に操縦桿を引いた。

どこを向いているかはわからなかったが、

減速し静止すれば、後はティープやマリーが座標の情報をくれるだろう。

だが、激しい回転は脳を揺らす。

重力がないからこそ、回転による遠心力がモロに脳にダメージを与えた。

ようやく、スノーバロンの回転の勢いを抑えると

バッカーで流れている方向を計算させ、逆噴射させる。

まずは止まる事を優先したが、再計算には時間がかかってしまう。

ティープらとはかなり距離が離れた可能性を考えるが、

タクはレーダに写る光源を見て安心した。

ティープのルシュヴァンが、タクを追いかけてきてくれたのだった。

広大な宇宙空間で遭難してしまうと、

捜索にはかなりの時間を要する。

ティープ機がスノーバロンを見失なわなかった事に

タクは感謝した。


「父さん!こっちです。

でも・・・・・ルカゼは?」


通信を繋ぐと、まず感謝の気持ちを述べたが、

ルカゼの事も気になった。

こちらにティープが来たということは、

戦場を放棄して、タクを追いかけてきたという事であり、

ルカゼを保護する時間はなかったかのように思える。

もちろんティープの返答はタクの予想通りだった。


「ルカゼは、自ら進んでワルクワの陣営に加入する意思を見せた。

無理に攫えば、外交問題に発展する。

今は諦めるしかない。

それに、スノーバロンにはハルカも乗っている。

見捨てるわけにはいかないだろう?」


回転が収まったスノーバロンのコックピットで、

ヘタヘタと座り込んでいたハルカがティープの声を聞いて

ようやく顔をあげた。


「へぇ。私の事も考えてくれるんだ!?

優しいね。

でも私、ルカゼみたいにすっごい魔法は使えないよ?

ボールペンぐらいの大きさなら、触れずに持ち上げられるけどサ。」


「そういうのは関係ない。

君は民間人だからな。

民間人を救出するのは軍人の務めだ。」


ティープはそっけなく返す。

ハルカは口を尖らせた。


「ふぅん。まぁいいけどさ。」


この時のハルカの言動は、違和感を感じるものがある。

惑星一つが崩壊し、双子の妹がそれに関与しているかもしれないし、

二人の交渉は決別し物別れに終ったというのに、あまりにも

あっさりとしていたからだ。

その違和感はティープだけではなく、タクも感じていたが、

それを口に出すのは憚られた。

何故なら、常人が想定できるような状況でなかったからである。

今起きている事が、常識外の現象であるなら、

目の前にいる少女もまた、常識外であると考えるのが普通だった。

彼らは一般常識捨てた。

否、捨てざるを得ない状況であったとも言える。

正直、どういう風に考えるが正しいのか?

誰もわからなかったのだった。


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