1章 1話 5節
モルレフ曹長も現実を受け入れられないようであった。
「磁力か?
磁力でFGに吸い付かせているのであれば理解は出来る。
それでも、かなり近づけなければならないが。
だが、目の前に見える機雷郡は、
磁力だけでは片付けられない動きをしているぞ!
我々の周囲を、まるでハンターが獲物を狩るかのように
様子を伺うかのように、近付くタイミングを計っている!
生きているかのようにだ!
あれはなんだ?
ただの機雷とは思えん!!」
「落ち着きな!モロレフ曹長。
何かはわからないが、存在さえ掴めれば対処は出来る。
カラスの群れに襲われてるとでも考えればいいさ。」
カレンディーナはモロレフにそう答えたが、
カラスというのは遠い過去に存在した生物である。
今でも人類発祥の惑星では存在しているかもしれないが
琥珀銀河には存在しない生物であり、
神話の中でしか知り得ない。
しかし、神話の中のカラスは人類並みに知能が高く、
狡猾な生物として描かれる。
彼らを取り巻く機雷郡の群れをカラスに見立てるのは
カレンディーナのセンスの良さと言えた。
2人の会話の間にも、マリーの計算は続いている。
「シミュレーションでました。
機雷の数、約3500!
巡洋艦ブレイズを轟沈させるに充分な数です。
対空砲で迎撃できるとしても、
機雷の動きが直線的な動きではないため
迎撃しきれるかは未知数。
推進力が不明で、予測射撃も困難です。」
「つまり、あいつらの正体を突き止めなければ
船が危ないって事かい。
嫌な話だね・・・・・・。
マーク、私の後ろにつきな。
突っ込んで敵の謎を暴く。
マリーとタクは、私たちのフォロー。
モロレフとフィグナーは、マリーたちを守ってくれ。」
「承知した!」
カレンディーナの指示と同時に、それぞれの機体のバーニアが稼動する。
カレンディーナとマークは2機で、機雷郡のほうへと突っ込んでいった。
マリーがマシンガンを乱射し、牽制射撃をした。
タクは一瞬動きが遅れる。
モロレフ曹長がタクに声をかけた。
「安心しろ。お前らは
俺たちがフォローする。」
「あっ・・・・・・はい。
タク二等兵。撃ちます!!」
ガガガガガガガガガガガッ!
タクのマシンガンも火を噴いた。
カレンデーナたちが突貫した方向へとマシンガンの弾を乱射する。
まずは、宇宙空間を飛翔する機雷郡の運動性能を確かめなければならない。
FG並みに動くのか?3500機がそれぞれ独立して動いているのか?
それとも連動しているのか?
推進力はなんなのか?
少なくとも、このまま船に近付けるわけにはいかなかった。
マリーとタクのマシンガンでの攻撃は、
対象との距離もあって、むなしく空を切る。
3500もの数があっても、直径は1mも満たない機雷である。
ただでさえ撃ち落とす事は難しい上に、
敵は攻撃を回避する。
あくまでも2人の攻撃は援護に過ぎなかった。
その間に、カレンディーナとマークの両機が機雷郡に迫った。
光の乏しい宇宙空間では、対象を目視する事は難しい。
物理レーダのみが頼りである。
ピッ!
マーク機の物理レーダの一角が赤く光る。
カレンディーナからの信号であった。
赤く光ったポイントにある機雷郡を狙うという合図であった。
マークは操縦桿を右に倒し、カレンディーナと二手に別れた。
挟み込むつもりである。
マークは射程圏内に機雷郡を捉えるとマシンガンを構えた。
「どうやって動いているのか知らねぇーが、
どんなもんだよ!」
ガガガガガガガガガッ!
秒速20発の弾が漆黒の空間に吸い込まれる。
狙われた機雷郡は、まるで水族館で見る魚の群れのように連なって
弧を描いて銃撃を避けた。
一糸乱れぬ連動した動きはマークが狙っていたところである。
「やはりな!
1機1機、個別で動いているんじゃない。
連動している。
マリー伍長!敵はどこかに潜んで、機雷郡を操っている奴がいる。
見つけられるか?」
「あっ!はい!探します!!!」
マリーは即座にディスプレイを叩いた。
機雷郡は闇雲に動いているのではない。
まるで獲物を狩りとるかのように、距離をとり
FG部隊を遠巻きに眺めている。
マークの攻撃にも避けてみせた。
誰かが、何かが操っていると考えられた。
AIの類かもしれないが、
確実に司令塔がいるのだ。
マリーはコンピュータを駆使し、その存在を探す。
その間、タクは呆然としていたと言っていい。
確かにカレンディーナの指示に従い、マリーと共に
援護射撃を実施していたが、何かを考えながらやっていたのではなく、
脳死状態でただマシンガンをぶっ放していた。
戦場の空気に慣れていないものあったが、
思考が追いついていなかったのである。
もちろん、それを咎めるのは酷と言うものであろう。
誰しも初めての経験のときは、同じようになるものである。
頭が回っていない状態ではあったが、
真面目に言われた事は実施していた。
新人のアルアルだと言っていいだろう。
そして、マシンガンで援護射撃を行いながら、
周囲の空域を舐めるように見ていた。
頭の中は真っ白であったが、それが良かったのかもしれない。
再び、星の揺らぎを見つけたのである。
タクは反射的に反応した。
「星が揺らいでるポイントを発見!」
同時に、マリーもコンピュータの試算がでたことを叫んだ。
「計算でました!
敵が潜むなら・・・・・・。」
2人の声が揃う。
「U-67!!」
「U-67ポイントっ!」
2人のハモった声にカレンディーナとマークは反応する。
同時に2人は銃の向きをU-67ポイントへと向けた。
そして、すかさずビームライフルとマシンガンが火を噴いたのである。