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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 8話 5節

改めて周囲を確認したタクらは驚愕する。


「モノが浮いて・・・・・・。

視界もクリアになっている!」


視界がクリアになるというのは、遠くのものまで

ハッキリ見えるようになっていく感覚だった。

宇宙の星が何万光年と離れているのに

輝きが見えるのは、途中の空間がクリアだからである。

つまりそれは、宇宙空間に大気がないからであった。

今まさに視界がクリアになると言うことは

大気と言う物質が薄れていっているという事だった。

大気は光を反射する。

空が青く見えるのは、海の水を大気が反射するからである。

恒星からの光はあるのに、空が段々と夜になる。

青い空の空間に黒い穴が開いたかと思うと、

その暗闇は広がるように、黒い夜空に侵食されていく。

空は夜になるが、大地には恒星からの光が地面を照らし、

まさに大気のない岩石惑星の表面のような光景になっていった。

だが、彼らは宇宙を知る者たちである。

珍しい光景ではない。

ティープはすぐに頭を切り替えた。


「マリー!計測した数字は正しい!

状況は、重力が喪失した状況と一致する。

重力がなくなり、惑星上のモノはそれまでの自転の遠心力で

飛ばされていっている!

大気も、海も、大地も!

問題は、何故?重力が喪失したか?だが・・・・・・。」


「父さん、それは、わかってるよ・・・・・・」


ティープの言葉に、タクは反応した。


「わかるのか?タク!」


「うん・・・・・・。

僕らが今いる地表は、もう地表じゃないんだ。

正確には、ロアーソンでもない。

ローアーソンは、もう・・・・・・。」


そう言うと、タクは周囲の画像データをティープとマリーに送った。

データを見て、絶句したのはマリーだった。


「!!!

そんな・・・・・・。

惑星が・・・・・・ロアーソンが粉々に・・・・・・。」


タクの送った画像は、空に見える物体であったが、

今、タクらがいる夜になった空には、様々な物体が浮かんでいるように見える。

送信したのは遠距離にあるそれらを拡大した画像だった。

写っていたのは岩石の塊だけではなかった。

その岩石の拡大映像に映し出されたものは

ビルが立ち並ぶ都市郡であったり、木々が生い茂る森の塊であったり、

地上のあらゆる光景が、点在するかのように浮かんでいたのだ。

ティープが言葉を続ける。


「まさか、俺達がいるこの場所も、

もはや惑星の地表ではなく、宇宙に漂う岩石の一つという事か。」


「それなら重力の喪失の説明がつきます!

私たちのいる場所が、ただ宇宙に浮かぶ岩石の一つであるなら

弱い重力しか発生しない!

でも・・・・・・。

でも・・・・・・、ロアーソンには、3億人の人々が・・・・・・。」


マリーの言葉は、ティープが考えないようにしていた内容だった。

星が粉々に砕け散る。

それがどう言う事なのか?

ロアーソンには3億人の人々が住んでいたのだ。

だが、周辺を観察していたタクはマリーの言葉の意味を既に画像で捉えていた。

二人には送らなかったが、拡大して映された画像には

大量に宇宙空間に投げ出された人工物と人そのものが写っていたからだ。

漂うビルの中に取り残された人々。

酸素がなくなり、ビルの窓の中でプカプカと浮かんでいる人々の映像さえも

タクは捉えていた。


今まさに彼らは、地動説にある大陸のような場所にいる。

地上がありその地下は奥深くなく、平坦な大地の上に人が住んでいる空間があるが、

地動説のイラストと違うのは、

そこには重力がなく、海の水は空中に漂い、大気を重力で捉え続ける事も出来ず、

ただの岩石惑星でしかなくなってしまった。という事である。

そこに、人が住める世界はない。

ティープは下を俯くと、歯を食いしばった。

歯を食いしばって言葉を捻りだす。


「ハルカ!

ルカゼか?これはルカゼがやったのか!?

クールン人の力は、これほどの事が出来るのか!?」


それまでタクらと同様に、状況に気圧されていたハルカも

ティープの問いに意識を取りもどす。


「わからない!わからないよ!

こんな大きな力!大きすぎて、ルカゼの力なのか?わからない。

でも・・・・・・こんなの・・・・・・・

こんな力・・・・・・。」


「見つけたっ!」


咄嗟に叫んだのはタクだった。

彼は一心不乱にモニターを切り替えながら

様々なモノが漂う空間で、探し物をしていた。

タクの声に、思考停止状態だったハルカも驚く。


「ハルカッ!父さん!

ルカゼを見つけた。

生きているかわからないけども。」


そう言うと、ティープとマリーに画像とデータを送る。

モニターには、空中を生身の身体で、キリモミ状態で漂うルカゼが写っていた。

ルカゼ自身に動きはない。

気を失っているか?もしくは死んでいるのか?判断できない状態である。


「ルカゼ!」


ハルカの声に、タクは応える。


「回収する。

父さん、マリーさん、援護頼みます!」


タクはスノーバロンの手を、強襲上陸艦から離した。

もはやここは宇宙と同様、無重力空間である。

揺れを避けるために持ち上げた船も、

もはや支えがなくても浮かんでいられる状態だった。

スノーバロンはエンジンを灯すと、

ルカゼの漂う方向へと流れるように近付いていく。

漂っているのは生身の人間である。

細心の注意が必要だった。

しかし、マリーの警告が飛ぶ!


「タク!3時の方向に熱源!」


「ちっ!ワルクワのFG!」


ティープは慌てて機体を3時の方向に発進させた。

彼がワルクワのFGと即座に判断できたのは、

この付近に存在する熱源と言えば、他に想像がつかないからだった。

ティープは通信を繋ぐ。


「ワルクワのFG!

それは危険だ!

我が軍で回収する。」


ティープの通信に返事が返ってくる。


「ん?白いFGに、その声、ティープか!?」


「ガル!?良かった!無事だったか!」


しかしガルの声には無事を祝う喜びのトーンではなかった。


「ティープ!さっきのは何だ!

お前達は何を知っている!?

何を隠している?

それにあの力・・・・・・。」


「黙っていた事は謝る!

だが、あれは俺の婚約者を殺した力だ!

アレを野放しには出来ない。

俺達に任せてくれ!」


だが、通信の合間にも、ガルの乗るFGエクセルハーツが

ルカゼに近付いていった。


「任せるだと!

惑星を破壊するほどの力を、お前たちに!?

出来るかそんな事。

この力はワルクワで調べさせてもらう!」


「ルカゼから離れろー!」


ティープとガルの通信に割って入ったのはタクだった。

タクはスノーバロンのアクセルを一気に踏みこむと

ルカゼとエクセルハーツの間に入ろうとする。


「試作機のパイロット!?さっきの少年かっ!?

子どもが口を挟むな!これは大人が判断すべき案件だ!」


「お前らだって、ルカゼをモルモットにする気だろう!

ルカゼから離れろよ!彼女は自由になるべきなんだ!」


「アレは我々、ワルクワ軍の兵士を殺している!

自由になるだと!ふざけた事を言うな。

例え遺体であるとしても、調査する権利は我々にもある!」


「離れろって言ってるんだ!!」


加速したスノーバロンは、腰の鞘からロンアイソードを抜いた。


「ガル!タク!やめろ!」


ティープは叫んだが、タクの反応は早かった。

一気にエクセルハーツの懐に入る!


「こいつ!友軍を攻撃する気かっ!!」


タクのあまりにも想像を超えたスピードに、

ガルは操縦桿を引くと同時に、エクセルハーツのロンアイソードを構える!

ガシィィィンン!と剣と剣がぶつかり合った。

勢いはあったが、タクもガルも相手を傷つける事は考えていなかったため、

剣と剣を合わせる事が出来たのだったが、切りかかられたガルとしては

笑い話ではなかった。

鍔ぜり合いから相手を押しにかかる。

ガルの怒声が通信機を振るわせた。


「ティープ、新人の教育がなっちゃいないようだな!

こいつを下がらせろ!

私に剣を向けた罪は、許してやる!

遺体はワルクワで回収する。

お前らは引け!」


「父さん!!!ダメだ!こいつらに渡しちゃ!!!」


ギギギと剣と剣が擦りあう。

ティープは判断に迷っていた。

惑星崩壊の原因がルカゼにあるかは不明であったが、

ワルクワの兵士をルカゼが殺した事は事実である。

ここでガルを引かせることは出来ないであろう。

しかし、ワルクワにクールン人の情報を渡すことにも躊躇があった。


「ティーーープ!!!」


「父さん!!!」


流石のエースパイロットであるティープでも、

この場面で瞬時に決断する事は出来なかったのである。

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