1章 9話 1節 決別の決断
星を背に宇宙空間に佇む少女。
先ほどの研究所の食堂で、空中に浮かぶルカゼを
見ていたが、宇宙空間に生身で佇む姿は、
また別の異様さがあった。
第一声は姉のハルカである。
「ルカゼ!生きていたのね!
やっぱり、ルカゼは凄い!」
能天気な声で、周囲の大人たちの毒気を抜いた。
その声と同時に、タクとガルはお互いの距離を取った。
殴りかかろうとした剣を折られたタクは
あからさまに気が動転している。
「ルカゼ?
今のはルカゼがやったのか!?
なんで!?
俺は君を助けようと!」
ピキーーン!
タクの声の後、この場にいる者たちの脳に信号が走る。
そして、ルカゼの声が頭に響くのだった。
「あんたは、私を惑わせる。
不愉快なんだよ!
私を助ける?
助けるというのであれば、私の計画に協力すべきなんだよ!」
「君の計画って・・・・・・。
人を支配しようと言うんだろう?
そんなの認めるわけがないじゃないか!」
「だったら黙ってなよ!
人の心に土足で!
ハルカも何でそんな奴と一緒にいるのサ!」
名前を呼ばれたハルカは、コックピットに身をのりだす。
「ルカゼ。逃げよう!
人の戦いに巻き込まれることないよ!
皆で一緒に逃げようよ!」
「逃げても!!!
私たちクールン人が穏やかに暮らせる場所なんてっ!
・・・・・・そいつらだって信用出来るもんかっ!」
「信じてくれ!ルカゼ!
俺は、君達を助けようとした母さんの遺志を継ぎたい!」
「黙れっ!!!!」
ルカゼは右手を左に払うと、スノーバロンの近くにあった
地面の塊がスノーバロンに突っ込む!
いきなりな攻撃にタクは避けられず、両手でカバーするのが
精一杯だった。
「ぐあああああああ。」
「きゃあああああああ。」
しかし激突した地面は土の塊だったため、鋼鉄のFGにぶつかったが、
逆に土の塊が砕け散る。
それでも、中に乗っていたタクらは多少のダメージを受けた。
「こんな事をして!
こっちにはハルカだって乗ってるんだぞ!」
「うるさいっ!うるさい!うるさいぃぃぃ!!」
無重力で浮かび上がった物体が、次々にタクに向かって動きだす。
中には鋼鉄で出来たビルの破片のようなものまで飛んでくる。
しかし、不意打ちでなくなった攻撃をタクは器用に避けた。
このあたりの操縦技術は、ベテランパイロットと見間違うほどである。
「こいつ、ちょこまかと!
いちいち、気に触る!」
ルカゼは吐き捨てた。
その間もティープは巡洋艦ブレイズの信号を探している。
想定外の事態に、ゲイリのアドバイスが聞きたい。
しかし、見つかるはずのブレイズの反応はなかった。
惑星の崩壊に巻き込まれたのであろうか?
だが、同じ場所にいるはずのワルクワ艦隊の反応も見つからないのである。
普通に考えて、それは有り得ない。
「マリー!
ブレイズの反応がない!
そちらでは何か拾ってないか?」
ティープの問いかけにマリーはコンソールを叩いて、同じくブレイズの反応を探す。
「こちらでも反応は見つかりません。
もしかして!」
そう答えると、更にコンソールを叩く。
「やっぱり!
大佐、我々は惑星の元いた場所からかなり離れています。
恐らく地面と一緒に、惑星の自転で飛ばされてしまったようです!
座標送ります!
ブレイズからはかなり距離が離れました!」
マリーはティープに現在地の座標を送った。
ティープらは、真下に見える地面と一緒に
惑星の自転により遠心力で、かなり遠くまで流されていた。
真下に見える地面は広大な広さの塊であり、元々海があった場所には
海の水が水玉のように宙に浮かんでいたため、
宇宙空間を流されている事に気付かなかったのである。
言うなれば、海水浴で海の中にいたら、いつの間にか沖まで流された感じに似ている。
周囲も同じスピードで飛ばされていたため、周囲の風景に変わりがなかった。
そのため気付くのが遅れてしまったのだ。
しかし、この状況は不味い。
ティープはガルも含めたこの場にいる全員に通信を飛ばす。
「ロアーソンの遠心力で俺たちはかなり元いた場所から流されている。
ブレーキをかけなければ、宇宙の果てに飛ばされるぞ!」
ティープの通信を受けた各FG、そして上陸艦のエンジンに火が灯った。
エンジンの噴射によって、真下にある大陸が後方に流れていく。
ティープらはあくまでその場に静止しようとしたに過ぎなかったが、
周囲が流されていたため、周囲の風景が動く。
そして、海の水が水玉になり大量に浮かんでいる空間に突っ込んだ。
バシャバシャバシャ!と機体に、大粒の雨のように水玉がぶつかっては拡散する。
もちろん、FGや艦船には問題がなかった。
問題は、生身の身体でいたルカゼである。
彼女は、大気のない宇宙で信じられない事に
宇宙服なしで生存していたが、
宇宙空間を移動する方法がわからなかったのである。
大気があれば、大気で自らの身体を押せばよい。
だが無重力空間では、媒体になるものがなかった。
大地と共に、遠ざかるルカゼに気付いたのはタクである。
隣にいるハルカもルカゼの異変に気付く!
「まずいよ!タク!
クールン人は自分がイメージしたものでしか、魔法は使えないんだ!
たぶん、ルカゼは宇宙空間で移動するイメージが作れてない!」
「なに!?」
タクは操縦桿を倒すと、FGを振り返えらせる。
そして再び、遠ざかる大陸に向けエンジンを吹かせた。
慌ててマリーがデータを送る。
「タク!電磁波の乱れで、離れすぎたら
信号をキャッチできなくなるよ!
距離には注意して!」
「わかった!
ルカゼを回収したら、すぐに戻る!」
その様子を、存在を忘れられたガルが呆然と眺めている。
ガルは、食堂でルカゼの力の一端を既に見ている。
信じられない事ではあったが、心のどこかでは、
目の前の光景に疑いを持っていた。
何かトリックがあるのではないか?と考えていた。
現場となった研究所は、元々ルカゼたちが住んでいた場所だったし、
研究の内容さえも不明である。
仮に、研究所の至るところに、超能力と見せかける仕掛けが施してあり、
彼女らの力はそれを利用しただけの
トリックだったかも知れないと考えていた。
だからこそ、その証拠を掴むためにルカゼを調べたかったのだ。
だが今、目の前で繰り広げられている光景は、
トリックなど無いように思える。
宇宙空間を生身で存在するなど、彼の想像を超えていた。
FGから送られるデータが、この場所が真空の宇宙空間であると告げている。
では?何故ルカゼは、生身で宇宙空間で生きているのだろうか?
ここには、マジックのタネも仕掛けもないのである。
「ははははははは!!!
素晴らしい!素晴らしいぞ!
この力、本物だ。素晴らしいと認めざるをえん!」
ガルの高笑いが反射のない宇宙空間に広がってゆく。




