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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~邂逅~

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1章 8話 2節

「うわぁぁぁぁぁぁん!」


大声で一気にルカゼは泣き出した。

泣く姿は、商店街に買い物に来た子どもが

母親に我がままを言ってる時の姿に被るが、

ルカゼは見た目は10歳ぐらいであり、

我がままで泣くにしては、少し年齢が高い。

だが、それが彼女の精神の幼さを感じさせる。

一般家庭ではなく、研究所で被験体として育てられてきたのだ。

もしかすると、本当に精神は幼いのではないかと

その光景を見ていたティープは思った。

タクも同じような感覚に陥る。

孤児として、鉱山の労働者の一人として働いていた時期、

親が労働者で働いている間、労働者たちの

子ども達の面倒を見ていた時期があるが、

そのとき、母親に会いたいと駄々をこねる子ども達の

世話をしていた光景が脳裡に浮かんだ。

常に寂しさに満たされる子ども達。

ルカゼが、その子ども達とダブったのだ。


「理由はあるかもしれない!

でも、お前はやっちゃいけない事をやったんだ!

どんなに理由があっても、やっていい事と、悪い事がある!」


「うわぁぁぁぁぁぁん!」


まるで我がままを言う子どもを叱るようにタクは続ける。


「だけど、やっちゃいけない事をしたとはいえ、

君は銃を向けられていた。

情状酌量の余地はある。

それに、この研究所でモルモットのように扱われていた。

君は追い込まれていたんだ。

やってしまったことは、罪を償えばいい。

今は大人しく、保護されるんだ。」


「グスン・・・・・・グスン・・・・・・。」


泣きながら、ルカゼは力強い瞳でタクを睨む。


「うっぐ・・・人間のルールに従えって言うの!?

でも、そのルールは、人間が作ったものじゃない!

私はそのルールを認めてもいないし、承諾もしていない。

それに!!

人間のルールは、人間のためのルールじゃないか!

人間のルールの下で私たちは自由を失い、

研究材料にされてきたんだ!

そんな、不公平ルールを守る必要ある!?

あなたたちだって、今は見知らぬ他人と殺し合いをしているじゃない!

何の罪もない人と、銃口を向け合って殺し合ってるじゃない!

それが人間のルールって言うのなら、

私はそれは間違っていると思う!

そんな人間社会の歪なルールを、私たちに押し付けないでっ!!!」


ルカゼは叫ぶと、ヘタヘタとテーブル上にしゃがみこんだ。

ルカゼの言葉に、タクは即座には返答できなかったが、

5秒ほどの沈黙後、言葉を絞りだす。


「ああ、人間の社会はクソだ。

貧富の差はあるし、多くの不自由の中に、僅かな自由しかなくって、

人は我侭だし、自分さえそれでよければなんでもいいって奴もいる。

今、僕らはウルス陛下のお陰で、生活が出来るようになったけど、

それだって戦争で、君が言うように殺しあって手に入れた代物で、

基本的に、人はクズだし、社会はクソだ。

それでも、僕らはこの世界に生まれて、

他者と共存して、生きていかなきゃいけない。

共存するためには、一定のルールが必要なんだ!

もちろん、クールン人、君達に対して行った行為は

間違っているとは思う。

君達も、自由に生きていける社会は作らなきゃいけないと思う。

ルールは変えていかなきゃいけないと思う。

だけど、それは強引にやるべきじゃない!

僕達に任せてくれ!

ウルス陛下は、きっといい世界を作ってくれる!!

少なくても俺は、君たちを守る!

俺を信じてくれ!」


タクの言葉を、しゃがみこんだルカゼはじっと聞いていたが、

少しは収まった涙が、再び彼女の瞳を潤した。

2度目の涙腺の崩壊は、さっきと別の意味での感情の揺さぶりである。

ルカゼはグッと唇を噛んだ。

涙を我慢しているかのように、

今、泣きだしてしまうと、何かに負けてしまうかのように

ぐっと、ぐっと、涙を堪えた。

その光景を、ハルカは無表情で見ていた。


「ねぇ?」


近くにいるティープに声をかける。


「ん?」


「いいの?あんな事、言って。

あいつ、ただの一般兵でしょ?

しかも、見習いの。」


「ああ・・・・・・。

だが、守りたいものを見つけたんだろう。

それは、大事な事さ。」


「でも、クールン人の未来だよ?

背負えるものじゃないと思うけど?」


「そうだな。」


そこまで言うとティープは黙った。

確かに、冷静に考えれば、ただの一兵卒でしかないタクが

背負っていけるほどの問題ではない。

魔法という超能力のような、

不可思議な力を持つクールン人の未来など、

例え皇帝であるウルスであっても、持て余してしまう案件だろう。

だがティープは、タクが先日失ったモノを知っている。

家族を知らないタクの、家族になってくれるはずだった

カレンディーナを失ったタクにとって、

生きる目標、軍人として生存するための生き甲斐が生まれる事を

否定する事はできなかった。

父親として、応援したい気持ちもあった。

そのジレンマが、彼の口を閉ざしたのだった。

二人は無言で、タクとルカゼを見守る。

涙を堪えつつ、ルカゼとタクの会話は続く。


「無理だよ。

出来るわけないよ。

研究所に来た信任の先生は、私たちを『化物』って言ったわ。

物以下のように扱われた。

人との共存なんて!」


ルカゼは激しく首を振る。

だが、タクは前に出た。


「信じてくれ!!

人はそんな非道な人間ばかりじゃない!

生まれながら家族がいなくて、孤児だった俺に、

ミネル先生は、『あなたたちは、これまで不幸だったのだから、

これからは幸せに生きる権利がある』って言ってくれた。

僕達の母さんになってくれた人は、

君達、クールン人をも助けようと、戦場で命を張ってくれた。

孤児だった僕らに幸せになる権利があるのだったら、

君達クールン人にも、幸せになる権利があるはずなんだ。

そうじゃなきゃ、不公平じゃないかっ!

今度は、僕が、君達を守る!!」


「ヒック!ヒック!」


涙を堪えようとするルカゼの鼻をすする音が短くなる。

我慢の限界を迎えようとしていた。


「嘘よっ!!!

無理よっ!!!

私を惑わさないで!

人との共存なんて・・・・・・。

無理なのよーーーーーー!!!!」


ルカゼは天井に向かって叫ぶと、凄まじい力が

タクを後方に吹き飛ばす。

不意をつかれたタクは、20mほど後方に吹き飛ばされると、

地面に投げ飛ばされた。


「タクッ!」


ティープが慌てて、タクに駆け出す。

だが、ルカゼの叫びはそれだけでは留まらず地面を揺らした。

否、地面だけではないのかもしれない。


ゴゴゴゴゴゴッ!


という激しい轟音が、大気を揺らし、建物をも揺らす。

真っ直ぐに立つことさえ困難なほどの激しい揺れが

ティープらを襲うと、バキバキバキッという音と共に、

建物の壁や床、天井に亀裂が入る。


「いかん!

崩壊する!!立てるか?タク。

建物の外に避難する!!」


ティープに支えられながら起き上がったタクは、

ルカゼを見た。

ルカゼは、眩いほどの光に包まれ、その姿は目視できる状態ではなかった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


激しい揺れもあって、ルカゼを確認することは出来そうにない。


「父さん!ルカゼが!!!」


「あの子は、力を持っている。大丈夫だろう!」


そう言うと、ティープは腕に付けられた通信機より、

同じく上陸していた焔騎士団と連絡を取る。


「マイーザ大佐!建物が崩壊する。

至急、脱出してくれ。

マリー!聞こえるか?

FGに戻る。直ぐに搭乗できるように準備を!」


そう言うと、揺れで真っ直ぐ立つ事さえできなくなっていたハルカを見た。


「ハルカッ!

ここを脱出する。

君を保護する。

タクの言うように、悪いようにはしない!

信じてついて来てくれ!

タク!走るぞ!!!」


「でも、ルカゼがっ!?」


「彼女たちを守るのだろう!

だったら、まずは生き残る事が先決だ!

覚悟を決めろ!タクッ!」


ティープは足場の悪くなった地面を器用に駆けだすと、

動けないハルカを抱きかかえる。

タクもティープに続いた。

激しい揺れは止む事がなく、建物の悲鳴は更に激しくなる。

ティープらが、食堂を出る瞬間には、

食堂の天井が抜け、大きな瓦礫が食堂内を押しつぶした。

床にも大きな亀裂が走り、地面を割っていく。

研究所は崩壊しようとしていた。


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