1章 7話 4節
テーブルの上で、まるで人を見下すように
椅子に座った少女の不敵な笑みと、その言葉の意味。
恐らく、彼女らは実験の被験者だ。
その彼女らは、自分達をモルモットにとした
ガイアントレイブに復讐をしようとしている。
復讐を実現するために、敵対するスノートールかワルクワの手助けを
求めている。
だから、ここに呼んだ?
そして、復讐が達成された後は、
クールン人が治める世界を構築すると言う!?
一般の人間が聞けば、意味不明の滑稽な話に聞こえるかもしれない。
だが、クールン人は魔法という超常現象を操る。
その力の大きさ次第では、世界を治める事は不可能ではないのではないか?
現に、不老者の世界では人工のAIである
ゴットマザーマリアが、創造主たる人類を管理下に置いているのだ。
AIに出来て、クールン人に出来ない道理はない。
このようにルカゼの言葉の意味を正確に理解したのは、
軍人たちの中ではティープだけだった。
いつもなら、思考よりも身体が先に動くティープだったが、
この時は、身体が動かなかった。
思考が勝った。
自分が何かを決断できる内容ではなかったからだ。
だから、先に反応したのはルカゼと同じクールン人であるモミジだった。
「ルカゼ!
あなた、何を言っているの!?
そんな事、出来るわけないし、
私たちの約束事。
大婆さまの言葉を忘れたの?
【人間の世界に干渉するべからず!】
私たちは人の世界に、自らの意思で干渉してはいけないのよ!」
「その結果が、今の私たちじゃない!
人はクールン人を支配し、利用しようとしている。
チサ姉は、戦場に連れて行かれ、そして死んだわ!
お母さんだって、軍に殺されたようなもの。
あいつらは滅ぶ運命にある!
報いを受けるようなことをしてきた!
そして、クールン人が自由を得るためには、
人類を支配しなくては、未来はナイじゃないっ!!!」
バウゥ!!!
大気が音を立て、振動したように思えた。
まるで高度の高い場所に行った時のように、耳の奥が
キーンと耳鳴りを起こす。
周囲の気圧が変わったようだった。
そして、ルカゼのオレンジ色のショートの髪が
一部、フワフワと重力に逆らうかのように、空中に浮く。
怒りが、感情が、大気に伝染しているかのようだった。
対して、モミジは一歩前に出る。
「支配って。
私たちの力は、人を支配するほどの力はないわ。
そんな事も判らないの?
貴方は、私よりも【弱い】のよ!?」
「フン!
モミジ姉もチサ姉もさ。
馬鹿正直に、軍に全力を晒しちゃって・・・・・・。
あんなの、適当に誤魔化しておけばいいのにさ。
力を見せるから、チサ姉は利用された。
私はそんなに馬鹿じゃない。
クールン人のNo.1は、モミジ姉、
あんたじゃない!」
ゴオオオオ!
今度は確実に大気が動いた。
ルカゼを中心に、まるで爆発が起きた際の衝撃波のように
周囲を吹き飛ばす。
まずは軽い食堂のパイプ椅子がフワッと浮き上がったかと思うと
一気に後方に飛ばされた。
ほぼ同時にタクらも前方から激しい空気の壁が身体を覆うと
床を踏みしめていた両足が浮き上がり、後方へと吹き飛ばされる。
中には、浮き上がった机や椅子に衝突され、
そのまま一緒に後方まで飛ばされる者もいた。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
甲高い悲鳴が聞こえる。
それまで傍観しているしか出来なかったタクが咄嗟に動いた。
「ハルカっ!!」
タクはハルカの腕を掴んで、飛ばされないように力をいれ、
自分のほうへと引っ張ろうとしたが、
タク自身の身体もフワッと腰の辺りから浮き上がりだす。
ダメだ!とタクが感じた瞬間、ドン!と背中に何かが当たると、
左右からタクを抱きしめるように腕が伸びて来た。
ティープだった。
ティープは飛ばされないことを諦め、
タクとハルカを包み込むように抱きしめると、
飛ばされる事に抵抗はせず、宙に舞う。
そして、ぐるり!と身体を半回転させて、
背中から壁に激突した。
壁との衝突から、タクらを守るためだった。
「ぐはぁ!」
思わず一瞬、息が止まる。
「父さん!」
「俺は大丈夫だ。
ハルカは?」
ティープに言われ、タクはハルカを見る。
彼女は首をすくめ、身体を小さく丸めながら、
タクとティープを見た。
「大丈夫・・・・・・ありがと。」
激しく壁に激突した3人だったが、押し付ける力は収まる様子がなく、
3人を壁にそのままの位置で貼り付ける。
移動する事も難しい状態だった。
周囲を見ると、タクやティープたちだけではなく、
ガルやワルクワ軍の兵士達も同様に
壁に貼り付けられたままである。
何人かは、死んでいるのか、気を失っているのか?
人間がとっていい態勢ではない姿で壁に押し付けられていた。
食堂の中で、元の場所に普通に立っているのは、
ルカゼと対峙していたモミジだけである。
ルカゼは相変わらず、テーブルの上の椅子に悠長に座っていた。
ルカゼを睨むモミジを、テーブル上の少女は
楽しそうに見下ろす。
「さっすが、モミジ姉!」
ルカゼは笑うが、モミジは笑っていなかった。
「ふざけるのは止めなさいっ!
魔法は、ふざけて使っていいものではありません。」
「優等生ぶっちゃってさー。
モミジ姉はさ、自分が一番、魔法が使えるって思ってるでしょ?」
「あなた、授業では私に勝った事なかったわよね?
力を隠してたって言うの?
でもこの程度の力では、何も出来ないわ。
魔法を止めなさい。
いい加減にしないと、怒りますよ!?」
「止めれるものなら止めてみなよ!」
ゴォォォォォォォォォ!
更に大気が揺れ、その揺れが強風が吹いたときのような音を伴う。
タクらは、もっと強い力で壁に押さえつけられた。
ティープは小柄な二人をガシッと抱きしめる。
でなければ、一気に吹き飛ばされそうな勢いだった。
「ハルカ、これが魔法の力なのか!?
なんて力だ!
どうにかならないのか?」
「こんな力、ルカゼはこんな強い力は持っていなかったんだけど・・・・・・。
なんなのよー!
ルカゼ、モミジ姉ちゃん、もう止めてー!
やめてよぉー!!!」
ハルカは叫ぶが、大気を揺らす轟音に、彼女の声はかき消されていた。




